第180話 おじさんお馬さんと戯れる
「ズルいぞっ!」
朝食の席で朝っぱらからおじさんと祖母が入浴していたことを知り、フレメアが叫ぶ。
だが祖母の視線ひとつで、女傑は黙ってしまう。
なぜならフレメアは祖母の弟子なのである。
フレメアの世代からすれば、ハリエットは英雄とも言える人物であった。
しかも彼女にとっては親戚にあたるわけで、とても尊敬していたのだ。
結果として学園を卒業した彼女は、半ば押しかけるようにして弟子になったのである。
「ところでフレメア様はお祖母様とお話はされたのですか?」
おじさんはばたんきゅうだったので気になっていたのだ。
「ああ。きちんと報告しておいたぞ、リー」
意味ありげな視線をくれるフレメアであった。
「そうですの」
と動揺を見せずに、軽くかわすおじさんなのだ。
なぜならもうその話は、祖母としていたからである。
特にお咎めがなかったことので安心なのだ。
「そんなことよりも……フレメア」
「な、なんでしょう」
まったくスルーされるとは思っていなかったのか。
フレメアの方が少し動揺をみせている。
「昨日も聞いた炭酸泉の話なんだけど、もう少し具体的に話をしておく必要があってね」
祖母とフレメアが話を進めていく。
そんな二人には我関せずといった顔でおじさんは食事をとっていた。
「ねーさま」
と妹が隣の席から声をかけてくる。
「きょうはどうするの?」
「そうね、お祖母様しだいだけどソニアとメルテジオ、アミラの三人は好きにしてもいいと思いますわよ」
「ねーさまは? 遊ぶ? コロコロする?」
ボウリングのことである。
“さて”とおじさんが返答に困ったタイミングであった。
「ソニア、今日は皆で牧場に行ってくるといいさ」
「ぼくじょー?」
“ああ”と祖母は優しく微笑みかける。
「カラセベド公爵家と言えば、良馬の産地として有名なのさ」
「おうまさん!」
そう呟いた妹の目がキラキラとしている。
「リー、交代要員の騎士たちを連れていくといい」
「かしこまりました。っと。騎士たちと言えば、こちらお祖母様に報告書ですの。領都につくまでの分をまとめてありますわ」
宝珠次元庫から紙の束をだすおじさんである。
小まめに報告書は魔法を使って書いていたのだ。
ちなみに前世の経験をいかした書式を使っている。
この書式を使いだしのたは、今の弟くらいの年齢だった。
当時の報告書は書式こそ定まっていたものの、人によって書き方が違っていたのだ。
客観的に書く人間と主観的に書く人間である。
その点を整理して、より伝わりやすくしたのがおじさんだ。
今ではすっかり公爵家の正式な書式となっていた。
ちなみに王城でも父親がトップを務める外務で採用されている。
「うん。ざっと見た限り、問題なさそうだね。後で精読するが騎士たちへの褒賞についてもちゃんと検討しておくよ」
「よろしくお願いいたしますわ」
「ところでリー、ひとつ聞きたいことがあるんだけどね」
祖母がおじさんを見る。
「ソニアの頭の上にのっている黒銀のスライムはなんだい?」
「お母様と一緒に作ったスライムですわ」
「作った? ヴェロニカと?」
「それについてはこちらにまとめてありますの」
宝珠次元庫から擬似的な魔法生物に関する紙束をだすおじさんである。
そのときであった。
「テケリ・リ、テケリ・リ」
とシンシャが鳴いた。
“ほう”と祖母が目を細め、息を吐く。
「リー、牧場から帰ったら詳しく話してもらうからね」
「承知しました、お祖母様」
その足で食堂を退室して、おじさんはサロンで一休みだ。
弟とアミラは何事かを話しており、妹はおじさんにべったりひっついていた。
「ねーさま、おうまさんにのれる?」
「乗れますわよ。一緒に乗りましょうか?」
おじさんの返答にきゃっきゃっと声をあげて喜ぶ妹であった。
公爵家の領都から馬車でおよそ二時間程度の場所に牧場はある。
牧場といっても実際には壁で囲まれた軍事拠点のようなものだ。
広大な敷地と厩舎、騎士たちの詰め所に職員たちも利用する宿舎などが揃っている。
「ねえさま、しゅごい!」
妹が叫んでいたのには理由があった。
おじさんが放牧地に行くと、なぜか馬が集まってきたからである。
子どもの頃から、おじさんは動物に懐かれることが多いと自覚はしていた。
しかし放牧中の馬が皆、おじさんのところに集まってきたのだ。
しっぽを高くあげて、耳をピンと立てる。
そして鼻をおじさんに押しつけてくるのだ。
おじさん、なんだかとても幸せな気分になってしまった。
“ムホホホホ”と奇妙な笑い声をあげつつ、馬たちの首すじをなでていく。
なぜこんなことになったのか。
その真相はわからない。
ただアミラだけが、さも当然であるかのように頷いていたのである。
そんなおじさんと馬たちであるが、遠巻きにして見ている馬が一頭だけいるのにおじさんは気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます