2‐10本物の予言者がいた
「私の
姐がはじめて、予言をしたのはいつだったか。
客の妻と娘は今晩、火に巻かれて命を落とす――といって。
客は気分を害した。あたりまえだ。
その後、
事情を聴けば、火事があって、妻とその娘が焼け死んだのだという。姐は真っ青になった。現場を教えてもらい、ふたりで一緒にむかった。焼け落ちた家の側では昨晩の男が泣き崩れていた。
それからだ。
姐は訪れる御客に時々、予言をするようになった。
「姐が死を視た者は、予言した期日にかならず、命を落としました。あるいは賭け事なんかの助言をしたこともありましたね。ちょうど、今くらいの時期です。後宮では竜を模った舟に乗って茶会なんかを催すそうですが、巷では競漕で賭けをするんですよ」
「姐が勝つといえば勝ち、敗けるといえば勝率の高いはずの舟でも敗けました。いやあ、百発百中でしたね」
「それはすごいな。都でもそうとう話題になっていただろう」
「宿を転々としていたので。でもまあ、捜して訪ねてきたものもいましたね。ただ、そういうときは、
姐の身に危険なことがせまっていても、予知して避けることはできない。そのため、妙は姐のために心理を編みだす必要があった。
「でも、姐は五年前に失踪しました。占い師をはじめたのも、予言と似たようなことをしていたら、姐さんの手掛かりがつかめるかとおもったからです。都から離れていなければ、後は捜していないのは後宮だけなんですよね」
「だから、
「そういうことです。期待はずれでしたけど」
夢蝶嬪が本物ならば、姐の手掛かりもつかめるのではないかとおもった。
だが、夢蝶嬪はただの詐欺師だ。
妙は落胆していた。累神は気まずそうに話題を転換する。
「詐欺師だとして、あれはどう取り締まればいい」
詐欺を放ってはおけない。だが、実際に回復している患者がいるかぎり、偽薬であると証明するほうが難しかった。
「おそらくは、告発するまでもないとおもいますよ」
妙はため息をつきながら、言った。
「ああいうのは長続きしません。ひとまずは、監視を続けてください。あと、有事の時のために医官を手配できるようにしておくことをおすすめします」
「医官だって?」
夢蝶嬪が飲ませているものは、薬ではない。だが、毒でもないはずだ。そう言いたげな累神に妙は背をむける。
「先に帰っていてください。ちょっと想いだしたことがあるので」
夢蝶嬪の瞳を想いだす。患者を抱き締めていた時も、男の子の頭をなでていた時も、彼女は優しい眼差しをしていた。そこに嘘はなかったはずだ。
(一度くらいは忠告しておくか。取りかえしのつかないことにならないうちに)
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