第256話 おじさんのいない王都では両親がはしゃぐ


「ふん」


 と、おじさんが贈ってくれた剣を軽く振ってみる父親である。

 天空龍の牙を素材として使った片手半剣バスタード・ソードだ。

 ずぱん、と音が鳴ったかと思うと、数メートル先にあった庭木が縦に真っ二つになっていた。


「はわわわ」


 どういうことだと疑問に思いつつも、父親はその威力に戦慄を覚える。

 またしても愛しいおじさんはやってしまったようだ。

 

 白く輝く剣身は美しい。

 陽の光をギラギラと反射させるほどに。

 おじさんの話によれば、だ。

 

 この剣は自動修復されるらしい。

 そもそも天空龍の牙という、とんでも素材が使われているのだ。

 滅多なことでは刃こぼれをすることもないだろう。

 

 さらに異常なまでに魔力の通りがいい。

 公爵家の相伝ですら、今までよりも楽に発動ができる。

 

 そして――この鎧だ。

 天空龍の鱗をベースに、おじさんがあれやこれやとした鎧。

 

 妙になじむのだ。

 まるで鎧など着ていないというほどに。

 動きやすく、重さも感じない。

 

 黄金色に輝く全身鎧。

 その形は獅子のように威厳のあるものだ。

 さらにおじさん作のマントまでセットになっている。

 

「スラン! 見て、このローブと軽鎧スゴいわよ!」


 声に応じるように視線をむける。

 土の魔法で作った人形にローブと軽鎧が着せてあるのだ。

 そこに母親がバカスカと魔法を打ちこんでいる。

 

「魔力を拡散させる効果があるって言ってたけど本当ね!」


 おじさんは情報の共有も忘れない。

 祖父母が貫かれた黒閃光スレイもしっかり情報を渡していた。

 

「継父殿と継母殿は大変な思いをされたようだからな」


 もちろん父親にも共有ずみである。


黒閃光スレイ!!】


 しっかりと覚えている母親が魔法を撃ちこむ。

 それでもおじさん作の天空龍シリーズの防具は小揺るぎもしない。

 

「とんでもない性能ね。これ、欲しがる人いっぱいいるんじゃない?」


 父親としては、だ。

 王国の戦力が増強されるのは望ましい。

 だが、である。

 こんな国宝級の代物、どんな対価を請求すればいいのかわからない。

 

 と言うか、もらった方も頭を抱えるはずである。

 神器と呼んでも差し支えのないのだから。

 

 とても金銭でやりとりできるような物ではない。

 だからと言って、お蔵入りにするなんてとんでもないのだ。

 だっておじさんからの贈り物なのだから。

 

 考えれば考えるだけ、無性に胃の辺りがキリキリとしてくる父親であった。

 

【常着!】


 さらにトリガーワードを叫ぶ母親であった。

 このワードで一瞬にして装備が身につけられるのだ。

 武具召喚をさらに応用した機能をつけたおじさんである。

 

「これ、ホンとに便利なんだけど!」


 母親はクルリと回ってご機嫌そのものだ。

 キラキラと黄金に輝く軽鎧。

 胸甲と手甲、足甲がセットになっている。

 さらに母親の場合は、マントではなくローブがついてくる。

 

 ちなみにだが、母親の腰には二振りの短剣が装備されていた。

 この二振りの短剣もまた天空龍の牙がベースのものだ。

 短剣の柄尻には良質な大口獣ウォーム飛翼獣ワイバーンの宝珠がつけられている。

 

【常着・解除】


 一瞬で元の服装にも戻れる。

 

「ヴェロニカ。この装備、とってもいいんだけどどうする?」


「黙ってたっていずれバレるわよ」


“だって”と母親は続ける。


「こんなにいい装備なんだから使いたくなるでしょ?」


 母親は邪神の信奉者たちゴールゴームとの戦いのことを含ませていた。

 祖父と祖母は老いたとも言えども、王国では英雄である。

 その英雄に不意打ちだったとは言え、傷をつけた者が相手になる可能性が高い。

 

 ならば、この防具を使うことに躊躇う余地はないのだ。

 

「では先に話しておく方が賢明だね」


「そうね、いっそのことリーちゃんに新しく公爵位でももらってみる?」


 その提案に父親はうなり声をあげた。

 公爵位か、と思う。

 アメスベルタ王国では建国王の時代から、公爵家は三家と決まっている。


 だが、できないことはない。

 なんたって建国王の残滓という存在がいるのだ。

 いざとなれば本人から了承をとることだってできるだろう。

 

 だが、領地はどうするのだ。

 新しく家を興すとなれば、家臣を集めるのも大変なはず。

 いや――と父親は思い直す。

 

 おじさんの場合、家臣候補はいっぱいいそうだ。

 学園長からおじさんを慕う薔薇乙女十字団ローゼンクロイツのことを聞いている。

 領地の問題さえクリアすれば、意外と現実的な話なのかと思う。

 

 いや、そもそも領地がいるのか。

 ただでさえおじさんは、様々な物を開発しているのだ。

 これらの利権をすべて押さえてしまえば、領地を運営する必要などないようにも思う。

 

「スラン、そんなこと真剣に考えなくてもいいわよ」


「どうしてだい?」


「だって、リーちゃんなら対価は要らないって言うわよ」


 そう。

 おじさんなら絶対にそう言う。

 だが、神器を対価なしにもらうなどできやしない。

 

「そうは言っても対価は必要だぞ」


「だったら貸しにしておくといいわよ」

 

 貴族にとって貸しとは重いものだ。

 

「貸しって言ったって、何回分になるんだい?」


「さぁ? そこは指定しなくていいじゃない」


 実にしたたかである。

 要は相手の良心に訴えるということだ。

 負い目を感じなくなるまでを自分で決めるのだから。

 

「まったく。……怖いね」


 母親の意に気づいた父親は肩をすくめる。


「んんーこの魔法使い勝手はいいんだけど……リーちゃんの改の方で使ってみようかしら」


 今日も平常運転の母親であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る