戦火に殺された猫耳忍者娘、戦争を殺すために世界の経営者へと成り上がる2 〜宮廷円舞〜

藍条森也

第一話 偽妹誕生!

一章 魔剣〝魂砕き〟のメインクーン

 その冒険者が入ってきたとき、冒険者ギルドにいた誰もが振り向き、息を呑んだ。

 それほどに美しい少女だった。そして――。

 人間ではなかった。

 頭頂部から生えた猫の耳。

 ピョコピョコとよく動くフサフサの尻尾。

 何者にも媚びることのない野性的な美貌。

 〝知恵ある獣ライカンスロープ〟。

 その名で呼ばれる種族の少女だった。

 勘違いされることもよくあるが、〝知恵ある獣〟とは決して、人間がつけた蔑称などではない。

 ――獣は人間よりも強く、雄々しく、美しい。

 その信念のもと、

 ――自分たちは獣化した人間ではない。人間化した獣なのだ!

 という誇りをもって、その種族自らが付けた名前だ。人間が蔑んで呼ぶ場合は『獣人』と呼ぶ。もっとも――。

 誇り高き野性の〝知恵ある獣〟相手にそんな蔑んだ態度を取ったりすれば、ほとんどの人間はそのことを一生、後悔する羽目になるのだが。

 見事なまでに引き締まった、いかにも敏捷そうな肢体を忍び装束に包み、二本の刀を腰に差した〝知恵ある獣〟の少女は、自分に向けられる無数の視線をまるでないもののように軽やかに無視し、まっすぐ受け付けに進んだ。

 肩に担いでいたザックをおろし、カウンターの上に置く。

 「注文のマルガリータの実。確認して」

 そう言う表情も口調もまったく愛想というものを感じさせない。しかし、その素っ気なさこそがまさに『人の姿の猫』という印象をより強いものにし、ただでさえ魅力的な少女をより魅力的に見せている。その声もまるで歌姫のように高く澄んでいて美しい。

 『確認して』と言われた受け付けの女性はその声を聞いていないようだった。ポウッと、まるで熱に浮かされたような表情で少女に見とれている。その姿はまさに『恋する乙女』。男女を問わず、〝知恵ある獣〟の野性的な美貌は人間を魅了する魅力に満ちている。

 「確認して」

 受け付けの女性が反応しないことに苛立ったのだろう。声をかすかに荒げて〝知恵ある獣〟の少女は重ねて言った。受け付けの女性はその声にようやく我に返った。

 「あ、は、はい、マルガリータの実ですね。いますぐ……」

 受け付けの女性はあわててザックのなかからゴツゴツした木の実を取り出し、数を数え、品質を確認する。その場にいた冒険者たちが騒めく。

 「おいおい、マルガリータの実だって?」

 「ってことは『悪酔いの森』まで行ったってのか?」

 「あそこは結構ヤバい魔物が出るはずだぞ」

 「ああ。中級クラス、それも、少なくとも三人ぐらいはいるパーティーじゃないと危なっかしくて向かえやしないぜ」

 「そんなところにあんな娘ひとりで行ったってのか?」

 「馬鹿、〝知恵ある獣〟だぞ。それぐらい、当然だろうが」

 〝知恵ある獣〟の身体能力の高さは人間の比ではない。剣をもった人間の兵士が一〇人いても、素手の〝知恵ある獣〟ひとりにいともたやすくたたき伏せられる。そんな〝知恵ある獣〟であれば、例えたったひとりの少女であっても、中級以上のパーティーでなければ向かえない森に向かい、生きて帰ってきても不思議はない。

 マルガリータの実の確認を終えた受付嬢が感嘆の声をあげた。

 「さすがです! この数、この品質。並のパーティー三組分の働きはありますね」

 その声に――。

 冒険者たちの間に再びざわめきが起きた。

 「おいおい、聞いたか? 並のパーティー三組分だとよ」

 「ああ、さすが〝知恵ある獣〟。ものがちがうな」

 「でも……」と、冒険者のひとりが声を潜めた。

 「その〝知恵ある獣〟がどうして、こんなところで冒険者なんてやってるの? 〝知恵ある獣〟って普通、野山のなかでひとりで生活しているものじゃなかった?」

 誇り高き野性の種族、〝知恵ある獣〟。

 その誇り高さ故に徹底した個人主義者であるかの人たちは群れに入ることを決してよしとしない。まして、人間たちが群れ集う都市部などには決して近づかない。

 冒険者のひとりがさらに声を潜めて言った。

 「そりゃあ……あれだよ、ほら」

 極端に声を低くし、言いずらそうにしている。とうの〝知恵ある獣〟の少女に聞かれるのを怖れているからだ。

 「奴隷にされていたのが何かの拍子に逃げ出したか、奴隷にされた親から生まれたか……」

 たしかに、とうの〝知恵ある獣〟に聞かせられるような話ではない。冒険者たちは眉をひそめ、互いに顔を見合わせた。

 ――ヒト種族のなかでもっとも野性的で美しい。

 そう呼ばれる〝知恵ある獣〟である。

 『優美な美しさ』という意味でなら随一とされるのはやはり、〝森の麗人エルフ〟である。しかし、『野性的な』という条件であげるなら〝知恵ある獣〟が筆頭となる。

 〝知恵ある獣〟はその類を見ない美しさ故に人間から愛玩用に求められることが多い。何者にも媚びることのない野性味が、『屈服させ、服従させたい』という人間の欲望をひどくくすぐるのだ。

 そのために、〝知恵ある獣〟を狩る『プロ』がいる。

 個々の身体能力では人間を圧倒する〝知恵ある獣〟だが、あまりに徹底した個人主義のために協力すると言うことができない。常に単独で行動する。そのために、人間側の連携攻撃にしてやられ、捕えられることが多い。

 もちろん、捕えたからと言って誇り高き〝知恵ある獣〟を従えられるわけではない。そこで、薬を使う。薬品を使って精神を破壊し、意思を奪い、従順な奴隷に仕立てあげるのだ。そうして奴隷化した〝知恵ある獣〟の女性に子供を生ませ、生まれついての愛玩動物として仕込むことも多い。この過程にもやはり、れっきとした『プロ』がおり、裏世界ではそうして『繁殖させられた』〝知恵ある獣〟の子供たちが高値で取り引きされている。

 そんな〝知恵ある獣〟の子供たちが自由になる機会などめったにない。『めったにない』と言うことは『たまにならある』と言うことだ。例えば、戦乱によって飼い主が死んだときなどだ。その際、運良く生き延びることができたなら自由の身になることも出来る。人間の都市で、人間の群れに交じって生活している〝知恵ある獣〟はほとんどがそんな出生を抱えている。

 ――だったら、この一際、美しい〝知恵ある獣〟の少女も……。

 冒険者たちはそう想像し、眉をひそめあったのだ。

 とうの〝知恵ある獣〟の少女は、そんな冒険者たちの疑念など軽やかに無視して凜々しく、野性的な美しさを見せつけているばかりだったけれど。

 「おっ、帰ってきたのか」

 受付嬢の声を聞きつけたのだろう。ギルドマスターが奥から姿を現わした。『ギルドマスター』と言うより、『酒場の親父』と言ったほうがふさわしいその中年男は、カウンターの上に並べられたマルガリータの実を一目見るなり、満足した笑みを浮かべた。

 「うん。質量共に申し分なし。さすが、〝魂砕き〟のメインクーンだな」

 〝魂砕き〟のメインクーン。

 その名前に――。

 冒険者たちの間に三度みたび、ざわめきが走った。ただし、今度は戦慄と共に。

 「〝魂砕き〟のメインクーンだって⁉」

 「この一年あまりで一気に有名になった冒険者だよな?」

 「ああ。なんでも、最初のクエストで悪徳中級パーティーを捕えて、いきなり上級二位でスタートしたとか……」

 「あんな若い子だったの⁉ まだ一六、七でしょう?」

 「なんでも、たいそうな魔剣を使うって話だったよな?」

 「ああ、おれも聞いたぜ。その魔剣に斬られたものは魂を砕かれ、二度と戦えなくなるとか」

 「豪傑として知られた〝鉱物の主ドワーフ〟のセキエイが引退したのもメインクーンに負けたからだって聞いたぜ」

 「セキエイだけじゃない。〝森の麗人エルフ〟の魔導士、ブルーレカもだ」

 冒険者たちのざわめきはとどまるところを知らない。ひとりが口を開くつど、そのざわめきは大きさを増し、さらに大きなうねりとなって別の冒険者に口を開かせるようだった。

 その騒めきのなか一際、大柄な冒険者が立ちあがった。いかにも危険そうな笑みを浮かべつつメインクーンに近付く。

 「げっ、ヤバい。クリヌムだ」

 「あいつはかわった武器には目がないからな。目を付けられちまったぞ」

 「親父もよけいなことを言ったもんだ」

 そう言われたギルトマスターの親父も自分のうかつさに気が付いたのだろう。両手で口をふさいだがもちろん、もう遅い。

 クリヌムという男はのっそりとメインクーンに近付いた。クリヌムは背はさほど高くないが、とにかく幅が広く、厚みがある。〝鉱物の主〟を人間サイズに拡大したような体格をしている。腕も脚も太く、細身の少女にすぎないメインクーンなどその一本いっぽんのなかにすっぽりおさまってしまいそう。その見た目にふさわしく、刺だらけの巨大なつちを背中にかけている。

 赤銅色に灼けた傷だらけの肌も凄み満点。荒事と縁のない上流階級の娘でもあれば一目、見ただけで悲鳴をあげて倒れてしまうだろう。護衛として雇う場合は頼もしいことこの上ないだろうけれど。……裏切られる心配さえなければ。

 この事務所を拠点とする冒険者のなかではまちがいなく最強のひとり。クリヌム自身は大の喧嘩好きで誰かれかまわず喧嘩を吹っかけるが、自分からクリヌムに喧嘩を吹っかける冒険者はひとりもいない。少なくともこの近辺では。

 「よう、姉ちゃん」

 と、馴々しく声をかける。尻をさわってこなかっただけでもこの手の男としては上等だろう。

 メインクーンは露骨にいやそうな表情でクリヌムを見た。

 「なんでもたいそうな魔剣をもっているそうじゃねえか。お前さんみたいなお嬢ちゃんには過ぎた代物だと思ってな。どうたい、譲っちゃくれねえか? タダとは言わねえ。いくらかなら支払ってやるぜ。まあ、もちろん、いやだって言うなら……」

 クリヌムは威嚇いかくのための獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

 メインクーンは『またか』と言いたげに小さく息をつくと、ベルトの止め具を外し、長刀を鞘ごと取り外した。反りを打った刀はラ・ド・バーンの北方大陸ではめずらしいが、忍び装束に身を包んだ猫耳少女にはよく似合う。

 「この刀がほしいわけ?」

 「ああ、そうだ。そいつさ。お前さんのもつ魔剣だよ」

 「この刀がほしいのね?」

 「そうだと言ってるだろうが。いやだって言うならその気になるまで付き合ってもらうことになるが……」

 「いいわよ」

 メインクーンはあっさりと言った。あまりに簡単な言い方にギルドマスターの親父や他の冒険者たちはおろか、クリヌム本人でさえ呆気にとられた。

 「一〇〇万リーフで売ってあげるわ」

 「へへっ、物分かりがよくて結構なこった」

 クリヌムは長刀を受け取ると懐から小さな宝石を取り出してメインクーンに投げ付けた。

 「一二〇万リーフ分の価値は充分にある。言い値より高いが、まっ、物分かりのよさに対する褒美ってとこだな」

 一二〇万リーフといえば一家族が半年は暮らせる金額だが、すぐれた魔剣が手に入るとなれば冒険者にとっては安いものだ。とくに、クリヌムのような武器コレクターにとっては。

 クリヌムは長刀を手に上機嫌で出ていった。さっそく試し斬りをするつもりなのだろう。

 ギルドマスターの親父がささやくように尋ねた。

 「いいのかい? 大事なものなんだろう?」

 「いいのよ。ここにくる途中の町で一〇万リーフで買ったものだもの」

 「へっ? ってことは、やつにいっぱい食わせてやったってわけかい? いやあ、見かけによらず度胸あるねえ」

 「騙してなんていないわ。わたしは魔剣なんてもっていないもの」

 「へっ? なら、どうして……」

 魔剣〝魂砕き〟のメインクーンなんて呼ばれているんだ?

 そう尋ねようとした親父の言葉をメインクーンはさえぎった。

 「それより、これからユーコミスに向かうんだけど、なにかついでの仕事ない? 配達の仕事でもあると助かるんだけど」

 「おお、ならピッタリの仕事があるぞ。スノードロップへの手紙配達だ。まあ、お前さんの冒険者ランクからすると簡単すぎで紹介するのは気が引けるんだがね」

 「何を言っているの。手紙は想いを伝える大切なものでしょう。大事な仕事じゃない」

 それに、配達の仕事を請け負えば、ギルドの騎竜をただで使わせてもらえるからありがたいし。

 メインクーンはそう付け加えた。

 ギルドマスターの親父はメインクーンの答えに破顔した。

 「おおっ! さすが、上級冒険者ともなると言うことがちがうねえ。いや、実は配達の仕事は溜まりがちで困ってるんだよな。何しろ、若くて駆け出しの冒険者ほど、派手な仕事を引き受けて一足飛びに有名人の仲間入りしたがるからな。かと言って、有名どころは難易度の高い仕事で手一杯だし、隊商に任せたんじゃ無事につくかどうか心許ない。あんたみたいな腕の立つ冒険者に引き受けてもらえるなら大助かりだ」

 ギルドマスターの親父はそう言ってはしゃいでいたが、突然、

 「てめえっ!」

 事務所を揺らすような怒号と共にクリヌムが戻ってきた。頭から湯気を立て、ズシズシと音を立てて歩いてくる。メインクーンに向かって先の折れた長刀を突き付ける。

 「よくもだましやがったな! 岩に斬りかかったらあっさり折れちまったじゃねえか!」

 メインクーンは小バカにしたように鼻を鳴らした。

 「長刀で岩に斬りかかったりしたら折れるの当たり前でしょう。何を怒っているの?」

 「やかましい! こいつはただの長刀じゃねえか!」

 「だから、そう聞いたでしょう。『この刀がほしいの?』って」

 「そ、そうです、クリヌムさん」

 ずっとメインクーンの美貌に見とれていた受付嬢が、おっかなびっくり、カウンターに半分、隠れるようにしながら口をはさむ。

 「メインクーンさんはたしかに『この刀』と言っていました。あなたもそれで納得して買い取ったんじゃないですか」

 「やかましい、引っ込んでろ!」

 一喝されて受付嬢はすぐそばに雷が落ちたかのように縮みあがった。

 「おれがよこせと言ったのはこんなもんじゃねえ。てめえのもつ魔剣なんだよ、魔剣!」

 「そんなもの、もっていないわ」

 「嘘付け! なら、その後ろ腰に差してるのはなんだってんだ⁉」

 「これはただの短刀。魔剣なんかじゃないわ」

 「やかましい! だまされねえぞ。そっちが本当の魔剣にちがいねえ。さあ、よこせ、いますぐよこせ、よこさねえってんなら力尽くでもぎ取ってやる!」

 クリヌムはそう叫ぶと背中に背負った巨大な槌に手をかけた。

 普通であれば――。

 人間が〝知恵ある獣〟に喧嘩を売るなどあり得ない。例え、人間の側が屈強な大男であり、〝知恵ある獣〟の側が細身の少女であろうとも。人間と〝知恵ある獣〟の間にはそれだけの身体能力の差がある。ただし――。

 人間はヒト種族のなかでもきわだって個体差が大きい。人間の種族全体の能力はまさに全ヒト種族の平均値と言っていいのだが、ごくごく稀に例外が存在する。

 〝知恵ある獣〟よりも強い人間。

 〝森の麗人〟よりも魔力の高い人間。

 そんな人間が本当にごくたまにだが存在するのだ。それは他のヒト種族にはない、人間だけの特性。

 このクリヌムという大男もそうなのだろう。たしかに、この男からは人間離れした力を感じる。この場にいる冒険者たちのなかでは別格で強い。年端もいかない少女が屈強な大男に絡まれているというのに、誰ひとりとして助けようとしないのも納得できる。『人間』という種族のなかでは例外的な強者であることはまちがいない。とは言え――。

 「おい、いい加減にしろよ、クリヌム」

 さすがに見かねたギルドマスターの親父が口を挟んだ。

 「お前はたしかに自分で納得して金を払ったんだ。これ以上、騒ぎを起こすようなら冒険者登録を抹消するぞ」

 「やかましい!」

 クリヌムは一声、怒鳴ると、背中に背負った巨大な鎚を取り出した。周りにいた冒険者たちが一斉に飛びのき、暴れられるだけの空間を作る。ギルドマスターの親父はと言うと――。

 ためらうことなく奥に引っ込み、身の安全を確保した。この辺りの抜け目のなさはさすがである。

 己の腕一本で生きるのが冒険者。舐められたらこの世界では生きていけない。それだけに冒険者同士の喧嘩や決闘など日常茶飯事。ギルドの受け付けもそれを前提として大きくて頑丈な作りになっている。

 ――冒険者同士のいさかいには口出ししない。

 というのもこの業界の暗黙のルール。ギルドマスターがそのルールを守るのは当然のことだった。

 クリヌムは巨大な槌を両手で握り、大上段に振りかぶった。

 「がああっ!」

 獰猛な叫びと共に真っ向から振り下ろす。だが――。

 振り下ろしたときにはメインクーンはすでにいなかった。魔法のような足さばきで横に跳んでいた。瞬時のうちに引き抜いた短刀を右手にもって巨大な槌をはじいて、受け流し、同時に左拳が稲妻の速さで繰り出される。

 メインクーンの突きは正確にクリヌムの顎を射抜き、その脳を激しく揺らした。ただ、それだけで――。

 クリヌムはくず折れていた。意識を失ったかのように両膝を付く。その表情は『なにが起こったのかわからない』とまざまざと告げていた。

 誰もが息を呑んでいた。

 魔剣〝魂砕き〟のメインクーン。

 その名は聞いていた。数々の武勇伝も知っていた。しかし、本物を見たのははじめてだ。まさか、これほど見事な手際の持ち主とは。まだ一〇代の少女が自分の三倍は肉量がある大男を一撃で倒してのけたのだ。息を呑むのが当然だった。

 クリヌムは動けなかった。脳を激しく揺さ振られたというのもある。しかし、それ以上に腕自慢の自分が華奢な少女に手もなくひねられたという精神的な衝撃が大きかった。

 メインクーンはそんなクリヌムを冷ややかに見下ろした。

 「わかった? これが〝魂砕き〟の由来。腕自慢の冒険者がわたしみたいな小娘にあっさりやられたら自信をなくして二度と戦うことなんてできなくなるでしょう? だから、〝魂砕き〟。武器ではなく、わたしの技に付けられた銘よ」

 メインクーンはそれだけを言うとカウンターの上の袋を手にとった。

 「配達の仕事、たしかに請け負ったわ。裏の騎竜、借りていくわね」

 そう言い残すと呆気にとられた冒険者たちを尻目に事務所を出ていった。ひょっこりと奥から出てきたギルドマスターの親父は、黙ってギルドの冒険者名簿からクリヌムの名を抹消したのだった。

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