最強〈おまえ〉はそこで黙って待ってろ! その2
「…………」
違和感すら抱けなかった、とは、見栄を張って言わなかったルナだったが……、しかし恐らく見透かされていたのだろう。
笑ったのはジェンだけでなく、禿頭の戦士・トドロキまでもが「ふっ」と噴き出していた。
「……気付けるわけないでしょ。だってそれどころじゃなかったんだし!」
「だから、ヒントは絶対にどこかにあるけど、気付けないように細工がしてあるんだって。そういうものじゃん。
ヒントがないように仕向けているわけじゃないんだ、気づかれにくくしているだけ……だから過剰に突出している要素の裏には、ヒントがある……教わったんじゃないの?」
魔法使いであり、戦士であるなら……、
仮にどちらか一方だけだったとしても、教わることだろう。
この世界で生きるには、必須の知識である。
誰にもばれない罠を張ることができる生物なんていない。
いたとしても短期間の無敵だろう……、この世は永遠の無敵を作らない。
「でも、……でもでもっっ!!」
「とにかくさ、足音の変化が分かれば、変化したその時こそが、鎧が脆くなる瞬間だってことさ。鉄壁とも思えた魔物の鎧は、この瞬間、絶対に砕ける弱点になる――」
後に知ることだが、この魔物の特性は『ドップラー
「残念だけど、今日もまた、ボクの足止め前に倒すことはできなかったみたいだね」
「……分かってるなら、もっとゆっくりしたって――」
「えー。でも、やっぱり魔物を倒した時の報酬は貰いたいし」
物理的な物……、たとえば魔物の武器や、肉、皮などは、パーティメンバーで分けることができるが、精神に渡る『経験値』と呼ばれる報酬は、分けることができず、最後の一撃を浴びせた者が独占する……。
つまり強い者がさらにどんどんと強くなっていき……、弱者と強者の間に大きく分厚い壁ができてしまっていることを意味している。
気を遣って最後の一撃を任せてくれれば……とは思うが、魔物の凶悪さも日々、更新していっている……一説によれば、ジェンのように強者が増えれば……もしくは一人でもいいから、極端に強くなっていけば、魔物も強化されていくのではないか……。
敗北した魔物が残した見えない『
弱者を育てるために前線に出していたら、あっという間に死んでしまう状況になっている以上、ジェンのような強者が前に出ることを強いられており――、必然、狙っていなくともラストアタックを取ってしまうことがあるのだ……、仕方なかったのだ。
だから最近は、強者に戦闘を任せ、弱者が束になって、魔物よりも強者の『隙を突く』ことが主流になっている。
漁夫の利、美味しいところだけを持っていく……、それを強者には知らせない。
知らせてしまえば、強者は気を抜くだろうし、ラストアタックを取れないのに九割も魔物の体力を削りたくないと思うだろう……。
それに、九割を削ったと言いながらも、実は相手の体力が半分近くも残っていて、弱者が魔物に蹂躙された一件もある。
強者が弱者を殺すことは犯罪だが、魔物が弱者を殺すことは罪ではない……、たとえ利用された魔物によって殺されたのだとしても、だ……証拠がないのだから難しい。
魔物の気まぐれ、自然の摂理だと言われてしまえば、罪は風化してしまう……。
そのため、強者を全面的に信用するわけにはいかず、彼らに任せながらも、最後の最後で出し抜き、美味しいところだけを奪い取る必要がある……。
もしくは強者を連れずに、弱者たちが自分たちで戦い、魔物を倒すか、だ――まあ、ルナを見ていれば分かるように、手も足も出なかったが。
「ありがとね、ルナちゃん。美味しい美味しい経験値、貰っておくよ」
「……っ、ジェン! もう一か所、付き合って!!」
「いいけど……同じことの繰り返しになるんじゃないの? 今の魔物、弱い方なんだけどなあ」
「次! あんたは黙って、近くで待ってなさい!」
「……じゃあボク、いらなくない?」
「わたしが死にかけた時、助けに入ってくれるだけでいいから!!」
「すごいこと言ってるね……、なんの報酬もなく、ボクが手伝うとでも……?」
めちゃくちゃなことを言っている自覚があったルナが、勢いで。
「出世払い!! わたしはいずれ大物になる……だから! その時、あんたはわたしを自由に利用できる権利を上げるから……っ。とにかくっ、わたしを強くしなさい!!」
不確定な出世払い。明日、それとも今日、死んでしまうかもしれない弱者であるルナの言葉を笑い飛ばすのではなく――、強者ゆえの余裕からか、博打にしては、かけるコストが低い。
なら、しない理由はない。
「ならいいよ」
少数である強者の価値がどれだけ高いか知っているから。
たとえ実力が伴わなくとも、いるだけで味が出る強者だ――、もしもルナが【強者】の仲間入りをすれば、色々と使えるし、幅も広がるだろう……。
なによりも、ルナ=【ピースワン】である。
クリエイト・ナンバーズの【欠片】となる、【ピース】の名を持つ彼女を抱えておくことは、長い目で見ればやはり、得しかないだろう。
「じゃあルナちゃん、次は『海の魔物』を狙いにいこう」
「え、まあそれは……どこでもいいけど……でも、なんで海?」
「ルナちゃんの水着姿が見られるから」
勢いで言ってしまった出世払いについて……、ルナが今更ながら後悔していた。
彼女の想定では、雑用をなんでもする、だったのだが……『水着姿が見たい』なんて言われると、言葉の重さが変わってくる……っ。
もしかして、尊厳を担保にしてしまったのでは?
「別に狙ってるわけじゃないけど……タコっぽい魔物がいるところがいいよね……」
「ね、狙ってるじゃん!! 触手でどうこうすることを期待してるじゃんーっっ!!」
無敵に思える強者を出し抜く方法は、いつの時代も『色仕掛け』なのかもしれない。
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