「二軍落ちなんてお断り!」茨道上等!! オタク令嬢は乙女ゲーム世界で強引に推し活する!
柴犬丸
どう転んでも茨道
第1話 目覚めは怒りの中で
「お兄様を馬鹿にしないで!」
その声は絢爛豪華なこの魔法学園のホールに響き渡った。
しん、と静まり返る空間。
突然観客席側から響き渡った声に、舞台上の演者も皆一様に制止し、全員の視線がホールの後方に集中する。
(((え、何!? てか誰!?)))
ここにいる生徒全員がそう思っただろう。
突然のハプニングなのか、もしかしたら劇の演出なのかとも思う人もいるかもしれない。
うん、でも突然の自分の行動に驚いたのは実は私も同じ。
私の名前はロゼッタ・イオリス、15歳。
イオリス伯爵家の長女。
この春ここ、国立アーデルハイト魔法学園に入学したばかりの新入生。
けれど今、心の中にもう一人の人格がある。
フルネームは思い出せないのだけれど、たぶん普通の日本人女性。そしてオタクのアラサー社会人。
デジャヴ?
この顔ぶれ、この背景、このシチュエーション。
初めて見たはずなのになんだか知っている気がする。
私を振り返る顔はみんな揃って美男美女。髪の色も赤や青、緑やオレンジといった感じでどう見ても日本人じゃない。
不自然だけれども違和感はない。
私にとってとても身近な世界が現実になったような…。
なんというか…世界が突然VRゲームみたいになった感じ?
そこでストンと腑に落ちた。
そうだこれ、ゲームの世界だ。
しかも私が良く知っているゲーム。
学生時代に私が何度も繰り返してプレイした乙女ゲームの世界、『シャインクリスタル~祈りと魔法の国』のワンシーン。
【そう】だと気づいた瞬間に『私』はみるみるうちに周囲の状況を理解した。
これはゲームスタートから二年目の春。
新入生歓迎パーティーでの出来事。
伝統ある魔法学園、の舞台で『演劇』を披露するヒロインと攻略相手、そして脇役たち。
(ああ…そうか)
これはあの忌まわしきスチルイベントだ。
乙女ゲームのシナリオでよくあるコスプレ回。いつもとは違った衣装を来たイケメンのスチルが楽しみなプレーヤー歓喜イベント。
でもね、私このイベント好きじゃなかった!!
奥歯がぎりりと鳴り、『ロゼッタ』の怒りと『私』の怒りがみるみるシンクロしていく。
だってこれはね、私の一押しキャラの『ジーク・イオリス』がね、登場キャラクター全員からプークス!って失笑されるイベントなんだよね! 許せん!
勢いよく立ち上がった私はそのまま肩を怒らせて舞台へと向かう。
動揺が広がる空気の中、見知らぬ人たちから向けられる奇異の目にちょっとだけ怯むけれど、ふつふつと沸き上がる『怒り』が私の背を後押しする。
そして到着、舞台の最前列。
降り注ぐスポットライトがとても眩しい。
舞台の中央に立っているのがゲームのヒロインとその相手役。
うんやっぱりそうだ。
よく知った顔に私の推測が間違ってなかったことを知る。
そして舞台の脇の方でみっともなく尻もちをついているのが『わたくし』のお兄様。
そう、『私』の最推しの『ジークお兄様』
彼は今、良かれと思って立った劇の代役に本物の相手役が現れ、お役御免とばかりに打ち捨てられている。
これはそういうシーン。
その構図を目にしたとたん私の脳内は瞬間的に沸騰した。
大事な推しがそんな目に遭っていて黙っていられるかっての!
『私』と『わたくし』は別人格??
そんなこと知るか
そんなこと知りません。
なんで今自分がこんな状況になっているのか、とか、イベントの進行を邪魔してごめんとか、舞台に上がるなんて恥ずかしいという至極当たり前な混乱を強引にねじ伏せて私は軽やかに舞台に飛び上がった。
『私』と『わたくし』の目的はただ一つ。
お兄様のプライドやら幸せやら恋路なんかも全部丸ごと守ること!
「ずっと探しておりましたわ、わたくしの『運命の騎士さま!』」
一様にぽかんとする主要人物たちを前に、即興でアドリブを入れて兄の手を掴む。
舞台上の生徒もそれ以外の係の人も、突然の乱入者(私)を止める者はいない。
座り込んでいた『お兄様』はまるでお姫様の様に手を取られ、目をまんまるにして私を見上げた。
「ロゼッタ…!?」
緩くウエーブのかかった柔らかなブルーの髪に垂れ目がちな三白眼。
決して不細工ではないのに、どこはかとなく漂う負け犬感。
ああ、やっぱりこの人だ。
私の一押しキャラ、
わたくしの大好きなお兄様、
『ジーク・イオリス』に間違いない。
ヒロイン二人とその6人の主役級キャラとの恋路を邪魔するお邪魔キャラ。
でもその全てのルートで恋は実らずに振られてしまうというゲーム随一の不憫キャラ。
何の因果か分からないけれど、君が困っているのならば全力で私が助けよう!
私にとって『推し』を『推す』ことは息をするよりも簡単なことなのだから。
「わたくしの大事な騎士様、これから先はわたくしが貴方をお守りいたします。ここはひとまず二人で逃げましょう!」
私は兄の手を引いて舞台から飛び降り、一目散にホールから逃走した。
お兄様を振られ男のままになんかしてたまるもんですか!
私は『ジーク・イオリス』の妹『ロゼッタ・イオリス』!!
公式の設定にもしっかり書かれているぱっつん前髪に縦ロール! 大きなお目めとリボンが特徴のお兄ちゃん大好きっ娘だ。
全校生徒にプークスされて、いたたまれずにすごすご退散するお兄様なんて認めない!
舞台をメチャメチャにした責任なんて取らないし、ぶっちゃけどうでもいい。
隣国のお姫様(?)っていうか求愛者に奪還された方が全然いいと思う!
私はお兄様の手を引き、そのまま会場を突っ走って後方の扉から脱出をした。
バタンと大きな音を立ててホールの扉が閉まる。
無事に『推し』の奪還成功。
これって昔の映画にある花嫁を奪ったりするお決まりのシーンみたいだなって走りながら思ったりした。
****
本作を面白いな、続きを読みたいな、と
思ってくださった方はぜひ、目次の下にある★★★で評価をお願いします!
執筆の励みにさせていただきます!
ブクマも♥もたくさん増えるといいな~☆
よろしくお願いします╰(*´︶`*)╯
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます