第34話 本気
ぐだぐだやっていたら、明音がふわぁ、と大きな溜息。
「いいなぁ……。あたしも彼女欲しい……」
その言葉には随分と熱が籠もっていて、本気度の高さがうかがえた。
隣の優良が意外そうに反応する。
「最近そんな話もしてたけど、明音って、本気で彼女が欲しいの?」
「あのときは本気度三十パーセントくらいだったけど、今は八十くらい。水琴と天宮さんを見てたら、本気で女の子といちゃらぶしたくなってきた」
「へぇ……。まぁ、それは私以外で宜しく」
「冷たっ。ここは、だったら私はどう? とか言うべき場面じゃない?」
「私は旧人類だから、自分が同性間で恋愛する発想はない。他の人がしてる分には好きにすればいいと思うけれど」
「はぁ……一番手頃な人に振られた……」
「恋愛関係になろうとした相手を、一番手頃な人とか言うなし」
「他に表現のしようがない」
「そこには絶対恋も愛もないじゃん。そんな奴、例え男子だったとしても恋人になるなんてお断りだ」
「まぁ、そうだよねぇ……。優良とは良きお友達でいたいから、それでいいんだけどさぁ……。
ねぇ、水琴。あたしに紹介できる女の子いない? さっきは振られる前提で手頃な人とか言ったけど、ガチで女同士の恋愛ができる人と出会いたい」
「それは……うーん……」
本気で女同士の恋がしたいというのなら、銀子を紹介してみるべきなのだろうか。銀子としても、恋人は欲しいと思っているはず。
ただ、銀子が求める恋と、明音が求めている恋には温度差があると思う。
銀子は、それこそ百パーセントの気持ちで恋をしたいと思っているはず。明音のように、そういう恋も体験してみたい、程度の半端な気持ちではない。
アンバランスな恋は、きっと残念な結末に終わるだろう。
「お? その反応は、紹介できる人材に心当たりがあるのかな?」
「……ううん。なくはないとも思ったけど、やっぱりダメ。あの子は百パーセント本気の恋がしたい人だと思うから、明音とは釣り合わないよ」
「ふぅん? それはそれで会ってみたい気も……。けど、そんな人がいるのに、水琴は天宮さんを選んだんだね。不思議」
「……その子はネット上の友達なんだ。意外と近くに住んでるっぽい雰囲気なんだけど、リアルで会ったことはなくて、どんな子なのかはっきりとはわからない。だから、ネット上の友達を越えた関係になろうとは思わなかったんだよ」
「なるほどね。ネット上で仲良くなれても、いざ会ってみたら意外と噛み合わないなんてありがちだよねー」
まるで体験談のような口振りだな、と思っていたら、優良が口を開く。
「明音、ネット上で仲良くなった男子とリアルで会ってみて、一時間で破局したことがあるんだって」
「そうなの? 知らなかった。わたしには内緒の話だった?」
明音が首を横に振る。
「んーん。別に内緒とかじゃないよー。その話をしたときにたまたま水琴がいなかっただけ」
「そっか。その……ご愁傷様でした?」
「本当にねぇ。ネット上ではいい感じだったんだけど、いざ会ってみたら気づいちゃったんだ。彼は本気すぎて、軽々しい恋がしたいだけのあたしとは釣り合わないって。
出会って一時間で、『俺、将来立派な男になるから、結婚を前提として恋人になってほしい』とか言われても困っちゃうわけよ。
不埒な考えかもしれないけど、あたしはまだ色んな人と付き合って、色んな恋を経験してみたい。一人に決めて、一生添い遂げようなんて思えない。
ってことで、ごめんなさいして連絡取るのもやめちゃった」
「そっか……。恋愛って、本気であればいいってわけでもないから、難しいよねぇ……」
わたしはもう妃乃と一生添い遂げてやるくらいのつもりでいるけれど、妃乃にとっては重荷になっているのかもしれない。
わたし、重い?
妃乃に心の中で尋ねてみると、妃乃は優しくわたしの手をぎゅっと握ってきた。
「……私は、瑠那と一生でも一緒にいたいなぁ」
妃乃は明音たちにも聞こえる声で呟く。流れとしては不自然という程でもないか。
「本当? でもさ……わたしは女の子としか恋愛できないタイプだけど、妃乃は男の子でもいいんでしょ? 将来的には……結婚とか、出産とか、考えない?」
「瑠那を失うことなんて私には考えられないよ」
「そっか。良かった」
「あー、また二人が見せつけてくるぅ……。あたしもそれだけ愛し合える彼女欲しいわぁー。ねぇ、やっぱり一回その子紹介してくれない? 上手くいくかはわからないけど、会うだけ会ってみたい」
「……今夜にでも訊いてみるよ。許可が出たら紹介する」
「うん。宜しく」
「まぁ、そもそも会える距離に住んでない可能性もあるけどね」
「そのときはそのときだよ」
「だね」
明音には少し不埒な部分があるとしても、性根の腐った子ではない。一生続く恋に発展せず、一時で終わるものだったとしても、銀子にとって価値のある恋ができるならそれもいいと思う。
わたしは銀子に幸せになってほしい。
銀子は、わたしにとってとても大切な人なのだ。わたしが変に病むこともなかったのは、銀子のおかげなのだ。感謝してもしきれない。
「……ねぇ、二人とも、少しの間、目を閉じててくれる?」
妃乃が不意にそんなことを言った。
え? とわたしが戸惑っている間にも、明音と優良が目を両手で隠した。
妃乃がわたしを見つめて、頬に手を添える。
「……ばか」
何が?
妃乃は答えをくれることはなく、ただそっと口づけを寄越してきた。
独り占めしたかったはずのキスは、明音と優良にもちょびっとだけお裾分けすることになってしまった。
……で、これは何のキス?
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