宵の一刻

藤泉都理

小雪




 日の恩恵を一切受けない路地裏。

 ビルの壁に肩と後頭部を預けた少年の頬と瞼は膨れ上がり、顔のあちらこちらが切れてか細い血が流れていた。

 見るも無残なその顔に、けれどその少年の幼馴染は駆け寄る事もなく話しかける事もなく、それどころか冷淡に少年の胸目がけて蹴りの一撃を喰らわした。


 途端。


 少年の身体が胸を中心に一気に、あり得ぬ程に膨れ上がったかと思えば、針で刺した風船のように呆気なく破れ、握りしめた石灰石のように粉々に砕け散った。


 夥しい血肉や骨が少年の幼馴染に、ビルの壁に、地面に注がれるはずだった。


 が。


 何もなかった。

 何も残らなかった。

 少年の痕跡は微塵もなかった。




 少年の幼馴染は瞼を少し下ろして、息を吐いた。

 少し強く、長く。

 そして呟いた。


 何処に居るんだよ。と。











(2022.11.26)


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