トーキョーシャングリラ

萎びたポテト

衝突前

東京、次元衝突。

それは綺麗な色彩に泥土を入れる様なモノ。


「宝石の中に石が混じってもどうも思わないだろう?そういう事さ」


辺りを見回せば、死体が転がっている。

その次には、プラスチック製の注射器。

何も知らないまま、夜の底に倒れている。


肉が腐り、骨が朽ち、息絶えた後も悍ましい。


それは人と形容出来るものなのかと疑う程の死体。


生きている人間もいる。

ただし、虚ろな目をした廃人が夜の新宿を彷徨するかのように歩いているだけ。

 活気がなく、全身という全身に掻き毟ったかのような痕。


次元衝突以前、東京が苛まれていた薬害。

世界各国での大麻合法化により、大麻混入食品が密輸。


シントーカンナビス C26。


数多く現れた大麻加工品の中で、さまざまな脱法ハーブを合成して作られた大麻グミが出現。


 一度摂取すれば強烈な高揚感と共に五感覚の激化、そして身体の強化作用が得られるという代物で、ひとたび東京に持ち込まれると爆発的に広がった。


 主成分に大麻のみと表示されていたのもあって、規制はされずにいた。

 おかげで東京の、主に新宿周辺ではゾンビ映画さながらの地獄絵図が完成されていた。

 幻覚により暴れ出す者もいれば、ただ虚空に向かって狂った笑みを浮かべる者もいる。

 車の上で焼身自殺する者もいれば、自爆テロを起こした者もいる。


 トー横は狂い出した。

 新宿は狂い出した。

 23区は狂い出した。


 東京は——狂い出した。


 それでもまだ、東京は理想郷シャングリラであり続ける。

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トーキョーシャングリラ 萎びたポテト @hajimetsukasa

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