第254話 おじさん開発の問題に直面する


 翌日のことである。

 朝からおじさんは精力的に活動していた。

 

 一応レグホーンのことを気にしていたおじさんである。

 妹の手の中でピヨピヨと繰りかえす姿を見て、ホッとひと息だ。

 どうやらあれはもう人畜無害な存在になったらしい。

 

 弟妹たちとのスキンシップをたっぷりとった後で、公爵家本邸の地下室にこもる。

 たっぷりと素材は用意してもらってあるのだ。

 今日は不意打ちでも問題なく対処できるような魔道具を開発する予定である。

 

 おじさんがイメージするのは結界を展開できる魔道具だ。

 ただし、不意打ちの対策をするのなら常時展開しなくてはいけない。

 常時展開すれば攻撃は防げる。

 が、こちらからも相手を攻撃できない。

 

 おじさんの場合、その辺の切り替えは自由自在だ。

 自分が攻撃をする瞬間を狙って解除して、すぐに張り直すこともできる。

 もっと言えば、結界を展開したまま攻撃をする場所だけ穴を開けることも可能だ。

 

 しかし、そこまで細かく操作するのは大変である。

 まさにおじさんだからこそできる芸当なのだ。

 では、どうすればいいのか。

 

「んんーどうしましょうかねぇ。トリちゃん、なにか意見はありますか?」


 既に召喚していたトリスメギストスに問う。


『主よ、やはりここは王道で攻めるべきではないかな?』


「王道?」


『うむ。シンプルに防御力をあげた防具を作るのが妥当だと思うのだ』


 おじさんの手にかかれば、そこは難しくない。

 だが問題はある。


「それも考えましたの。でも、防御力をアップさせて魔法が防げますか?」


『そこが問題点であるな。ある程度は主の錬成魔法で耐性をあげられるはずだが……』


「完全に防ぐのは難しいですわ」


 貫通力の高い魔法を防ぐこと目的とした場合、どこまで保つのか懸念が残る。

 不意打ちを防ぐという意味であれば、一度や二度防げれば十分だろう。

 だが、それで壊れるのなら防具としての意味がなくなる。


『で、あるな。かと言って結界を展開するのは難しい袋小路であるな』

 

「とりあえず一度、トリちゃんの案を試してみましょう」


 と言うことで、おじさんは錬成魔法を発動させる。

 祖父が着用していたのと同じタイプの革鎧を作ってみた。

 そこに魔法耐性を上乗せしてみる。

 

「んんー?」


『どうしたのだ? 主よ』


 おじさんは指先に魔力を集中させる。

 そして黒閃光スレイもどきを放ってみた。

 軽々と耐性をアップさせた鎧を貫いてしまう。

 

 おじさんの放つ魔法の威力が高すぎる問題もある。

 逆に言えば、おじさんの魔法を耐えきれるなら大抵の攻撃は問題ないだろう。

 

「穴ぼこだらけになっちゃいましたわ」


 なかなか無残な姿になった革鎧だ。


『んむぅ。主の要求を満たす物はそれこそ神器クラスであるのだろうな』


「そう言えば、アクエリアスは防いでいましたわね」


 光神ルファルスラの鎧である。

 建国王からもらったと言うか、ほぼ無理やり契約したものだ。


『ではアクエリアスを解析してみるか?』


「お願いしますわ!」


 おじさんはアクエリアスを召喚する。

 水瓶座っぽいフォルムの闘衣だ。

 白銀にアクアブルーのラインが入っていて見た目にも美しい。

 

『では、解析して……ぬわぁ』


 闘衣の腕の部分。

 おじさんがアンドロメダと名づけた鎖が反応する。

 トリスメギストスにむかって、しゅるっと鎖を伸ばすのだ。

 

「ちょ、アんちゃん! ダメですわ!」


 おじさんの声に鎖の勢いが弱まる。

 

『主、これ以上はダメだ。こやつらは我に見られることを望んでおらん』


「そうですか。それでは仕方ありません。ごめんなさいね、アクエリアス、アンちゃん」


 謝ってから、おじさんは送還した。

 そして問題は振り出しに戻る。

 

「お嬢様、よろしいですか?」


 侍女が外から声をかけてきた。

 

「どうかしましたか?」


「ソニア様がいらっしゃっています」


「ソニアが?」


 おじさんは部屋の外にでる。

 素材だなんだのを置いている部屋の中は危険だからだ。

 

 部屋の外にはコカトリスを抱いたソニアがいた。

 おじさんを見ると、ニコッと微笑む妹だ。


「ねーさま。シンシャがうににってなってるの」


「うにに?」


「うん、にーさまはまたポンってなるんじゃって」


 ああ、とおじさんは思いだす。

 王都を出発するときに、弟妹たちがはしゃいでいたのを。

 

 妹がおじさんの手をとった。


「ねーさま、いこ」


 そのまま妹の手に引かれて、地下室を後にするおじさんであった。

 トリスメギストスも興味本位から、おじさんの後を追いかけていく。

 

 サロンにつくと、メルテジオとアミラがシンシャを見守っている。

 確かにプルプルと震えながら、うににっとなっていた。

 

「にーさま、ねーさまつれてきたよ」


「姉さま、シンシャがまたうににって」


 おじさんの目にはシンシャの魔力が分裂しそうになっているのが見えた。


「大丈夫。心配ありません……わ?」


「どうしたの姉さま」


 おじさんは思いだしていたのだ。

 シンシャが魔力を食べるという性質を持っていたことを。

 となると、シンシャを身につけていれば、不意打ちの魔法を防げるのではと。

 

 その瞬間であった。

 シンシャが震えが小刻みになったかと思うと、ポンと分裂した。

 五体のシンシャがさらに分裂して十体になったわけだ。

 

“テケリ・リ、テケリ・リ”とシンシャがおじさんの周囲を飛び跳ねる。

 おじさんは好きなだけ魔力を吸収させてやるのであった。

 

 十体のシンシャのうち、一体を抱きあげておじさんは聞く。


「シンシャ、魔法も食べられるのですか?」


“テケリ・リ! テケリ・リ!”と肯定の意思が伝わってきた。


「トリちゃん!」


『うむ。これで問題は解決したかもしれんな!』


 あとは実験あるのみだ。

 こうしておじさんのシンシャを使った魔法生物の鎧計画が発動したのである。

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