愛し愛され愛し合う。
ゆめる
孤独
どうして私だけ
◇
4月上旬。
肌を掠めていく風はほんの少し寒く、そのおかげで日差しが気持ち良く感じられる春の日。
鳳城綾人と幼馴染で恋人の古川茜の2人にとって、待ちに待った小学校の入学式。
綾人と茜の両親は仲が良く、2人が生まれる前からの付き合いだ。
どちらも同じ企業に務めているだけではなくお互いに社内恋愛から結婚したので、他所とは比べられないほどに親密で助け合うような友人関係でもある。
必然というか運命というか、綾人と茜は幼い頃から一緒に過ごす時間が長く、子供ながら将来は結婚しようと言い合う深い関係になっていた。
仲睦まじい夫婦円満な両親を見て育っているのもひとつの要因だろう。
綾人は入学式の身支度を終え、両親と共に茜の家へと向かっている。
茜に早く会いたくて仕方がない綾人は自然と歩く速度が早くなっている。
そんな綾人を後ろから見ている父の秋人と母の綾音は、息子の成長を感じていた。
「綾人は本当に茜ちゃんが好きなんだね。見ていると綾音と付き合い始めた頃を思い出すよ」
「ええ、そうね。愛の深さは私たちから受け継いでますね。これなら孫も早く抱っこ出来そうね」
「茜ちゃんは美人だからきっと可愛い孫を見れるだろう」
「ふふっ……。私たちがお節介を焼かなくても良い夫婦になってくれそうね」
結婚8年目を迎えた2人は、いつもと変わらず楽しそうにしていた。
◇
茜の家は歩いて数分のところにある。
近所に住んでいることもあり、幼稚園、小学校、中学校までは一緒に過ごせることが決まっている。
綾人と茜は一緒にいられることを心から嬉しく思っている。
そんな関係が楽しみな綾人は、家の前で待っている茜たちを見つけて、手を振ると茜がこちらに気がついて笑顔で手を振り返してくれた。
「おはようございます、おじさんとおばさん。茜もおはよう。……今日はすごく可愛いね」
普段の私服も可愛い茜は、入学式のために仕立てた服装もとても似合っている。
黒髪で肩より少し長い髪に温かさを感じるような笑顔を見るだけで、綾人はドキドキしてしまっている。
「おはよう綾人くん。小学校でも茜のことをよろしくね」
「綾人くんおはよう。あらっ……。茜が顔を真っ赤にして照れちゃってるね。初々しくていいわねっ!」
「あ、綾人くんおはようっ!そ、その……綾人くんもすごくかっこいいよ……」
「……ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。じゃあ早速行こうか。せっかくだし手を繋いで行かない?」
「うんっ……。綾人くんの手、あったかくて安心する。……えへへっ」
2人だけの世界をつくりあげている様子を後ろから温かく見守っている両親たちは、少し離れた位置で話しながら追っていた。
「クラスは茜と一緒だといいなぁ。きっと楽しく過ごせると思うんだよね」
「そうだね!学校でも一緒にいられたら全部楽しいかもっ!」
「本当なら同じ家で暮らしたいんだけど……親たちはまだ早いって言うから、会えない時間が少し寂しいな……」
「ふぇ!?……えへへっ。私も同じことをパパとママに言ったよ。早く一緒に暮らせるように頑張らなきゃねっ!」
頬を紅く染めながら、ふんすっと聞こえてきそうな気合いの入れ方をする茜。
そんな可愛らしい天使のような彼女からしばらく目が離せない綾人であった。
◇
茜と両親と共にクラス分けの掲示板を見ると、同じクラスのところに綾人と茜の名前が書いてあった。
「綾人くん見て!私たち同じクラスだよっ!席も隣だから一緒に勉強できるね!」
「よかったよかった。離れ離れにならなくて安心したよ……。じゃあ行こうか!」
「うんっ!行こ行こー!」
校舎の中に入ってからもずっと手を繋いで歩いてる綾人と茜は注目の的になっていた。
教室に入ってからも変わらず、見られる恥ずかしさを感じないどころか、これからの学校生活が楽しみで仕方のない2人は満面の笑みを浮かべながら席に着いた。
初日ということもあり、担任の先生の挨拶から始まり、体育館へ移動して入学式が始まった。
校長の長い話と来賓祝辞は興味が無い子供たちからしてみれば、一種の子守唄に感じるだろう。
例に及ばず、少し眠たそうにしている茜を見つけた。
(……今日が楽しみで茜はちゃんと寝られなかったんだろうな。おじさんとおばさんに見られたら怒られちゃうだろうな)
綾人の考えていることはあながち間違ってないのは、長い付き合いだからこその産物とも言える。
そんな茜の一面ですら愛おしく見えてしまう。
◇
入学式も終わり、登校時と同じく手を繋いで歩いてる綾人と茜は、少し疲れながらもこれから過ごせる楽しみな日常について話していた。
「茜は夜ご飯何食べるの?」
「今日は入学祝いでレストランだってさ!ちょっと遠いけど海の見えるところだってパパが言ってた。綾人くんは?」
「僕の家はお寿司とか色々美味しいものを買いに行くって言ってたね。普段はお父さんたち忙しくて時間が取れないから、たまには家でのんびりしようってさ。茜と海を見たいけど今日はお預けだね」
「えへへっ……。美味しいお店だったら次のお祝いの時に連れて行ってもらおうね!」
「そうだね」
他愛のない会話をしているうちに茜の家に到着し、またねと手を振り会いながら別れた。
綾人はここ数年海を見ていないので、少し茜が羨ましいなと思いつつ両親と共に家へ帰っていた。
◇
入学祝いの少し豪華な夕食を済ませた後、入浴と就寝準備と学校の準備を済ませてから布団で眠りについた。
……
…………
「…………いっっ!…………?」
「パパ……ママ……?……どこにいるの……っ」
「……なんで、ど、道路なの……っ!!」
「い、いやっ……ひとりにしないでっ……ううっ……どうして…………どうして私だけっ……」
───"どうして私だけ"生きてるの───
崖沿いで交通事故に合い、車が海に転落して茜の両親2人が帰らぬ人となった。
不幸にも、シートベルトを外していた茜は車の外に投げ出され、1人だけ"生き残ってしまった"。
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