自覚あるヤンデレ彼女VSシスコンデレデレシスター

青猫

自覚あるヤンデレ彼女VSシスコンデレデレシスター

「ねぇ、やっぱりだめ?」

「……ごめん、それは無理」


……やっぱりだめか……。

私はため息をつく。

今話してる彼、海翔と付き合い始めて早半年。

今なら受け入れてもらえるのでは!?とある要求を海翔にしてみたのだが結果は惨敗だった。


「ねぇ、何を話してるの?」


そこに友達の美智子ちゃんことみっちゃんが通りがかった。

もうお昼は食べ終わったらしく、手にはお弁当の外箱のごみが握られていた。


「いや、ねぇ……」

「……あやかからの要求にどうしても応えることができなくて……」


そう言って海翔はみっちゃんに今の事情を説明した。

みっちゃんはちょっとめんどくさそうな顔。


「……で?お願いって何?」


みっちゃんはその鋭い眼光で私をじっと見る。


「いや、弁当を食べてもらいたくて……」

「……中身は?」

「私の髪の毛と血入り……」


みっちゃんはため息をついた。


「そりゃあ、海翔君も嫌がるわよ。ねぇ?」


海翔は、凄く申し訳なさそうにうなづく。


「はい。俺もちょっとそれは……」

「そんな!?私の血と髪、サラサラできっとおいしいよ!?健康的だよ!?」

「いや、普通に嫌でしょ」


さらっとツッコミを入れるみっちゃん。


「いや、だって髪の毛は、ほら、口に入ると、わしゃわしゃするだろ?」

「……あぁ~~!!」

「いやそっち!?」


……確かにわかる。

口に髪の毛が入ったらもしゃーー!ってして気持ちが悪い。

私も口に入ったら嫌なのに、そのことを失念してた。


「じゃ、じゃあ、血の方は?」

「血はなぁ……」


海翔は嫌な事を思い出すかのように顔をしかめる。


「俺、血の味がすっごく苦手で。内臓とかまじで食べれんのよな……」

「……そうなんだ」


そっか、単純に苦手だったんだ。


「ごめんね、わざわざ理由まで話してくれて。じゃあ、そういうのはやめとくね」

「無理はしないでくれよ」


「うん、大丈夫!ごめんね、色々と無理を聞いてもらって……」

「いいんだよ」


……本当に申し訳ない。あれもこれもそれも、私の病みが暴走しないように海翔が無理をしている。

……。


突然、海翔が私の頭にポンと手をのせた。


「俺がお前のつらそうな顔を見るのがつらいからな。この前の暴走したときの顔をあやかにさせたくないだけだよ。気にするな!」


そんな事を言われると、心がギューッとなる。

私ってすごく運がいいんだろう。

こんな彼氏がいること自体、奇跡みたいなものだ。


「ほら、お弁当、あ~ん」


私はすっと差し出された卵焼きをパクっと食べる。


「おいしい!」

「……今ならコーヒーを一気飲みできそう……」

「?みっちゃんコーヒー苦手じゃん」


いつの間にか弁当がらを捨ててきたみっちゃんが隣に座っている。


「つまりはそういう事よ」

「どういうこと?」


お弁当を食べ進めながら、次の要求を告げる。


「じゃあ、噛んでいい?」

「噛む?」

「うん!首筋をカプッと」


……どうかな?


「まぁ、それぐらいなら……」

「やった!」


私はお弁当を食べる手を止めて、海翔の首筋にかぶりつく。

海翔の良い匂いも相まってほんわりとしてくる。

なるべく痛くはしたくないが、それでも歯形を付けたいので、気持ち抑えめに歯を突き立てる。


「めっちゃ噛むわね……」


みっちゃんはやや引いている。

しばらく海翔の味を堪能して、私は海翔から離れた。


「ありがとう、海翔!おいしかったよ!」

「お、おう……?」


海翔はよくわかってなかったみたいで歯切れの悪い返事をした。

その様子をじっと見ていたみっちゃんが、何か思いついたようにニヤニヤしてとんでもない事を言い始めた。


「あ、そうだ。何なら、海翔君があやかに噛み付けばいいんじゃない?ほら、食べてもらいたいんでしょ?」

「えっ、ちょっと、みっちゃん、何言って……?」


みっちゃんはニヤニヤしている。

いや、そんな事されたら私の心臓が!?


「……なるほどな。それならアリかも」


海翔からの賛成。

私、絶望。

なぜ、この順番で海翔に要求してしまったのか!

我慢すればよかった!


「じゃあ、行くぞ」


海翔の顔が寸前まで迫り、私の首筋にかぶりつく。


「あぁ……!」


やばい、こしょばゆい。

しかも、私が痛くないようにしているのか、歯は使わずに舌でなめてくるからすごく気持ちがいい!


「あ、あぁ……!」

「さっきから『あぁ……』って声しか出てないわよ」


みっちゃんはどこから持ってきたのかブラックの缶コーヒーを飲んでいる。


「本当に甘いわね」

「……みっちゃん、苦いのは……?」

「感じない」


……それなら今度、そのコーヒーを飲んでみようかな?

そんな風に他の事を考えてないと、何か、どこかいけないところにいっちゃいそうなので、必死に気をそらす。

しかし、そんな事が意味をなさないぐらいに執拗になめる海翔。

だんだんと私の頭もとろけていく。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

ようやく海翔の口が私の首筋から離れた。


「あふぅ……」

「どうだった?」


海翔が聞いてくる。


「し、しにゃわせでしたぁ~~!」


私は精一杯の返事をした。


「そう、それなら良かった!」


海翔はとてつもないくらい良い笑顔だった。

……やっぱり、自分の欲望は、抑え目が丁度いいらしい。



——放課後。


「今日、カラオケ行く人――!!」

「はーい!」

「おっ、いいね!あやかも来る?」

「行くーー!!」


私はくるっと海翔に向きなおす。


「ということで今日は、皆でカラオケ行ってきます!」

「おう、楽しんでな」

「海翔も来る?」

「俺はあんまり歌が上手じゃないし、それに今日の夕飯の買い出しに行かなきゃならんしな」

「そう!じゃ、またね!」


私は海翔に別れを告げて、カラオケをする皆の元へ集まる。

みっちゃんも皆とつるむのはあまり好きじゃないから、こういった集まりには来ない方だ。


そんなみっちゃんと海翔が後ろの方で話をしている。


「あやかって、たまに束縛薄い時ない?」

「まぁ、確かにな」

「まぁ、あんなことされてればね。それじゃ」


……確かになー、と思いつつ、クラスの皆とカラオケ屋さんに向かう。

いつものカラオケ屋さんにしようと話がまとまって、校門から出ようとした所で、「お姉ちゃん!」と声を掛けられた。


私は、その聞きなれた声に返事をする。


「波音?どうしたのこんなところで?」


私が反応すると、周囲のクラスメイトが「え、何?あやかちゃんの妹?」とざわつき始める。


「それが、カギを家に忘れちゃって……」

「あ、そっか。携帯持ってないから……」


波音の中学は携帯の所持禁止。

こういった事態になったときの為にも何かしら連絡のできる機器があればいいのに、と思う。

最近は電話ボックスも見ないし。


「OK。じゃあ、海翔に連絡するね」


そう言って携帯を取り出して海翔にメールを送る私に周囲はまたざわつきはじめる。

そんな中、勇気ある益男君が私に聞いてきた。


「その子、あやかちゃんの妹?」


私は首を横に振る。


「ううん。海翔の妹」


そう言うと、波音は首を横に振った。


「いいえ!私のお姉ちゃんです!」


そう言って私にぎゅっと抱き着いてくる。

そのほほえましい様子についつい破顔してしまう。


「みんな、先に行ってていいよ」


私はそういうも、皆「大丈夫だよ、待つよ」とか「こんな面白い事、見逃せない」とか「妹さん、紹介して!」とか口々に言う。

……まぁ、とりあえず、気になるのはあったけど、スルーさせてもらう。

でも、絶対に波音は紹介せん!


そうしているうちに、海翔が到着した。


「波音?」

「あ、お兄ちゃん!」


波音は私にぎゅっとくっついたまま、海翔に手を差し出す。


「カギちょうだい!今日はお兄ちゃんが買い出しだから、遅くなるでしょ?」

「それもそうだな……」


と海翔はカバンからカギを漁って取り出そうとする。

しかし……。


「あれ?見つからない」

「え?」


海翔はカバンをガサゴソ漁っているが一向にカギが出てこない。

あ、そういえば……。


「今日、海翔と波音、用事があるからってばたばた出ていって、最後にカギ閉めたの私だよ!」


私は自分のカバンに手を突っ込む。

そこにはカギがちゃんとあった。


「はい!波音!カギ」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「いや、すまん。俺も忘れてた」


三人でわいわい盛り上がる。

そこに益男君が割り込んできた。


「……ねぇ、あやかちゃん!?もしかして、昨日海翔の家に泊まったのか!?」


ちょっとどう説明しようか逡巡した私の隙をついて、波音が口を開く。


「?お姉ちゃんは一緒に住んでますよ?」

「え?」


一瞬、ここにいた人たちの空気が固まる。

途端、ここで爆発が起こったかのようににぎやかになる。


「え!?まじ!?同棲!?」

「もうそこまで進んでるの!?」


ざわざわとなる一行。

益男君は海翔に掴みかかっている。


「嘘だろ!?海翔!なぁ!」


私はざわざわを静めるべく、口を開く。


「えーと、まぁ、色々ありまして……」



——二か月前。(私が暴走して一か月経った頃。)

私は海翔と向き合っていた。

というのも、これから海翔と話をするためだ。

話の内容は、「私のしたいことについて」。


一か月前にあんなことがあったから、定期的に発散させるのがベストだという結論に私たちはたどり着いた。

なるべく私がやりたいことをその都度吐き出すようにして、たまにこうしてさらに吐き出す機会を取る。


こうすることでまぁ、なんとかヤンデレ欲求と向き合っていこうという話だ。

そんなこんなでまぁ、話し合いをしているわけだったが。


一向に話が進まない。

それもこれも私が何も言わないせいだ。

暴走した日はまだ若干本能の方が強かったのか、「匂いを嗅いでいい?」なんてことを聞けたわけだが。

まぁ、申し訳ないことをした手前、これ以上を求めたらやっぱりだめじゃないか?

私はそう考えてしまい、何も言えないでいた。

結果出来上がるのは、無言で二人向かい合っている時間。


……気まずい。


「……本当に何もない?」


ようやく重い口を開いた海翔に私は首を横に振り、にっこりと笑う。


「ううん。大丈夫。問題ないよ!」

「……そう」


……無言。

やっぱり私が何か言わないと終わらないらしい。

必死に考え、なるべく病んでないような案をひねり出す。


「そうだ!海翔の家に行きたいな!」

「俺の家?」

「うん。付き合ってもう四か月だけどまだ行ったことないなーって」


どうだ!これは病んでないだろ!

海翔はじっと私の目を見た後に、笑った。


「そうだな。俺の家に行くか」


そう言って席を立ちあがる。


「ほら、行くぞ」


……ええっ!?


「今から!?」

「?そうじゃないのか?」

「え、いや、海翔の両親にご迷惑じゃないかなって!」


私がそう言うと、海翔は「ああ~っ!」と頭に手を当てる。


「そういえば言ってなかったわ」

「何を?」

「俺の親、いないの」

「え?」


それは、聞いちゃいけないことを聞いちゃったかな……。

私がうつむくと、海翔は慌てて、「そういうんじゃないの、ごめん!」と言ってきた。


「いや、別に亡くなってる訳じゃなくて、行方不明なの」

「え?」


海翔がさらに詳しく説明する。

どうやら海翔の両親は携帯も持たずに旅行をしているそう。

だから、今どこにいるかわからず、時々送られてくる手紙ぐらいでしか安否を確認できないそうだ。幸いにして学費とか食費とかは毎月どうやって稼いでるのかは知らないが、お金が通帳に送られてくるそうだ。


「俺が高校に入った直後に置手紙一つで消えたからさ。今、妹と二人で一軒家に暮らしてるんだ」

「……妹?」

「そう、妹」


私の心がゾワリと震える。


「妹と、一つ屋根の下?」

「まぁ、そんなものだな」


……やばい、治まれ、私の心。

女性と二人で暮らしているという事実が私の心をざわつかせる。

しかし、暴走するのはまずい。


「とりあえず、行ってみたいな!海翔の家」


……なるべく避けた方がいいのかもしれないが、私は海翔の家に行ってみたくなってきていた。

海翔と一緒に住んでいるという女ぎつ……ゴホンゴホン。

妹さんがどんな人物か見極めたい。


「?そうか。じゃあ、行こうか」


海翔は私に手を伸ばす。

私はその手を握る。

……これで少しは抑えられる……はず。

ちょっと自信が無くなってきた。



そうして話し合いの会場であったカフェから歩くこと数十分。

ややきれいな感じの家の前で海翔と私は止まった。


「ここが俺の家な」


……よし、覚えた。

ストーカーはだいぶやばいから、流石にしていなかったのでこれが初自宅だ。


「それじゃあ、入る……」

「あ!お兄ちゃん!おかえ……」


その時。ボトンと物を落とす音が聞こえてきた。

私たちが声のする方へ顔を向けると、そこにはまだ中学生ぐらいのかわいらしい女の子が立っていた。


「お、波音!ちょうどよかった!」


……波音。

海翔の妹。

その波音と呼ばれた人物は、買い物袋を落とし、口に手を当てている。


「お、お兄ちゃん、もしかして、その人は……?」


海翔は急に私を抱き寄せ、声高らかに言う。


「あぁ!俺の彼女だ!」



……家に上がらせてもらった。

家の中はきれいで、海翔の良い臭いがする。

リビングに案内された私はとりあえず深呼吸する。


頭もすっきりしたし、海翔成分も取り込めた。


そうしていると、妹さんは麦茶を出してきた。


「どうぞ……」


妹さんはなにやら少し緊張しているようで、手に持った麦茶の入ったコップが揺れている。


「ありがとう」


私がそのコップを取ろうと手を伸ばすと、妹さんは「ガンッ!」とコップをテーブルにおいて、そそくさと退出してしまった。


「私、嫌われてるのかな?」


……いくら何でも、初対面からこの反応はきつい。

少し、腫物扱いされた昔を思い出してしまう。

海翔はムーッと唸り、


「……多分照れてるだけだと思う」


と一言発した。

……照れてる?何に?


少し、というか全くわからなかったが、海翔が照れてると言ったらまぁ、照れてるのだろう。

そう思うことにする。


……しかし、手持ち無沙汰だ。

家に行くと言ったはいいものの、何をするかは考えてない。


「……とりあえず、ゲームでもやるか?」

「賛成!」



それからしばらくして。

イカにペンキを浴びせるゲームを二人でやっているが、後ろから視線を感じる。


「ねぇ。妹さん、ずっとこっちを見てない?」

「あぁ、見てるな?」

「一緒にしたいのかな?」

「わからん。あいつ普段ゲームとかしないしな」

「……とりあえず私、誘ってみる!」


私は一旦ゲームのコントローラーをおいて、視線を感じる方へ歩き出す。


視線を感じた先に扉があったので、ガラッと開くと、そこには妹さんの姿があった。

妹さんは、こちらが突然来たことにびっくりして、あわあわしている。


「ねぇ、もし暇だったら、ゲームしない?」

「え!?あ、えーと……」


妹さんの目線があちこちへ移動している。

そこに海翔も来た。


「そこで見ているんだったら、一緒にすればいいだろ?」


海翔が妹さんに手を差し出す。


「……うん」


妹さんは、おそるおそる海翔の手を取った。

……妬けるなぁ。


それからまたしばらく。

今度は私と海翔と妹さんと一緒に四角い世界を開拓している。


妹さんは私と海翔の間に入って、ぴったりと海翔の方に身を寄せている。


——それが兄妹の距離感か!?

と思うが、それよりも今目の前の製作物の方が大事だ。


そう、私は今大規模なマイニングを行っている。

得られた鉄でトロッコとかを作ってやるリアリティっぽいのを追求したやつだ。


……中学時代、本もそうだけど、ゲームもそこそこにやりこんでいた。

そこでドツボにはまったのが、何を隠そう何かをデザインしたりして作り上げるゲーム。

何かに執着するヤンデレと相性が良かったのだろう、これをしている間だけはこれだけに集中できる。


もうやろうと思ったらとことんリアルに。

そしてクオリティを高めていく。


看板とかそういうのも設置してどんどんそれっぽくしていく。

他二人は普通に家作ったり、強い装備を集めているが、私はそれそっちのけで凝っていく。


「あやか~?このダイヤモンド、使っていいか?」

「いいよ、どうせ使わないし」


そうしている間に海翔は私の掘った色々なアイテムで最強装備とか道具を完璧にそろえている。

妹さんは隣で自給自足で生活しているのに……。


「よし!ラスボスに……ってもうこんな時間じゃん!」


海翔がそう叫ぶ。

時計を見ると、もう5時。夕暮れ時だ。


「あ~そろそろ帰らなくちゃ」


正直、もうちょっとクオリティを高めたかったが、流石に両親が心配する。


「あやか、凄いの作ってるな」

「本当。凄いです……」

「まぁ、それほどでも」



ということで海翔の家の玄関。

妹さんは、海翔の陰に隠れている。


——その光景を見て、頭の片隅で放送禁止用語が飛び交っているが、なんとかスルーする。


「それじゃあ、また機会があったら」


そうして家を出ようとした矢先、海翔が「送るよ」と言ってついてきた。



——帰り道。

海翔と二人、暗くなった道を歩く。

頭の中ではガンガンと海翔の妹を妬み、恨み、傷つけるような言葉がぐるぐると渦巻いている。

誰かほかの女の子と話しているだけでもつらかったが、今回は、彼女と暮らしている事自体に強い嫉妬を覚えている。


……私は、こんな自分が嫌になる。

好きな人が、誰かといるたびに、その相手を憎んで、排除してやりたいと思う自分自身が。

今はまだマシかもしれない。

だって、それが表に出ていないのだから。

でも、もしあの時みたいに表にでたらどうする?


きっと海翔は悲しむし、私も今まで通りに生活できる自信がない。

正気に戻った時に自分で自分をどうしてしまうかわからない。


「ねぇ」

「どうした?」

「……抱きしめていい?」

「……あぁ」


私と海翔は立ち止まり、私は海翔にぎゅっと抱き着いた。


「……ごめんね」


私は零れ落ちるように言った。


「……言って。何かあったんでしょ」


海翔は優しく抱きしめた。


「妹さんが、うらやましい。海翔と暮らしているのが、どうしても許せない。

こうしてぎゅっとしてもらっても、どうしても消えないの。

もしかしたら、また、あの時みたいに、いや今度は妹さんに何かしてしまうかもしれない」


私はここで一つ息を吸い込んだ。


「私は、あんないい子を妬んで、どうにかしてやりたいって、思ってしまう自分が一番いや。

でも、どうしたらいいのか、分からないよ……」


私の目からぽろぽろと玉のような涙が滑り落ちる。


「……やっと言ってくれたな」


海翔は暖かな笑顔で言う。


「ずっと不安だったんだ。あの時からあやかがまた何もわがままを言わなくなって、今日まで来たのが。なるべく優しくしたつもりだったが、それでもあやかが満足しているかは分からないからな」


海翔は私の肩をつかみ、まっすぐに私の目を見る。


「俺はな、あやかが好きだ。あやかがいわゆるヤンデレだとしても、俺はできる限り受け入れてやるし、お前だけを愛すると誓う。あやかが、それで悩んでいるんだったら俺だって一緒になって悩ませてくれよ!」



外は夕日も沈んでだいぶ暗くなってきたが、少し話をするために近くの公園に来た。


「……今ある悩みはそれだけかな……」


「そうか、波音がな……」


海翔は顎に手を当てている。


「……妹さんに悪いところはないのだけれど、それでもやっぱりすごく嫉妬しちゃうの。

最近は海翔が私への接し方を変えてくれたおかげで、クラスメイトへの嫉妬はだいぶ落ち着いたのだけど……」


海翔は解決策を出そうと案を練っているみたいだ。


「……さすがに、俺と波音はそんな関係になることは無いと思うぞ、っていうのだけではだめか?」

「……どちらかというと、妹さんがいるそのシチュエーションに嫉妬しているのかも。

——私は絶対にできないことだから」


海翔はしばらく頭をひねっていると、突然、ピンと来たかのように手を打った。


「……なら、一緒に住むか?」


……はえ?


「はえ?」

「いや、一緒に住んでいることに嫉妬しているんだったら、一緒に住めばいいんじゃないかって思ってさ」

「え!?い、いいの!?」

「いや、俺の家はどうせ両親いないし、部屋も余ってるから問題はないよ」

「……ちょっと家に帰ってもいい?」

「いいけど……」


私と海翔は急いで私の家に向かう。


「ちょっと待ってて!!」


そう言って私は家の中に入っていった。




——十分後。


私は、大きなバッグを持って家から出てきた。


「お母さんから許可貰ってきた!」

「ええ!?」


まさか今日許可をもらってくるとは思ってなかったのか、海翔はびっくりしている。


「ほ、本当に?」

「うん!……まぁ、『たまにはこっちに戻りなさい』とも言われたけど。それじゃあ、今からお邪魔してもいい?」


私がそう聞くと、海翔は携帯を取り出してメッセージを打ち始めた。

それからちょっとすると、「大丈夫だ。行こう」と言ってくれた。



「いや、まさか今日許可をくれるとは……」


私と海翔は歩きながら話をしている。


「……まぁ、前々から少しお母さんには自分の事を相談していたんだ」

「そうなんだ」

「だから今回の相談も、『相手方に無理のない範囲でなら』って」


……本当に私は、周りに恵まれていると思う。

両親だって、私のような感性を持っているような人ではない。

なのに、そんなズレた私の事を頭から否定することなく色々と相談に乗ってくれて、色々と考えてくれる。


「……本当に、ありがとうね」

「?気にしないでいいよ」


海翔はニイッと笑う。


「それじゃ、家に帰ったら色々と準備をしなくちゃな」

「そうだね!妹さんにもきちんと挨拶をしなきゃ」



海翔の家まで戻ると、家の前に妹さんが立っていた。


「もう!お兄ちゃん!突然『人を泊めてもいいか?』ってどういう事……!?」


妹さんは私の姿を見ると目を見開いて、海翔に「え、もしかして……?」と聞いてきた。


「あぁ。今日からこの家でお世話になるあやかだ」

「~~!?」


その説明を受けた途端に妹さんは家の中に駆け込んでいってしまった。


「……やっぱり、嫌われてるんじゃない?

海翔を私が盗ったから」

「……そうか?照れてるっぽいんだけどな……」


……やっぱり彼女が何に反応してるかわからない。


「まぁ、とりあえず、あがって」

「うん」



それから、夜ご飯を食べ、風呂にも入らせてもらって(ちょっとだけ欲を出して海翔の次に入った)、リビングでゆっくりしていたその時。


「あの!」


突然、妹さんが話しかけてきた。


「できれば、お話ししたいんですけど、私の部屋に行きませんか?」


……なるほど、腹を割って話そうという事か。


「いいよ!」


私は妹さんについていって妹さんの部屋に入る。

中はきれいに整理整頓されていて、かわいい小物がおいてある、かわいらしい部屋だ。

……私のちょっとアレな部屋とは大違い。


ベッドの上に座るように誘導されると、妹さんは何やら意を決した表情になっている。

——さぁ、どんな話でもドンと来い!受けて立つぞ!


「話というのはですね!」


私はうなずく。

妹さんは、顔を真っ赤にして私を見る。


「私のお姉ちゃんになってくれませんか!?」


……はい!?


「はい!?」


全く予想だにもしていなかった発言に思わず思考が言葉にもれる。


「!やった~!」

「あ!?いや、ごめん、今のは『どういう事!?』って意味のはいで……」


途端に、飛び跳ねそうなくらいにいい笑顔だった妹さんが、シュンとなる。


「そうですよね……すいません」

「え!?あ、いや、受け入れないって話じゃなくて、もうちょっと詳しく聞きたいってことで!」

「あ、そうですよね、言葉足らずで……」


そう言って、一息ついた後に、彼女は話し始めた。


「私、ずっとお姉ちゃんが欲しかったんです!……お兄ちゃんじゃなくて」



——彼女の熱い思いを聞くこと一時間。


どうやら、彼女は物語に出てくる優しい姉がずっと欲しかったらしい。

でももう生まれてしまったからには絶対にお姉ちゃんはできない。

そう思っているときに、ひらめいたそうだ。


——お兄ちゃんの恋人はお姉ちゃんでは!?


でも、お兄ちゃんには彼女を作る気があまりないみたいで気が付けば高校生。

自分も中学生だし、もう姉に甘えるのは難しいかもしれない。

そう思っているときに海翔が私を連れてきたらしい。

……自分の姉像ぴったりの私を。


「だから、緊張してうまく話せなかったんですけど、でも一緒に住むってなって、じゃあ今しかない!って思いまして」


……なるほど。

じゃあ、海翔にべったりだと思ってたあれはただ近場にいた知り合いを盾にしてただけだと。

話を聞いて納得した私は、そんな彼女に少し残念な話をしなければならない。


「……ごめんね。波音ちゃん」

「え……?」


私からの謝罪の言葉を聞いた妹さんはつらそうな顔をする。


「……きっと、私って波音ちゃんのお姉さんになれるような良い人物じゃないよ」


そう言って私は懐からケースを取り出す。

そのケースを開くと、そこには大量の海翔の写真が。


「これね、無断で海翔を撮った写真。私、少し他の人とずれている所があって、きっと波音ちゃんの望んでいるような、そんな人物じゃない……」


妹さんは黙ってじっと私を見ている。


「だから、その、ごめんね」


私がそう言うと、妹さんは口を開いた。


「別にいいです」

「え……?」

「そんなことは気にしませんよ。私が、あなたが良いと思ったんです。多少おかしくても関係ありません!もう一回お願いします!私のお姉ちゃんになってください!」


妹さんは私の手をギュッと握ってきた。

……なんか、そこまで言われると、断れない。


「……分かった。いいよ。お姉ちゃんって呼んで」


途端、パァっと花が咲いたように笑顔になる妹さん。


「そ、それじゃあ……私の事を波音って呼んでくれませんか?」

「いいよ。波音。……言葉を崩しても大丈夫だよ」

「本当!?お姉ちゃん!」


妹さん——波音はぎゅっと私を抱きしめてきた。

そしてすぐに離すと、私の事をキラキラとした目で見つめてきた。


「ねぇ、膝枕をしてもらってもいい?」




「あやか~?波音~?」


しばらくすると、海翔が波音の部屋に入ってきた。

私は口に人差し指を当てて、海翔に静かにするように促す。


「波音、寝ちゃったから」


波音は、私の膝の上で寝ている。

……ちょっと可愛い。


「二人とも、仲良くなったんだな」

「まぁ、なんか色々あってね」


……そうだ。言うなら今だ。


「ねぇ、海翔。色々とお願い事があるんだけど……」

「できる限りでよければ、聞くぞ」

「うん、あのね……もう少し、わがままになってもいいかな?波音を見てたら私も甘えたくなっちゃった」

「あぁ、いいぞ」

「えっと……」


そしてまた日が過ぎる。

同棲を初めてから様々な事があった。

でも1番大きな変化は波音のことだ。

波音の存在は非常に大きい。

……というか、かわいい。


もう、ふとした時にぎゅっとしてくれて「お姉ちゃん、だーい好きっ!」って言ってくれる人、なかなかいないよ!?

しかも、甘やかしたりしたら、すっごい可愛い顔もするし!


時たまにシュンとした顔で、「お姉ちゃんここが分からないの……」とか言ってくるときの上目遣いとか、もう自分が頭良くてほんとによかった!って思うよ。

……成績?学年でも最上位ですが?

おかしい人って頭のいい人も多いよねって話。


それに、海翔に甘やかしてもらっている時に「お姉ちゃんは私の!」と嫉妬してくるのなんてもう言葉にできない。


正直、私の人間性が向上したのって波音のおかげでもあるかも。

少し前までは、海翔に近づく女の子見てたら、「海翔を盗られる!」とか思ってたんだけど、でも波音がそうじゃない人もいるよって言う事を実演してくれたおかげで、だいぶ強い嫉妬は減った。


……まぁ、それでも嫉妬するときはしちゃうけど。



——ということで、今に至る。


色々と説明し終わり、辺りはしんとしている。


「いや、お前らの行動力、すげえな」


益男君含め、クラスメイトは皆びっくりしている。


「ということで、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんです」

「俺は?」

「とりあえずお兄ちゃん」

「そうか」


枕詞に「とりあえず」を付けられた「とりあえずお兄ちゃん」は笑っている。


「じゃあ、お姉ちゃん、私はもう行くね!」


私からカギを受け取って走り去っていく波音。


「じゃあ、俺も買い出しに行ってくるわ」


海翔もそのまま帰路についた。


「……じゃあ、私たちもカラオケ行こうか」

「そうだね……色々と聞きたいことも増えたし!」

「おーー!!」



——カラオケ屋さん内。

私たちは絶賛盛り上がっていた。

男子は有名なアニソンを歌って盛り上がっているところ。

そこに女子たちがが私の傍に寄る。

そして、小さめの声で話しかけてきた。


「ねぇねぇ、海翔君とはどこまでいったの?」

「どこまで?」

「ほら、恋のABCってやつ!」

「あー……」


私は頭を少し掻く。


「……Aかな」

「えっ……」


周りの女子がシーンとなる。


「……一緒に住んでるのに?」


私は今までの事を思い返す。


「皆?なんの話してるの?」

「うるさい!あっちいって歌ってて!」


どうしたのかとこっちに来た男子は追い払われてた。


「いや、私から襲ってしまった手前、ちょっとそこら辺に積極的になれなくて……」

「海翔君は?」

「海翔は海翔で、『あそこでキスしてしまった手前、自分からは誘えない』って波音から聞いた」

「やば、めっちゃピュアじゃん」

「いや、教室であんなことしてるバカップルはたとえAしかしてなくてもピュアとは言えないと思う」



「それに……」

「「「それに?」」」

「やっぱり、将来を見据えながら、そういうことはやっていくべきだと思うんだよね」

「……ヤンデレとは思えぬ理性的な言葉!」

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