第193話 おじさん温泉地タルタラッカに到着する
エポナに乗りつつ、馬車にも乗る。
ときには馬車にこもって、なにやら怪しげなものも作る。
それがおじさんの日常だ。
結果、野営というものも、おじさんにかかれば苦痛がかなり軽減される。
特に喜ばれたのは、道中で騎士たちのおトイレ事情を改善する道具だ。
簡易トイレである。
折りたたみができるテントのような構造のものだ。
中は空間拡張が使われているので、思っていたよりも広い。
携帯しやすく、使いやすいのが売りである。
騎士たちの中には女性も含まれるのだ。
おじさんの馬車に備え付けのトイレが使われていたが、やはり気をつかってしまう。
そこで簡易トイレを作ったのだ。
「もうお嬢様しか勝たん」
と女性騎士の誰かが呟いたそうである。
領都を発って三日目の昼下がり。
おじさん一行はタルタラッカに到着する。
先触れをした騎士シクステンが、村の入り口で大きく手を振っていた。
タルタラッカ。
領都からほど近い場所にある、ごく一般的な村だ。
ラルズニル森林地帯とも接することから、林業が盛んな村でもある。
いわゆる木地師のような仕事をする人も多い。
木製の日用品や器物を作る人のことだ。
「ご苦労様でした、シクステン」
「もったいないおとこば。ありがたく」
まだ彼は言葉遣いになれないようである。
指摘するのはかんたんだが、それは野暮というもの。
おじさんは華麗にスルーしておく。
「は、は、初にお、おめめ……村長でございますっ!」
もうなんか色々と諦めたようである。
平身低頭。
地面に頭をこすりつけている。
いや、そこまでしなくてもとおじさんは苦笑してしまう。
シクステンに目で合図をすると、村長の隣にいって声をかけている。
その間に、シクステンの隣にいた壮年の騎士が片膝をつく。
「御足労をおかけして申し訳ありません。公爵家騎士ヨアンニスと申します。お嬢様にお出ましいただいたこと、ありがたく」
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワですわ。この度は要請に従って参りました。しばらくの間、お世話になりますわ。ヨアンニス、後ほど詳しいことを話してくださいな」
「かしこまりました」
「シクステン、我々が野営をする場所の確保はしてありますね?」
「はい、ご案内いたします」
ヨアンニスに村長のことを任せて、シクステンが先導する。
おじさんたち一行は村の中には泊まらない。
三十人前後の人数を一気に宿泊させる施設がないからだ。
村の中に宿のようなものもあるが、商人たちが使うものである。
そんな場所を騎士たちが占拠してもいいことはない。
なので野営なのである。
ただし、おじさんはいつものログハウスだ。
さらに野営地にも簡易的な調理場を作り、シャワールームも作る。
ちまちまと馬車の中で時間つぶしを兼ねて、おじさんは作っていたのだ。
村の外れに野営地がどんどん建設されていく。
その様を見て、村人の中には腰を抜かす者もいた。
「ゴトハルト、後は任せてもよろしい?」
“ハっ”と隊長が返答するのを見て、おじさんは周辺を見渡した。
「わたくしは村の防衛力をあげてきます。ヨアンニス、いますか?」
「ここに」
「案内してくださいな」
青色の髪色をした三十歳くらいの騎士である。
騎士の中では小柄だ。
おじさんと並んで歩くと、あまり身長が変わらない。
だがしっかりと鍛えこまれた肉体をしている。
露出している腕の太さがそれを物語っていた。
「そう言えば、この村は湯が湧くことで有名だと聞きましたの」
「そのとおりにございます。場所は村から少し離れておりますが、湯の湧く場所がございます」
「そうですの。魔物を討伐した後にでも見ておきたいですわ」
と言いつつ、おじさんは入り口周辺にむかって魔法を使う。
一瞬で空堀ができあがり、柵があった地面が盛り上がる。
入り口と堀とを渡す橋まで、できあがっていた。
「は?」
ヨアンニスが思わずといったように声を発してしまう。
「次、いきますわよ」
「は、はい」
既に歩きだしているおじさんの背を追う騎士である。
「ヨアンニス、村の拡張計画はありますの?」
「いえ、現在のところはありません」
“そうですの”と答えながら、おじさんは頭の中で地図を作っていた。
温泉があるのだ。
確かめてからだが、入浴できるものであれば温泉施設を作る。
その施設を作ることも考慮しておかないといけない。
片手間でおじさんが魔法をぶっ放し、その度に驚くヨアンニス。
そして、なぜか
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