第217話 おじさん祖父と再会する


 エンサタイ平原。

 平原とは言っても、多少の起伏はある。


 見渡す限り、背の低い雑草が生えている景観には一見の価値があるだろう。

 特にこの季節は緑の絨毯を敷き詰めたように見える。

 

 風に吹かれて、そよそよとさざ波が立つように緑の絨毯が揺れた。

 そこに超絶美少女に率いられた一団が姿を見せる。

 おじさんの魔法によって、治癒をされ続けたまま走る一団だ。

 

 全速力で走っているのに疲れない。

 そんな不思議な感覚を、人馬ともに覚えながらもひた走る。

 

 タルタラッカから一日程度の距離をわずか数時間で移動してきたのだ。

 魔力がどうのこうのという疑問は、最初の一時間で消えた。

 騎士たちもお付きの侍女たちも、先頭を行く超絶美少女に対して畏敬の念を抱く。

 

 笑い話にもならない、嘘みたいな本当の話。

 誰に言っても信じないだろう、と確信しながらお嬢様の背中について行く。

 

「見えましたわ!」


 おじさんの声が響いた。


『主よ、どうやら祖父君は大丈夫のようだ』


「本当ですか?」


『うむ。小鳥で確認をした』


「まずは安心ですわね。では、お祖父様のもとに参りましょう」


 エンサタイ平原の南部には比較的に大きな川がある。

 そこを水場として、祖父は陣を張っていた。

 総勢で二百人からなる部隊である。

 

「お祖父様!」


 陣の前にでていた祖父を見て、おじさんは馬上から降りて駆け寄る。

 

「リー!」


 身体の大きな祖父に抱きつくおじさんである。

 

「久しぶりなのは嬉しいが、こんなところまでどうしたのだ?」


「お祖母様からお祖父様の救援に行けと言われましたの」


 はは、と軽やかに笑う祖父である。

 どうやら祖母が早合点したようだ、と察したのだ。

 

「うむ。陣を退いたのはそのとおりなのだがな。ちと面倒だっただけじゃ」


 祖父の話によれば、だ。

 エンサタイ平原には遊牧民が住んでいる。

 その遊牧民から大口獣ウォームの集団がでて困っていると陳情があったのだ。

 

 そこで祖父が騎士たちを率いて討伐にきた。

 順調に数を減らしていたのだが、そこに乱入者がでたのだ。


 大口獣ウォームは強力な毒を持つ、ミミズ型の魔物である。

 討伐をしても、一部は素材として利用できるが食べることはできない。


 死体は後でまとめて処理しようとしていたのだ。

 そこへ飛翼獣ワイバーンの集団が現れる。

 大口獣ウォームの死体を貪りに。

 

 すわ三つ巴の戦いかといった状態である。

 しかし、祖父はその状況を見て陣を退くことにしたのだ。

 

 大口獣ウォームだけならいざ知らず、飛翼獣ワイバーンまでとなると厳しい。

 祖父だけならどうとでもできる。

 しかし騎士たちのことを思えば、ムダに損害をだすわけにはいかない。

 

 そこで大口獣ウォーム飛翼獣ワイバーンを戦わせて、漁夫の利を得ようとしたわけだ。

 

「お祖父様は大規模な殲滅魔法は使いませんの?」


 おじさんは素朴な疑問を祖父に聞いた。

 

「うむ。ワシはどちらかと言えば、魔導師ではなく魔法騎士じゃからな。そういうのはハリエットが得意としておるよ」


“なるほど”とおじさんは頷く。

 この国では男性は魔法騎士、女性は魔導師の傾向がある。

 魔法騎士とは魔法も扱えるが、近接での戦いを得意とする者のことだ。

 魔導師は魔法が得意なタイプだと考えていい。

 

「では、わたくしがサクッとやってしまいましょうか?」


大口獣ウォーム飛翼獣ワイバーンじゃぞ。焦らずに数を減らしたからの方が確実ではないかな?」


 祖父はニコニコとしながらおじさんに問う。


「確かにお祖父様の話にも一理ありますわ。ですが、問題ありませんわ!」


『待て待て待て、主よ。いったいどんな魔法を使おうと思っておるのだ!』


 割りこんできたのはトリスメギストスである。

 既に祖父とは挨拶をかわしたため、気安くおじさんに話かけたのだ。

 

「どんなって、まぁそれなりの魔法を」


『主よ……我はここ最近、ずっと叱られてばかりであるからな。きちんと仕事をする必要があるのだ』


「だからなんですの?」


『うむ。主には多少は自重というものを覚えてほしいのだ!』


 トリスメギストスの言葉に、大声をあげて笑ったのは祖父である。

 

「自重? そんなもの必要ないわい! ワシがどうとでもしてやる」


『いや祖父君よ、本当にそれは危ないのだ!』


「どの程度の被害がでると言うのじゃ」


『主が思うままに魔法を放ったのなら、大陸すら消し飛びかねんのだ! いや、その程度の被害ならまだマシな方かもしれん』


 想定していたより何倍も上をいくトリスメギストスの言葉に、祖父は思わず唸るのであった。

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