第23話 遊戯
「おいふざけんな、インチキだろこんなの。きたねぇなニンゲンはよ」
「俺がやってみるか」
「もう面白くないからやっていいよ」
「どれが欲しい」
「じゃあウサギっぽいの」
最後の一回分を俺が操作するとアームはがっしりとウサギ人形を掴み、景品取り出し口へとまっすぐ進んでいきウサギ人形が転がり落ちる。
「すげーじゃん、どうやったんだ」
「どうもこうもない、内部で使用回数をカウントしていて動かした分だけアームが強くなる仕様なんだ。これは俺がガキの頃からずっと変わってない」
「まじせこいなニンゲン、やっぱヒトゴロシしてる方が面白いぜ」
「ほら」
ウサギ人形を赤い悪魔に手渡した。こいつと人形のサイズ感は同じくらいで違和感しかない、赤い悪魔はしばらくの間それを振り回したり肩車をしたりしていたが。
「サンキュー、でもこれってどう使うんだ」
「どっかに置いておくんだ」
「どっかってどこだよ」
「家とか車とか、丁度いい隙間に収めたり飾っておくものだが……。言われるとたしかに使用用途が不明だな、説明書もないし」
「なら何もないおっさんの家に置いておくとしようぜ」
「いらん、魔界の自宅に持って帰れ」
「それまで預かってて」
空飛ぶウサちゃん人形は目立ちすぎるのでアイテム空間へ収納した。
「次はなにする?」
「そうだな……。まだ、あったんだなこれ」
五匹のプラスチックのワニが飛び出てきた所をハンマーで叩く有名な筐体があった。今時こんなものがあるとは驚きだ、横流し品かもしれない。クスリは売るはワニは買うはとやりたい放題じゃないか、違法生物のやり取りはゆるしがたい。あいつらは殺しておいて正解だった。
「これはなんだ?」
「巣穴から這い出て来たワニを殴るだけだ、悪魔でも分かる簡単な遊びだな」
「そういうのは任せときな」
赤い悪魔が台の上に飛び乗る。俺が硬貨を投入し、ワニが動き出し瞬間……。超高速のパンチが繰り出され一匹目のワニがイテェッと声をあげたと思ったら筐体は真っ二つに割れ黒煙をあげていた。
「みたかワニ! アマエチャンは負けねぇ!」
「なにやってんだ、これで叩くんだよ」
俺は地面に転がり落ちた攻撃力ゼロの布ハンマーを拾って見せた。
「もうおせーよ、メカワニくん死んじまった。山に埋めに行くか?」
「はぁ、機械の粗大ごみは土で分解されない、自然に帰らない永遠の反抗期だからダメだ、エアホッケーでもやるか」
「これはどういう遊びなんだ? ウサちゃんもワニくんいねーじゃん」
「お互いの立ち位置に陣取って、その手元の奴を持って白い円盤にぶつけて、相手のその隙間らへんにシュートするだけの遊びだ。単純でいいだろ」
「なるほどな、攻撃と防御をし続けるんだな」
「その通り」
「らくしょーじゃん」
ホッケー台に飛び乗り、名称不明の手元の奴を握る赤い悪魔の右手の筋肉が異様に盛り上がる。
「おい、悪魔の腕力ではやるなよ、力は出来る限り押さえろ。円盤がすっとんでって行方不明になったり割れたりしたらもう遊べないからな」
「貧弱な遊びだなぁ」
ムキムキの右腕がしおしおと縮んでいく。俺はルールを教え、適当なラリーの応酬で遊んだが。赤い悪魔は白熱し自分の身体を広げ完全にゴール部分を覆い尽くし円盤が入らない奇策に出たので勝負にならなくなった。
「子供みたいな遊び方をするんじゃない」
「アマエチャンガールだし」
「じゃあ元気があってよろしい」
十五体の首の折れ曲がった死体が残ったままのゲーセンで俺達が遊び続けているとスマホが揺れた、イガリからのメッセージが届いたので確認すると近くの駅にあるコインロッカーに報酬入りのバッグがあるらしい。ロッカーキーはイガリお勧めの喫茶店の前にある植木鉢の下に隠した、とある。前回もそうだったが無駄に早い、ろくに確認もしないで報酬を用意するなんて頭がおかしい奴なのかもしれない。悪魔になってから俺の周りにはこんなのしかいないが……。
バーダー・マインホフ現象か?
新しく覚えた言葉を次々に見聞きし不思議に思う事をそう呼ぶという。言ってしまえば気のせいなのだが俺の周りは元からこんなんばかりで気が付きもしないで平然と生活をしていたという話になる。最初からヤクザもいるし半グレもいるし悪魔もいるし死体もあったのだ。
「じゃあ俺はこの世界の一員なんだ」
「あぁ?」
「無職の殺人鬼になった今も社会人のままか?」
「立派な悪魔社会の一員だよ」
「悪魔の社会は給料とかでんのか」
「通貨制度はないな」
「じゃあ娯楽もなさそうだな……」
「ニンゲン観察が一番の娯楽だよ、でもみてるだけよりこうやって体動かす方がずっと楽しいもんだね」
「スポーツもなし?」
「あっちでは体が無いからな」
「ふぅん、そろそろ出るか」
「なかなか楽しかったぜゲーセンは」
死体を回収せずに放置して地上への階段をあがる。ガイジンに支払った金と、靴にへばりついた血液と自分の足跡だけを魔法のチカラで回収した。血の海をテクテク歩く赤い悪魔の足跡はなかった。
「ほんとにいいのかー?」
「どうにでもなるさ、それでどうだイガリの部下の気配は。そのへんに見物に来てたりしないか」
赤い悪魔が雨どいのパイプを伝い、屋上まで腕を伸ばす。
「いねぇな、用心深いらしい」
「待ち伏せ作戦は失敗に終わったか、やっぱ年季の入った殺人鬼一味は違うね」
そんな簡単に行くとは思っていなかったのでそこまで残念ではない。全ての手の内を見せたわけではないが、アイテム空間の使い方を見せたのは失敗だった。あれだけでかなり警戒されたのだろう。
「いい練習にはなったな、頭を砕かなくてもいきなり首を吊ったまま膝を折るとニンゲンってのは死んでしまうんだ。もっと丁寧に扱わないと」
「エアホッケーの球みたいにな」
俺の目の前で飛び上がった円盤がくるくると回転する、持ち帰っていたらしい。
「あっドロボーだぞお前それ」
「いいじゃん、もう持ち主は全員死んだんだし」
「一理ある」
「これも入れといて」
「つーかお前も使えるんじゃないか、収納魔法。最初にやってみせたろ時間停止」
「最初の奴だけな、あれは悪魔ごとの固有のチカラだし。あとからの魔法は勝手に出てくるだけだからアマエチャンには使えねーんだ。ほらほら」
「しょうがねぇ奴だな」
死体と血と壊れた機械だらけになった地下室の方に視線を向け、赤い悪魔が言った。
「死んだあとはなにも残らないのに、みんな必死に物を集めるんだな」
「そうだな」
「おっさんがなんもねー家に住んでるのはそのせいか?」
「一人で死んだら誰にも気づかれないまま腐乱死体になって、生活臭溢れるゴミ山を片付ける清掃員が大変だ、俺が死んだらなにも残しておきたくはない。勝手に消えちまえばいいのにな。生涯独身が増えたから無縁仏の数は増える一方だ」
「掃除屋への気遣いか? 他者への思いやりなんて捨てていいんだぜ、悪魔なんだから」
「じゃあその辺で腐っとくか」
「でもなぁ」
「なんだよ」
「おっさんが死んだら墓くらいはアマエチャンが作ってやるよ」
「そりゃ嬉しいね」
「悪魔式で盛大にな、十字架だけは絶対使わねぇからな」
「死体は野ざらしとか言ってなかったか?」
「あれは嘘だよ」
「嘘だらけじゃねーか」
「おっさんもな」
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