第235話 おじさん理を理解したようなしてないような
母親と祖母に加えて、トリスメギストスまで加わって禁呪の講義が始まる。
トリスメギストスが加わったのは、下手に教えてしまうのは悪手だと思ったからだ。
正しく禁呪とはなにかを教えることで、おじさんに自重を促そうとしたのである。
『主よ、わかっていると思うが試し打ちはなしだぞ』
「おかしなことを言わないでくださいな! いつ試せと言うのです! 今でしょう!」
グッと拳を握って突き上げるおじさんだ。
『いや我はこの館が吹き飛んでしまうのはよくないと思うのだよ』
しかし冷静な使い魔の意見にシュンとなってしまう。
「むぅ……どこならいいのですか!」
『正直に言おう。主が試し打ちできる場所などない!』
「なんでや!?」
『そもそもだ。狭間の世界をぶち抜いたのは主の魔法であろう。そのせいで天空龍の小僧を引き寄せてしまったではないか』
「ヒドい! このままじゃ生殺しですわよ!」
『とは言えだ。この世界に破壊をもたらすのは主にとってもよくないだろうに。後世に渡って大魔王などと呼ばれる気があるのならいいが』
「誰が大魔王ですか!」
『無へと還す者、破壊する意思、虚空の創造者、どれでも好きなものを選ぶといい』
「なんですの? もう怒りましたわ!」
つーんと顔を背けるおじさんである。
子ども染みた仕草だ。
ただおじさんのような超絶美少女がやると、とても愛らしい。
その姿を見た、どこかの誰かがキュンキュンしてしまった。
おじさんの身体に神威の光がまとわりつく。
『なにぃ!?』
「あら? なんですの?」
神威の光が収束しておじさんの左手の親指で指輪になる。
『主よ、その指輪に魔力を流してみるといい』
その瞬間、おじさんとトリスメギストスの姿が消えた。
「リー?」
「リーちゃん?」
神威の光に驚いて二人が我に返る。
だが、おじさんの気配はどこにもなかった。
一方のおじさんはと言えば、青を基調とした薄暗い世界にいた。
そこはまるで聖堂のようである。
正面には巨大なステンドグラスがあり、青い光が差しこむ。
おじさんは不思議と恐怖を覚えることはなかった。
それはきっと、ステンドグラスのモチーフがおじさんと女神だからだろう。
見える範囲以外はすべて黒に包まれた謎の空間。
『主上からの贈り物だそうだ。主よ、ここは主だけの空間である。主上の力で守られた空間であるからな、どんな魔法でも使い放題だそうだ』
誰かさんはおじさんに甘々なのだ。
「はうあ! そんなことってありますの!」
おじさん今生では大切にされてきた自覚がある。
しかし抜けきらない前世の記憶もあるのだ。
その記憶では誰もおじさんに贈り物なんてくれなかった。
結婚していた時期にだって、贈り物をしたことがあっても返ってきたことはない。
悪罵と悪意以外は。
それを思えば、欲しいときに欲しいものを贈ってくれる存在のなんとありがたいことか。
「ありがとうございますわ、女神様!」
おじさんは叫ぶ。
その次の瞬間に、無詠唱にて禁呪をぶっ放していた。
【
忘れられた六姉妹。
それは腕だけではなく、全員の姿が顕わになっていた。
悲しみの七花。
その正体は花ではなく、大樹であった。
苦鳴に充ちる八王。
八つの宝冠をひとつずつ被る八つの頭に、八本の腕、下半身は八本脚の巨馬であった。
ただの破壊をもたらすだけではなく、呪いなどの強力なデバフ効果も付属する。
そして何よりも恐ろしいのは、まだ禁呪には続きがあったことだ。
三位が一体となり、最終的には効果範囲内のすべてを消し飛ばす。
「…………トリちゃん」
おじさんが言う。
演出過多なゲーム作品のようだと思った、と。
『指摘するのはそこなのか?』
「まぁいいでしょう。禁呪。思っていたよりも楽しいですわ。それよりも女神様には感謝ですの」
ステンドグラスにむかって両膝をつき、両手を組んで祈るような姿勢になるおじさんであった。
そんなおじさんの周囲にはキラキラと輝く神威の光が舞う。
しばらくして立ち上がると、おじさんは言った。
「トリちゃん、わたくし、なんとなーくわかってしまいまいたわ」
『なにをかな』
非常に嫌な予感がするトリスメギストスである。
「この世界の仕組み? とでも言えばいいのでしょうか」
『ほ、ほう……』
「前世には陰陽五行説という考えがありましたの。能動的なものと受動的なものに、世界を司る五つの元素。これらの要素はあらゆる物に宿り、互いに強めたり弱めたり。森羅万象の根底にある規律のようなもの」
『…………』
「もちろん魔力という別の要素があるこの世界では、似て非なるルールがあるのでしょう。ですが陰陽五行説に通じるものがあると思いましたの。そう……世界のすべては我が
虚空に手を突きだし、ゆっくりと握る。
ちょっぴり中二的な心が発動してしまったおじさんである。
「今ならもっと本格的にできますわよ」
肩よりも少し足を開き、両手を組んで頭の上に掲げる。
そして腕を肩の高さにまで振り下ろしながら叫ぶ。
【
おじさんの背後に超巨大な九頭龍が出現する。
その口から絶対零度のブレスが吐かれ、あらゆるものの動きをとめていく。
そう、あらゆるものの動きを。
『主よ……時間もとまっておるが』
「お……おほほほ。ちょびぃっとだけやりすぎてしまいましたわ!」
『……もう満足したであろう?』
「帰りましょうか」
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