第318話 おじさん特使として古代都市に派遣される


 大人たちの真剣な話し合いの翌日である。

 カラセベド公爵家として採るべき方針は大まかにだが定まった。

 

 基本的にはおじさんの案が採用された形になる。

 ただし、勝手に決めることはできない。

 

 先ずは迷宮の核ダンジョンコアに協力を取りつけねばならない。

 とは言ってもだ。

 面識のない父親や母親たちが行くというのもよろしくない。

 そこで、おじさんが特使として派遣されることになった。

 

 と言うことで。

 おじさんは再び古代遺跡へと赴くことになった。

 既に公爵家の地下と古代遺跡は転移陣で結んである。

 

 お供はいつも使い魔たちである。

 ちなみに水精霊アンダインの姿はない。

 なぜなら風の大精霊が、いい笑顔で連れ去ったからだ。

 

“リーちゃん! お姉ちゃん、召されちゃう。たすけてぇ!”


 と叫んでいたそうである。

 

 そんな訳で本日はトリスメギストスとバベルを連れているおじさんだ。

 バベルとは遺跡の前で分かれる。

 完熟マンゴーを仕入れてきて欲しかったのだ。

 大好評だった完熟マンゴーは既に完売してしまったのだから。

 

 トリスメギストスと二人で遺跡の中に入り、古代都市へと移動する。

 そして古代神殿にたどりつくと、静謐な空間を切り裂くような元気のいい声が響いた。


「あー! リーちゃんだお!」


 タオティエである。

 今もパーマ頭のふわもこヘアーの少女のままだ。

 迷宮の核ダンジョンコアの尻尾を掴んで、ブンブンと振り回しながらテテテと走ってくる。

 

「タオちゃん! 元気にしていましたか?」


「元気だお! タオちゃん元気だお!」


 天真爛漫。

 一切の邪気がない、にぱあとした笑顔を見せるタオティエであった。

 

「タオちゃん、ヘビちゃんがぐったりしていますわ!」


 おじさんの指摘で迷宮の核ダンジョンコアを振り回していたことに気づいたようである。


「お? お? コーちゃん、コーちゃん!」


『タオちゃん、振り回すのはダメって言ってるでしょ!』


「にはは。ごめんだお、コーちゃん!」


 ぺこりと頭を下げるタオティエであった。

 おじさんは迷宮の核ダンジョンコアに治癒魔法をかけてやる。

 

『申し訳ありません、御子様』


 折り目正しい迷宮の核ダンジョンコアだ。

 

「今日はあなたに話があってきましたの」


『御子様には返しきれない恩があります。ですので、なんなりと仰っていただけ……げふ』


「コーちゃんばっかり、リーちゃんとお話はズルいお!」


 タオティエが迷宮の核ダンジョンコアに突撃したのだ。

 それによって壁に飛ばされて、ビタンとぶつかる迷宮の核ダンジョンコアである。

 

『おどれコラ! さっきからなにさらしてけつかんねん!』


 迷宮の核ダンジョンコアが豹変した。


『おう、コラ! こっちこいや、いてまうど、オラ!』


“きゃははは”と明るい笑い声が響く。


「コーちゃんが怒ったお!」


『怒るでしかし!』


 追いかけっこを始めてしまった二人である。

 その様子を見て、おじさんはパチンと指をスナップさせた。

 

「あばばばば」


 二人が同時に痺れる。

 

「いったん、落ちつきなさい。トリちゃん、迷宮の核ダンジョンコアとお話ししてくださいな」


『うむ。承知した』


 ふよふよと迷宮の核ダンジョンコアのもとへと飛んでいくトリスメギストスであった。


 一方でおじさんはタオティエのもとへとむかう。

 

「タオちゃん、わたくしと少しお話をしましょう」


「いいお!」


 とってもいい笑顔で笑うタオティエである。

 おじさんは宝珠次元庫からテーブルセットを取りだす。

 さらに焼き菓子と飲み物まで用意する。

 

「タオちゃん、どうぞ」


「食べていいお?」


“どうぞ”とおじさんは頷いた。


 見たことがない焼き菓子だったのだろう。

 最初は恐る恐るといった感じで口をつけるタオティエである。

 しかし、一口かじったところで表情がとろけた。

 

 そこからは一転して、バクバクと食べ始める。


「食べながらでいいですわ。タオちゃんは迷宮の核ダンジョンコアのことをコーちゃんって呼んでいますけど、なぜコーちゃんなのです?」


「お? コーちゃんな、コーちゃんは、んと……」


 首を傾げつつも、手はとまらないタオティエだ。

 

「ダンジョンコアのコーちゃんではないのですか?」


「そうだお! ちがうんだお!」


 目をぱちくりとさせて、タオティエが立ち上がった。

 

「思いだしたお。マスターが言ってたお。え、と確かコーちゃんみたいな羽のあるヘビのことを、け、け、……」


「け……?」


 先を促すおじさんである。


ケツアゴワレトル・・・・・・・・って言うんだお。だからコーちゃんなんだお!」


 ぶふっとおじさんは吹きだしてしまった。

 

 恐らくはケツァルコアトルのことだろう。

 アステカ神話における文化神のことだ。

 マヤ文明ではククルカンと呼ばれている。

 

『誰がケツアゴワレトルじゃああ! ケツァルコアトルやっちゅうねん!』


 またスイッチが入ってしまう迷宮の核ダンジョンコアであった。

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