ヤンデレ彼女を殺したら

華川とうふ

第1話 プロローグに変えて、地雷系ファッションの可愛い幼馴染

 あたたかい……いや、熱い。

 それは心地の良い熱さだった。

 人の肌から伝わってくる熱さ。

 血が流れ、日々細胞が生まれ死んでいく肉体のもつ温度。

 それが太もものあたりに伝わってくる。


 女の子が僕に馬乗りになっていた。

 白い肌は吸い付くようにやわらかいが、その体温からは想像できないほど青ざめていた。


「ねえ、あなたの赤ちゃんが欲しいの」


 そう言って、僕の下着に手をかける。


『だめだ……。そんなことしちゃいけない。だって、君は僕にとって大切な××なのだから』


 僕はそれを言葉にして伝えようとするが声がでなかった。

 彼女の手が僕をゆっくりじらすように撫で始める。

 細い指先がそっと肌の上で円を描きながらダンスをする。

 くすぐったいような気持ちいような感覚でほんのすこし鳥肌がたつ。

 その反応をみたのか、彼女は嬉しそうに笑う。


「ほら、かなだってしたいんだよ。もう、あきらめて?」


 そう言って彼女は僕のことを愛したのだった。


「愛してる。愛してる。愛してる。ねえ、ちゃんと私を愛して。大好きだから。結婚するから。ずっと愛してるから」


 愛という言葉を何万回も繰り返しながら僕にキスをした。

 きっと、君は僕が死体になってもささやき続けるのだろう。

 その正体のない『愛』という言葉を。

 どうか、君が幸せになれますように。

 僕はそう祈りながら、彼女の手が僕の首をそっと圧迫し始めたとき意識を手放したのだった。


 ×××


「ねえ、起きてよ。かなで!」


 あまりにも大きな声が鼓膜に響いて思わず目を開ける。

 まぶしい……。

 目がちかちかとして視界がぼやけ頭痛がする。


 やっと、目が慣れて見えるうようになったとき、そう俺が最初にみたのは女の子の顔だった。

 俺のことを心配そうな顔で覗き込んでいる女の子。

 白い肌、赤い唇、恐ろしいほど黒く艶やかなまつ毛。すべてが形よく配置も完璧で神様はきっと彼女を作るときに優遇したに違いないという造形をしていた。

 ただ、その一方で洋服はというと、


「地雷系?」


 俺が目覚めて最初の一言は何とも情けない言葉だった。

 だって、仕方がない。

 目の前の女の子は典型的な地雷系ファッションをしていたのだから。

 黒いミニのワンピースに、首輪のようなチョーカー、ガーターベルト。髪型はハーフツインをリボンで結んでいる。

 見るからに地雷系。いや、一目見た瞬間に地雷系。

 真っ黒な服からは華奢な手足が伸びている。

 理想的な地雷系だ。

 漫画かイラストから抜け出してきたみたいな美少女だった。


「地雷って……、そんなことより目が覚めてよかった。心配したんだからねっ」


 女の子は俺に抱き着きながらそんなことを言った。

 果物に刃を入れた瞬間のような甘い香りが鼻をくすぐる。


「もう、心配いらないから。あのことを私責めたりしないから。約束する。私が奏を守るって!」


 抱きしめられて女の子の熱い体温がじんわりと伝わってくる。ただ気になるのはそのやわらかなおっぱいだ。

 おっぱいって本当にやわらかいんだな。もっと弾力があるのかと思っていたけれど、俺の腕に押し付けられたおっぱいはやわらかくとろけてしまうのではないかと思った。

 だけれど問題がある。


「あのこと……? 約束?」


 そう、俺は何も覚えていないのだ。

 自分が誰かということも。

 目の前の女の子が誰なのかということも。


 記憶喪失ってやつだろうか。

 アニメとか漫画でみたことある。


 大抵、物理的か精神的に大きなダメージを受けたことが原因でなるやつだ。


 俺の身にいったい何が起きたというのだろうか?


「覚えてないの?」


 真っ黒なガラス玉みたいな瞳が二つこちらをとらえる。

 そこには光はなく、まるで宇宙人みたいだ。

 ゾクリと背筋が寒くなる。

 まるで脊椎に氷水を流し込まれたみたいに奥歯がガタガタと鳴る。


 人間のものではないような感情のない瞳がこちらを静かに値踏みした。

 整った顔に光のない瞳は不気味の谷に落ちかけていた。


「あのう……?」


 俺がおずおずと声をかけると、突然、目の前の女の子は笑い出した。


「アハハっ、なにこれ? 最高で最低。神様ありがとう。今度こそ、死神と踊らないといけないみたいね」


 その声質はとても美しいメゾソプラノなのに、どうしてか狂気を感じた。

 たぶん、彼女の服装に対して俺がなにかしらの偏見を持っているのだろう。

 記憶もないというのに。


「本当に記憶がないの?」


 女の子はこちらをまっすぐ見つめていった。

 俺は静かに首を縦に振る。

 もし、記憶があればきっとこの女の子の前からとっとと逃げ出していただろう。

 だけれど、自分が誰かもわからない俺は逃げ出すわけにはいかなかったのだ。


 しばらく沈黙が続いたのち、彼女は安心したようにほほ笑んだ。


「私は有村ありむら純恋すみれ。あなたの彼女です」


 まるで天使のようなほほ笑みだった。

 服は悪魔とかの方が好きそうだけれど。


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