僕は女騎士

伊流河 イルカ

プロローグ

 「本物と偽物の違いって何だろうな」

赤い月と緑の星が浮かぶ砂漠の夜空の下で、ツインテールの小さな少女が、こちらを向かずに砂漠の地平線に、双眼鏡を向けながら、私に問いかけた。

「急な話ですね。どうしたんですか?」修道服を着た赤毛の少女が訪ね返す。

「何、魔物が来るまでの暇つぶしだよ。ソンからの連絡もないし、まだまだ時間がかかりそうだ。」少女はやれやれという顔で双眼鏡を下ろし、こちらを向いて座った。

「ゼロはどう思うかね?」少女は私に問いかけた。

私は腰に差してある剣を鞘と一緒に抜き、腰を下ろした。

「サヤ二号はいつも急に、話を始めるね。」私がそう言うと、少女はニコリと笑った。

この小さな少女、サヤ二号と、私、ゼロは、いつもこの言葉を交わしてから話し出す。仲間の修道服の少女、アンニも、このやり取りを見てから長話になると察し、私の横に座った。

「随分アバウトなお題だね、それは仮想現実とかそういう話し?」私は首を傾けながらサヤ二号に聞いた。

「仮想現実か、そこまで限定するつもりはないけど、そうだね、ゼロにとっては仮想と現実が本物と偽物なんだね。」

「仮想現実?」アンニがなんのことか、解らない顔をしている。

「えーとVRゲームの中の世界のことだよ。」私は答えた。

「VR?・・・ゲームは転生者様達がよく言ってますね。」彼女はさらに考え込む。

私はしまったという顔をしながら、サヤ二号を向く。

サヤ二号は、少しため息をつきながら、アンニの方を向く。

「まぁ簡単に言うと、人工的に作った体感できる現実のことかな、例えば、そこにはリンゴはないのに、視覚や聴覚に情報を与えて、そこにリンゴがあると錯覚させるみたいな。」

「すごい!転生者様の世界では、そんな神様のような事が出来るのですか!」アンニは目を輝かせながらこちらを向く。顔が近い。

「いや…そんな大した事は」私は目を背けながら少し下がる。

アンニは顔が近い事に気付き、ハッとした顔で目を背け「すいません。」と小さく呟いた。

「いや…」と私も小声で呟いた。少しの時間シーンとしてから。

「おほん」とわざとらしくサヤ二号が咳払いをしてから「まぁ話しを戻して、ゼロの仮想現実と現実の違いって何だい?」と私に聞き直した。

私は顎を撫でながら考え込む、数秒考えてから顔を上げ自信なく呟いた。

「痛みがあるか無いかじゃないかな。」私はそう答えた。

「なるほど、痛みね。」サヤ二号は少し笑いながらうなずいた。

「確かにね、仮想現実では痛みを制限されている、痛みの有無は現実との区別になるね。」うんうんとサヤ二号は頷いたが、こちらを見てニコリと笑った。

この笑顔は私の答えに反論する要だ。

「何かあるの?」と私も微笑みながら聞く。

「でもね、仮想現実でも制限されているだけで痛みはあるんだよ。違法だけど痛覚を上げる事もできる。」えへんという仕草をした。

「確かに少し痛みを感じるか。」私は自分の感覚を確認する要に拳を握る。

「アンニはどう思う?」サヤ二号はアンニに向き直す。

「私ですか、私は仮想現実とかは解らないので。」とアンニは下を向いた。

「そっちじゃなくて本物と偽物の話し。」サヤ二号は顔を横に振ってから聞き直す。

「そうですねー」アンニも少し考えてから「大切な物が本物なんじゃないですか。」アンニは恥ずかしがりながら答えた。

フッと笑いながら「ロマンチックだね。でも抽象的すぎるね。」とサヤ二号が笑う。

アンニは頬を膨らまして「元々抽象的な質問じゃないですか。」そして、隣にいる私を見て、同意を求めてきた。

「ここまで私達に語らせるんだ、君の答えは何だい?」僕はサヤ二号を見て問いかけた。

「わかったよ、私の答えを教えよう。」サヤ二号は、鼻先にありもしない眼鏡を上げる仕草をして。

「答えは偽物の完成度による、だ。」サヤ二号は答えた。

「はぁ?」私とアンニは思わず声にでた。

「そんなことをもったいぶってたのかい?」と私は顔を引きつりながら言った。

「もったいぶってないさ。どんな大層な答えが返ってくると思ったたんだい。」サヤ二号は呆れた顔をした。

だが、アンニと私は納得出来ない顔をしていた。

それに気づいてかサヤ二号は言葉を続ける。「偽物の点数が30点なら本物との差は70点だし、点数が90点なら点差は10点、100点なら・・・」と言って指で0を作った。

「つまり本物が答案用紙、偽物が回答用紙ってことか。」と私は呟いた。

「正解、しかしその答えでは平均点だよ」サヤ二号は私を指さした。

「このテストは100点を超えるよ。」とサヤ二号はニコリと笑った。

私は少し後ろにのけぞり「どういうこと?」と聞いた。

「つまり、偽物は本物を超える可能性がある。ということだ。」サヤ二号は続ける。

「本物は答案用紙で、偽物は回答用紙だが、テストには採点者がいる。本物と偽物の違いは、その採点者の匙加減によるのさ。だから採点者によっては100点を超える。」

「採点者?」私は首を傾げる。

「君だよ。」サヤ二号はもう一度私を指さした。

「偽物の完成度を君が採点するんだよ。」とサヤ二号は真っすぐに私を見た。

私はフッと鼻で笑い「仮想現実が現実を超えると思うかい?」と尋ねた。

「だから言ったろ採点者は君だ。」とサヤ二号は答えた。

私はため息をつき「私はここを現実とは思えないよ。」と呟いた。

サヤ二号は少し笑顔で「だろうね。」と言った。

「でもそれは君の採点が100点満点しかないからさ。」と続ける。

「私は。」アンニが少し大きな声で「ゼロさんを本物だと思ってますよ。」と言った。

私とサヤ二号はアンニの方を見た後で、再び二人で目を合わし「あはははははははは。」と声を出して笑った。

アンニは顔を赤くしていた。

「ありがとう、私もアンニを本物だと思ってるよ。」と私は笑顔で答えた。

「よかったです。」とアンニは顔が赤いまま、目を逸らして言った。

その時、砂漠の真ん中で爆発が起きた。

「何?」とアンニは爆発の方を向く。

「ソンだね、偵察に失敗したみたい」とサヤ二号は双眼鏡を除きながら答える。

「あのドジっ子盗賊め。」と私はぼやいた。

「さあ行こうかネカマ騎士」とサヤ二号は水晶玉のついた杖を取り出した。

「うるさいよロリコン」と私は剣をベルトにかけなおし左手に盾を持った。

アンニはそれを聞き手を合わせ、指を組み祈りをささげる、すこし不安そうな顔をしている。

私はアンニの方を向き、「大丈夫。」とただ一言だけ言った。

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