第865話 おじさん祖父と祖母を巻きこんでしまう


 引き続き、未解放の塔型ダンジョン一階層である。

 

「お、お嬢様ばぶー」


 やる気を見せているおじさんにヨルゲンが声をかけた。

 

「あの……先にセブリル様か、ハリエット様に確認をとった方がいいかと思うでばぶー」


 べつに横やりを入れるわけではない。

 シンプルにそう思ったのだ。

 ダンジョン都市として、新たな側面を見いだそうとするのだから。

 

 立場的におじさんが独断専行をしても問題はない。

 だが、やはり確認をとっておく方が無難ではあると思う。

 

 少なくともヨルゲンならそうすると判断したのだ。

 

「たしかにそうですわね!」


 おじさんがニコリと微笑む。

 

「では、ちょっと行ってきますわ!」


 と、ひとり姿を消すおじさんだった。

 残されたヨルゲンたちは、またもや言葉を失ってしまうのだ。

 

「あ、あの……お嬢様はばぶー」


「転移されたのです。すぐにお戻りなると思いますわよ」


 ヨルゲンたちは、おじさんが転移できるとは聞いていない。

 なので、ほへえと口を開けてぽかんとしている。

 

 侍女の言葉どおりであった。

 おじさんはすぐに戻ってきた。

 祖父と祖母を連れて。

 

「ほう! ここが新しいダンジョンか!」


 祖父がキョロキョロと周囲を見渡している。

 そして、ヨルゲンたちを見つけて声をかけた。

 

「ヨルゲンではないか。うちのリーがすまんのう」


 豪快に笑う祖父だ。

 祖母はおじさんにあれこれと確認をしている。

 

「ご無沙汰しておりまばぶー」


「ぶわはは。なんじゃそのしゃべり方は!」


「ば、ばぶー」


 頭を掻くヨルゲンだ。

 どうにも祖父には言いにくかったのである。

 魔物に負けて、こういうことになったとは。

 そこへ侍女が祖父に近づいて耳打ちをした。


「……ふむ。なるほどな! そういうことか」


 面白いことを考える、と笑顔を見せる祖父であった。

 ホッと胸をなでおろすヨルゲンたち。

 

「リー。ワシもゴーレムと戦って良いかのう?」


 同時におじさんが指を鳴らす音が響く。

 祖父の目の前に近接強襲型のゴーレムが姿を見せた。

 

「ほう!」


 戦闘態勢に入る祖父であった。

 

 一方でおじさんと祖母である。

 

「なるほど……ね」


 と祖母が納得したというような声をあげる。

 おじさんが指を鳴らした直後のことだ。

 

「あの魔道具を使ってダンジョンに攻略する者たちの姿を映す、か」


 祖母はおじさんが作ったモニターの魔道具を知っているのだから話が早い。


「しかも腕輪をしていたら死なない、賭けを楽しむことができる、ねぇ」


 祖母がニヤリと笑った。

 そして、おじさんの肩を軽く叩く。

 

「いいじゃないか! リー!」


「でしょう? ダンジョン攻略が浸透してきたら、ちょっと趣向を変えてみるのも面白いと思いますの」


「ほう。聞こうじゃないか」


 祖母が乗ってきた。

 

「例えば闘技場みたいな場所で一対一で戦ってみるとか。勝ち抜き戦にしてみるのも面白いかもしれませんわね」


「なら、冒険者同士で戦うのもいいかもしれないねぇ。個人戦だけじゃなく、パーティー戦をしても面白いだろうねぇ」


「あ、そう言えば人間同士で戦っても再起の腕輪が機能するか試していませんでしたわね」


 ぽん、と手を叩くおじさんだ。

 その危険なワードを聞いた瞬間であった。

 侍女がにやりと笑う。

 

「ご隠居様、そこだばぶー」


「すごいにゃん」


「わんわんお!」


 祖父がゴーレムと戦うのを観戦していたヨルゲンたち。

 その背後に怪しい笑みを浮かべた侍女が立っていた。

 

 ぽん、と侍女がヨルゲンの肩に手を置く。

 

「アヴ・スカーガル卿。お嬢様がお呼びです」


 ヨルゲンは見た。

 侍女の顔がとても恐ろしいものに変わっているのを。

 

 いや、そう見えただけかもしれない。

 ゴシゴシと目をこすってみる。


 侍女はいつものようにニコニコとしていた。

 

「お嬢様! よろしいですか!」


 侍女がおじさんに確認をとる。

 

「え? ちょ? なんの話ばぶー」


「お嬢様の実験です」


 さぁと顔を青ざめさせるヨルゲンたち。

 なんだかとても嫌な予感がしたのである。

 

 逃げたくとも逃げられない。

 だって、侍女に肩を掴まれているんだから。

 

「実験? どういうことにゃん」


 猫の人がいきなり吹き飛んだ。

 侍女が掌底を食らわせたのである。

 

「ご乱心だわん!」


「誰も乱心などしていません! 失礼な!」


 はいやーと侍女が肘撃を食らわせる。

 

「サイラカーヤ! ちょっと! お待ちなさい!」


 さすがに侍女をとめるおじさんだ。

 ヨルゲンはホッとしていた。

 これで訳の分からない攻撃がとまる、と。

 

「そちらの騎士たちは、今は腕輪をしていませんわ。一度戻ってきたのですから」


「ばぶー?」


「何度でも利用できるのは、アヴ・スカーガル卿の腕輪だけなのです」


「はう! 失念しておりました!」


 てへぺろする侍女である。

 

「アヴ・スカーガル卿。人間同士の戦いでもダンジョン内なら再起の腕輪が起動するか確かめたいのですわ。少し協力してくださいな」


「ば、ばばば……ばぶー!」


 ヨルゲンはおじさんの言葉を意味を把握した。

 そして、脱兎の如く逃げだそうとする。

 だって、その意味はやられろ、ということなのだから。

 

 いや、そもそもなんで何度も使える腕輪なんて。

 これはもう立派な呪いのアイテムだ。

 

「敵前から逃亡する騎士がいますか! 情けない!」


 侍女が叫んだ。

 

「ば、ばぶー!」


 ヨルゲンの姿が光に包まれて、キラキラと光る。

 そして、一階層の中央部に姿を見せたのであった。

 

「完璧。ちゃんと作ったもん」


 ウルディアがおじさんに言う。

 

「ですわね。ですが、こういうのはちゃんと確認しておくものですから」


 おじさんはウルディアの頭をなでる。

 ついでに、指を鳴らしてヨルゲンと騎士たちに治癒魔法をかけるのだった。

 

「お嬢様、アヴ・スカーガル卿たちが弱すぎですわ」


 私、欲求不満です。

 みたいな顔をしている侍女だ。

 

 やれやれと思いながら、おじさんは指を弾いてやった。

 侍女の前に人馬型のゴーレムが姿を見せる。

 

「これで少しは骨のある戦いができますわ!」


 どごーんとかどかーんとか派手な音が鳴っている。

 侍女と祖父が戦っているからだ。

 どちらも実に楽しそうにしている。

 

「お祖母様。きっちり人間同士でも再起の腕輪は効果を発揮しましたので、色々とやれることはありそうですわね」


「……これはレグラップの新しい名物になるさね」


「では、ささっと作ってしまいますわね」


 と、おじさんが錬成魔法を発動する。

 モニターは中央の祭壇部の上に四面作ってしまう。

 円形になっているので、この方がいいだろうと思ったのだ。

 

「お祖父様、サイラカーヤ。そろそろ倒してくださいな!」

 

 と、おじさんが声をかける。

 同時にドンと音がして二体のゴーレムが崩れていく。

 

「ふぅ。やはりこのくらいは手応えがないといけませんわ」


 侍女が額を拭いながら言う。

 

「ま。このくらいのゴーレムなら倒せてしまうのう」


 祖父もなんだかんだで余裕をもって戦っていたようである。

 

 場所が空いたことで、おじさんはさらに施設を作っていく。

 

 ウルディアの権能を使って一階層に観客席を作る。

 よくある野球場の内野席のように、肘掛けの部分に食べ物と飲み物を置く小さなテーブルがついたものだ。

 

 あとは壁際に飲食店のスペースを作っていく。

 さらに出場する冒険者たちの控え室は、地下にもう一階層作ることで対応することにした。

 

 賭けを行うための販売所も設置してしまう。

 忘れちゃいけないおトイレもしっかりと作った。

 

「こんなものですかね?」


 おじさんも久しぶりに色々と作れて大満足である。

 

「いいね! リー!」


 祖母からのお墨付きももらって、ニッコリ微笑むおじさんだ。

 

「……さすがばぶー」


 ヨルゲンは思う。

 なんだかんだ言っても公爵家の人々はちがうのだ、と。

 だからこそ魅せられてしまうのだろう。

 

 忠誠心の厚いヨルゲンであった。

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