伯爵令嬢は脳筋なので婚約破棄をされたら決闘をします
夏空蝉丸
第1話
まだ昼間の暑さが残る秋の
セントレ貴族学園という王国の王族・貴族若しくは特別な才能の持ち主しか学ぶことの出来ない学園の卒業パーティーは、これからの王国を担う人材が集まっている。この場で同期であることを確認しあい社会という荒波を乗り越えるために親睦を深める必要がある。実質の社交界的要素が大きい。
だから、目立つ場所に居座るのが良い。一応、階級に配慮する暗黙の了解はあるもののパーティーの建前は無礼講。目立ちすぎるのは良くないが、可能な限り輪の中心に近いほうが良いだろう。それなのに、ベアトリスが隅を確保したのには理由がある。しょうもない理由が。
「ベアトリス様……。やっぱり、食べる気満々ですね」
ベアトリスに声をかけたのは、ルイーザ・ユクシノ。貴族学園の生徒でありベアトリスの親友でもある。一応、男爵家の貴族令嬢ではあるが、ユクシノ家は平民同然の没落貴族。娘のルイーザが優秀であったため、アルヴォル家の援助で生活は向上しベアトリスの友人兼お目付け役として学園にも通うことが出来ている。
「食が体の基本だと思わないかルイーザ」
「食事の重要性は理解していますが、このパーティーの目的を考えますと」
「うむ。学園では全くと言って良いほど使えなかったこの拳が役に立つか」
「大事にしまっておいてください」
ルイーザは深くため息をつく。と同時に涙が出そうになる。ベアトリスが学園生活を我慢してきたのは知っている。肉体を鍛え、拳を鍛え、ひたすら鍛錬してきて
「まだですよ。まだ」
ルイーザは並べられた料理に凄まじい眼力をぶつけているベアトリスに声をかける。パーティーはまだ始まっていない。こんな場所でお手つきをさせる訳にはいかない。ルイーザは幼少の頃に飼っていた犬に躾をするときのことを思い出した。
「来たのが早かったか」
「その拳、しまってください」
ルイーザは食欲を誤魔化すために腕まくりをしてその場で腕立て伏せでも始めようかとする勢いのベアトリスを止める。まずいなぁ。そろそろ始まってくれないと困る。ため息をつきながら会場の壇上の方を見た。すると、願いが通じたのか、校長が挨拶を始めた。しかも、それほど長くはない挨拶ですぐに終了する。
「では、次は第五王子アルフォンソ殿下からお話があるとのことで代わらせていただきます」
校長は話を終えるとアルフォンソにその場を交代した。ただ、登壇したのはアルフォンソ一人ではなかった。横に一人女性が立っている。誰だろうか。王子の挨拶を聞きながらルイーザは記憶を辿り一人の名前を思い出す。
「この場で報告をする。アルフォンソはこのヤーヘと結婚することにした。よって、以前の婚約は破棄させてもらう。勿論、ヤーへと結婚、いや、今はとりあえず婚約することになるが、理由はそれだけではない」
話が長くなりそうとルイーザはウェイターから貰ったワインに口をつける。今から何が起こるか予想できて飲まずにはいられなかったのだ。
「聞いたかルイーザ。めでたいね。何か、王子婚約するんだって」
ベアトリスは肉をバクバクと頬張りながらルイーザに話しかけてくる。校長の発声で乾杯はしている。誰もがグラスに一度は口をつけている。だが、誰も食事には手をつけていない。だから、目立つ。壇上からも見えている。王子であるアルフォンソもそのベアトリスの傲岸不遜な態度にあっけにとられたのか言葉が止まっている。
「って、よく考えたら婚約破棄もされるのか? くくくくくぅ。こんなめでたい場所で婚約破棄されるだなんて可哀想なやつもいるもんだな」
ルイーザは、それは、あなたです。って突っ込みそうになる。勿論、ルイーザの立場上言えるはずもない。友達としても黙っているしか無い。突っ込みの言葉をワインと一緒に喉の奥に流し込む。
「ベアトリス、お前との婚約破棄をここで宣言する」
第五王子であるアルフォンソの発表にベアトリスは食べる手を止めた。そして、テーブルの上の骨付きチキンを取る。
「ルイーザ聞いた? なんか、婚約破棄される人、私と同じ名前みたい」
「いえ、ベアトリス様のことです」
「何で? 王子って私より強かった?」
「決闘破棄の話ではありません」
「なら問題ない」
何が問題ないの? ルイーザは再び赤ワインに口をつける。フルーティーさが心地よいものの口の中に少し渋みが残る気がする。現状をどう説明しようかとベアトリスを見ると、全く気にしないかのように骨を歯で砕こうと格闘している。
「本来はこれだけで終わるつもりだった。だが、ベアトリス、お前のその態度を見て気が変わった。よってこの場でヤーヘに対して行った仕打ちの数々を
壇上からアルフォンソに指を突きつけられたベアトリスは、食べ終わった骨をウェイターに渡す。そして、ルイーザに小声で、
「糾弾って、王子は弓での決闘でも望んでいるのか?」
と訊いてくる。
「弓の弾の話をされているのではありません。何かベアトリス様が問題を起こしたと言われているのです」
「うむ。記憶にはないな。けど、何かやらかしたかな私」
「いえ、私が記憶している限り糾弾されるようなことは何もありません」
ルイーザが言うとベアトリスは小さく頷く。
「殿下、何か問題でもありましたか?」
ベアトリスが質問すると、アルフォンソはフンと鼻を鳴らす。
「ヤーヘから話を聞いている。ベアトリス、お前はこのヤーへを苛めていたではないか」
「具体的にはどのようなことを?」
「無視をして仲間はずれにした」
アルフォンソに言われてベアトリスは首を傾げながらルイーザに視線を向けてくる。
「殿下、学園生活中の三年間、ヤーヘさんとベアトリスさんはクラスも違いますし接点がありませんでした。無視も仲間外れも該当しないかと考えます」
「お茶会を開催するときに一度も呼んだことがないと聞いているが」
腕を組んだアルフォンソが文句を言ってきた。プレッシャーを感じさせる言い方に、ルイーザはウンザリしながらも表情を変化させずに返答する。
「殿下、それは勘違いです。ベアトリスさんはお茶会などというものは一度たりとも
「あっただろ。このアルフォンソも招待されていたぞ。何故か早朝からだったから行ったことがないが」
「殿下、それは恐れ多いかとは思いますが、早朝稽古のお誘いです」
「早朝稽古?」
眉間を寄せているアルフォンソに対して、ベアトリスが骨付き肉を右手に掲げながら話に割り込んでくる。
「やはり、稽古は朝では。特に冬は最高。早朝の清々しい時間に剣を振り回し体を鍛えることで一日の感覚が研ぎ澄まされていく。そんな爽快さがあると考えられませぬか」
「いいから、ベアトリス様は黙っていてください。話がややこしくなりますので。ということで、殿下。早朝稽古は殿下以外には希望者のみにしかお伝えしていませんでしたので、同じクラスでも無かったヤーヘさんを招待したことがなかったことは妥当かと存じ上げます」
「このパーティーに参加されている方で、今からでも稽古をやりたいものはおられぬか~?」
「ベアトリス様は、いい加減黙れ」
ルイーザがベアトリスの口を塞ぐとアルフォンソは納得できない。と言わんばかりにその場でゆっくりと円を描くように歩き始める。
「では、靴を盗んだ事件は?」
「靴を盗んだ? ええと……」
ルイーザはベアトリスの口から手を放す。目を閉じて靴に関連する学園でのトラブルの記憶を呼び起こし、一つだけ思い出したことを話し出す。
「一年は前のことです。浴場でベアトリスさんの靴が無くなるいう事件がありました。代わりに残されていた靴がありました。しかしながら、その靴はベアトリスさんが履けるようなサイズではありませんでした。ですから、その事件のことでございましたらベアトリスさんが靴を盗んだ。というよりは、盗まれた。が正しいかと考えます」
「ちょっと待て。お前はヤーヘが靴を盗まれた被害者ではなく、盗んだ犯人だというのか?!」
アルフォンソは足を止めると詰問するかのようにルイーザのことを睨みつけてくる。しかし、ルイーザは平然としている。
「犯人は誰かはわかりません。が、水虫になっているかと考えます。水虫の女が犯人でございます。ご安心くださいませ殿下。ヤーヘさんが水虫でなければ犯人ではございません。ヤーへさんの足を調べられて、無実を証明されるのが最良の案かと愚行いたします」
ルイーザの言葉に周囲がざわつく。
「貴様ッ! ヤーヘが水虫だと言うのか!!」
アルフォンソが更に怒りの表情を見せる。だが、ルイーザは気にしない。予測していました。と言わんばかりに質問をする。
「殿下、ヤーヘさんの足の臭いを嗅がれたことはありますか?」
「そんなことは、一度しか無いわ!」
アルフォンソの反射的な返答に周囲は一歩引いている。
「その結果はどうでしたか?」
とルイーザが質問するが、アルフォンソはハッと体を少し硬直させると首を小さく振った。
「まあ良い。それはどうやら証拠がなさそうだ。では、次こそは間違いない。これは目撃者もいるからな知らぬとは言わせぬぞ。先日、階段でヤーへのことを突き飛ばそうとしただろ? 何故そのようなことをしたのか? いや、聞くまでもないか。
アルフォンソが名指しでベアトリスを詰問するが、その時ベアトリスはワインの三杯目に取り掛かっていた。ピザを咥えながら視線を壇上に移動させる。
「聞いていたのか!?」
「うわくわありましたぁ」
ベアトリスはピザを一気食いしながら返答をする。
「殿下、このベアトリス・アルヴォル、決闘をお受けいたします」
「はっ? 何? ベアトリス、お前、何を言ってる?」
「殿下、言葉ではわかりあえませぬと存じます。突き飛ばした突き飛ばされたなどと言われましたもよくわかりませんし、真偽の
「いや、えっ? お前が言っていることがわからないが」
「否ッ! 殿下、頭で考えるから真実がわからなくなるのです。剣を抜いてください。さすれば見えてくるはずです」
「お前、パーティーには剣など持ってきていないぞ」
「大丈夫です殿下。衛兵から借りればよろしいのです」
「まっ、待て。そんなことより、先程のことは認めるのか?」
「よくわかりませぬ。衛兵! 衛兵!」
ベアトリスは剣を用意させようと衛兵を呼びつけている。このままでは、この場所で決闘を始めかねない。ベアトリスを見かねたルイーザはアルフォンソに話しかける。
「殿下、その事件はヤーヘさんも怪我をされていないご様子ですので、何らかの誤解より生じたものかも知れません。とは言え、決闘で全てを決着されたい殿下のお気持ちもお察しいたします。しかしながら、本日、この場での決着は折角のお祝いの席にふさわしくないとおっしゃられることも存じ上げております。ですから明日に学園の闘技場で決闘させていただくことお許しください」
「ルイーザ、勝手に決めるなよ。でも、それでも良いか」
「ま、待て、決闘など……」
「殿下、勿論、殿下はどんな装備を使われても代理の方を呼ばれましても問題はありません。殿下は王族でございますから」
アルフォンソの待ったに対してルイーザが話に割り込む。あからさまに有利な条件を得たアルフォンソはニヤリと口元を吊り上げただけで反論を止める。
「おかしいだろルイーザ。決闘とは語り合いたい者同士が平装で行うものではないのか? 戦場と勘違いしているわけではあるまい」
「その通りですベアトリス様。ですがそうでない場合もございます。不満がございましたら決闘を止められますか?」
「いや、やるけど」
「では、問題ありませんね」
「わかったルイーザ。それでは殿下、明朝、闘技場でお待ちいたします」
ベアトリスは持っていたワインを飲み干すと、テーブルの上に並べられていた骨付き肉を二本両手に持ち会場を後にしようとする。目で追いかけていたルイーザは心の中でため息をつきながら途中まで口をつけたワイングラスをテーブルの上に置いた。そして、最後までいたかったんだけどなぁ。とこれまた心の中で呟いてベアトリスの後を追いかけた。
★ ★ ★
翌日、闘技場には会場に入り切らないほどの人がいた。上の階には立ち見をしている爵位が低いがなんとか闘技場に入らせてもらった貴族も少なくない。千人ほどの観客を収容できる闘技場が、昨晩の今朝で満員になるとは、尋常ではない情報伝達があったと言える。
観客のざわめきの中、決闘にしては十分なスペースがある円形のグラウンドでは、本日の主役である人物たちが集まっていた。
「殿下、お待ちしておりました」
ベアトリスとルイーザは深々と頭を下げた。二人の前には、アルフォンソと背後に立つヤーヘ、さらにもう一人、親衛隊の服装をした壮年の男性がいる。
「本日の決闘はこの騎士団長が立会をさせていただきます。それでは双方、前へ」
壮年の男性が声をかけるとベアトリスとアルフォンソが一歩前に出た。
ベアトリスは鎧などは着ていない。動きやすい服装で両手に
対するアルフォンソはフルフェイスのヘルメットを被った。さらに
「騎士団長殿、ここは戦場ではございません。流石に重装備すぎて不均等かと考えます」
ルイーザがクレームをつけるが、騎士団長は同意しないと言わんばかりに睨みつけてくる。
「この決闘、装備は使いやすいものを使うことでお互いに了承していると聞いておるが。それとも、決闘を取りやめたいとの申し出か?」
「いえ、そうは申しておりません。では、あくまでもこの決闘はフェアな条件で行われるとの認識でよろしいですか?」
「勿論」
ルイーザは、騎士団長の強い頷きを見てからベアトリスに視線を移すと、ベアトリスは柔軟運動を行っていた。体を大きく伸ばすと足のスタンスを取ってレイピアを構える。
「準備は出来ております」
ベアトリスの言葉に騎士団長は同意したとばかりに頷く。相手であるアルフォンソも同じように頷くのを見て騎士団長は合図を出す。
「では、始め!」
気合を入れた視線を投げつけるベアトリスに対してアルフォンソはかかってこい。とばかりに右手を手前側にクイクイと動かした。余裕を見せたつもりのその動作は、決闘においては無意味。もし、同じような装備であればベアトリスも多少は遠慮したが、王子とは言え完全武装の相手にはそんなものは見せるはずがない。瞬時に駆け寄り、レイピアの射程距離に入る。
金属装甲鎧に刺突用の武器であるレイピアは相性が悪い。突きが効かないのだ。鋭い剣先だが相手を貫くことなど不可能。易易と魔法強化された金属の鎧表層で弾き返される。が、ベアトリスにとってはそんなことは百も承知。狙いすました突きを放っている。
鎧の各パーツの隙間。肘の可動部の隙間に剣先は突き刺さろうとしている。手をクイクイ動かした行為を完全に咎めようとしたのだ。もし、アルフォンソの鎧が一般品であればこの一撃で決まっていたはずだ。しかし、魔法がかけられた鎧は継ぎ目とは言え簡単には破れない。
鎧の表皮を火花を散らしながらレイピアが滑っていく。完全に腕が伸びた状態で隙きができたのはベアトリスの方。アルフォンソにショルダータックルを受けそうになる。だが、その攻撃は予想範囲。ベアトリスは無理に力で対抗せず、アルフォンソの攻撃の勢いを受け流して距離を取る。
再び、足のスタンスを広げて構えるベアトリスの姿を見て、誰しもがこの試合、長くなりそうだと思った瞬間、ベアトリスが再び踏み込む。頸部への鋭い一撃。喉元に突き刺さりそうなレイピアはアルフォンソのブロードソードで受け流される。しかし、ベアトリスの動きは止まらない。装備は明らかにアルフォンソの方が上だが、剣技のレベルが段違いすぎる。
ベアトリスの剣先はアルフォンソの手前でクイッと軌道を変える。その動きにアルフォンソは翻弄される。レイピアで頭部を何度も叩かれる。
「ああ、レイピアは叩くものではないとあれほど言いましたのに」
ルイーザの呟きなど聞こえない。ヘルメットのおかげでダメージはそれほどと見て取ったベアトリスは先程のお返しとばかりに肩から突っ込む。思いっきり弾き飛ばして倒れたところにレイピアを突きつければベアトリスの勝ちだ。ルイーザがベアトリスの勝利を確信した瞬間、頭をしこたま叩かれてフラフラになっているアルフォンソのブロードソードがベアトリスを襲う。
素早い斬撃にベアトリスは避けきれない。無抵抗であれば顔面が上下に二つに切り裂かれるはず。ルイーザは一瞬目を逸らしたくなる。が、集中し直す。どんなことがあろうと見届けるのが自分の役目であると。ベアトリスのことを信じると。
その期待にベアトリスは応える。ブロードソードの起動に反応している。予想はしていなかったが、体は勝手に動きブロードソードを顔面で受け止める。
「馬鹿なッ!」
驚愕の声を出したのは騎士団長。ベアトリスのことを凝視している。それもそのはず。ベアトリスはブロードソードの斬撃を歯で受け止めた。そして、振り切られる勢いを利用してバック転して致命傷を逃れる。
後転しながら再び体勢を立て直そうとするベアトリス。もし、この時に追撃があれば流石のベアトリスにも為す術がない。必殺の一撃をその身に受けるしか無かったはず。だが、その攻撃は何処からも来ない。
アルフォンソは地面に倒れていた。ブロードソードも手元から失われている。自動迎撃した動きにアルフォンソが耐えられなかったのだ。
「殿下、私の勝ちです」
駆け寄ったベアトリスがまだ立ち上がることが出来ないアルフォンソにレイピアを突きつける。判定はどうだとばかりにベアトリスが騎士団長に視線を移すと、騎士団長は強く頷き、「勝者、ベアトリス」と宣言をする。
決闘の決着がついた。そう考えたルイーザが駆け寄ろうとすると、騎士団長は腰にぶら下げていたレイピアを抜いた。
「では、第二戦を始めようか」
「ちょっと待って下さい。それはおかしくありませんか?」
ルイーザが話に割り込むと、騎士団長にレイピアの先端を向けられる。
「部外者は黙っておれ。それより、アルヴォル殿の意見を聞こう」
「構わない。大いに剣で語り合おう!」
強気に返事するベアトリスに騎士団長は何度か
「待て待て騎士団長。我を笑い者にする気か?」
「いえ殿下、ここで自分が勝つことで……」
「構わん。ベアトリス、何か望みはあるか述べてみよ」
アルフォンソに言われたベアトリスは腕を組む。そして、両手をポンと叩き、
「騎士団長とけ……」
と言いかけたところでルイーザに口を抑えられる。
「殿下、殿下とベアトリスさんは婚約されていたのですか?」
「そうだ」
「もう一度お伺いさせていただきますが、殿下とベアトリスさんは婚約されていなかった。実際はそうではありませんか?」
アルフォンソは即答を避ける。目を閉じてルイーザの言葉を咀嚼するように腕を組んで考えてから答える。
「婚約とは個人的なものではない。最終的には陛下にお確認するしか無いが、きっと婚約などはされていなかったことが明らかにされることであろう」
「ありがたきお言葉感謝いたします殿下」
ルイーザは頭を下げながら、首を傾げているベアトリスの頭を下げさせる。
「気にするな。楽しませてもらったぞ」
アルフォンソは満足そうに闘技場から去っていく。それもそのはず。負けはしたがアルフォンソが失ったものは何もない。結婚への障害であった婚約も破棄をすることもなく無かったことにできるであろう。ベアトリス側が望むうえ、決闘での要求であることを盾にすれば文句を言う人間はいない。
一番つまらなそうなのは観客だ。肩透かしを喰らったように釈然としない表情のままゆっくりと闘技場から出ていく。
「では、続きを始めようか」
観客がまばらになった時点で、ベアトリスが剣を構えた。騎士団長も剣を抜く。どうやら、二人とも戦闘狂に違いない。何も意味もなく決闘を始めようとしている。
ルイーザはもう止めることが不可能な二人を見て、分かっていました。とばかりにため息をついた。
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