第133話 おじさん実技試験の代わりに魔物討伐へ赴く


 学科試験を終えた翌日である。

 今日からは実技試験がスタートするのだ。

 おじさんは試験が免除されているのだが、魔物の討伐へと赴くことになっている。

 学園長と。

 

 王都近郊にある夜迷いの森。

 野営訓練で訪れたミグノ小湖とは逆の方向に進めば、シシリス山脈の麓へでる。

 このシシリス山脈の麓には、多くの魔物が生息しているのだ。

 そこへ行って、魔物の討伐をするわけである。

 

 ただ日帰りをするためには、あまり深層まで進むわけにはいかない。

 おじさんとしては何かしらの移動手段を開発したいところだ。

 ゴーレム馬車はあっても、あれは森の中など足場の悪い道では使えない。

 

 となると定番としては、空を飛ぶ乗り物あたりである。

 あるいは自ら飛行魔法を開発するかだ。

 

「……と言うことなのですわ」


 シシリス山脈への道すがら、おじさんは学園長と魔法談義をしていた。

 何かしらの移動手段が欲しい、という内容である。


「飛行魔法か。魔導師にとっての夢ではあるが……面白い」


 学園長が乗り気になった、とひと目でわかる表情であった。

 そして“くつくつ”と笑うのである。

 

「面白いな、リーよ! そして気にかかるのが空を飛ぶ乗り物じゃ。まさかこの年齢としになって退屈せんですむとは思ってもなかったぞ」


 おじさんは学園長をっと見た。


「楽しいことを追求するのに年齢は関係ありませんわ!」


「で、あるな」


 長閑な日常の一コマである。

 天候は良く、爽やかな風が吹く。

 木々は生い茂り、初夏という季節らしい緑があふれている。

 孫と祖父が庭園を散歩するように歩く。

 

 が、そこは魔物の生息域なのだ。

 なんら武力を持たない者なら、命の危険性すらある場所である。

 おじさんは既に式神である小鳥を飛ばして上空から警戒をしていた。

 

 学園長も自らが開発したという索敵用の魔法を展開している。

 これは魔力を糸のようにして、自身の周囲に張り巡らせるというものだ。

 ハニカム構造のような六角形を組み合わせた結界である。

 大きさは学園長を中心として、半径がおよそ百メートルほど。

 学園長もまた充分に化け物と言える実力があるのだった。

 

「便利な魔法ですわね」


 おじさんが学園長に問う。

 

「そうじゃろう。魔力の運用にもコツがいるがの、作るのに苦労したのだぞ」


 学園長の返答をよそに、おじさんは自分の掌で再現してみる。

 箱型ではなく、半球型のドーム状なのも魔力の節約なのだ。

 なるほど、とおじさんは思う。

 見た目や規模の割には、魔力の消費が少なくていい。

 

 そんなおじさんの姿を横目に見つつ、学園長は思った。

“あっさりと再現しよったか”と。

 現役を引退してからこの学園の長に就いてから、様々な学生を見てきた。

 

 数年に一度くらいの割合で、自身の目を惹くような生徒はでる。

 そんな生徒たちの中でも、出色のデキと言えるのは片手で数えられるほどだ。

 そう言えば、と学園長はおじさんの母親を思いだしていた。

 

 アレもまたぬきんでておった。

 が、その娘はさらに上をいくとは。

 この才能を曇らせるわけにはいかん、と学園長は改めて思うのであった。

 

「ところでリーよ」


 学園長が問う。

 

「話は聞いておる。建国王陛下から賜った鎧なんじゃが……」


 言葉を濁してはいるが、見たいのだろう。

 学園長のどんぐりのような眼が期待に満ちているのが、おじさんにもわかった。


「内緒ですのよ」


 と言いつつ、おじさんはアクエリアスとアンドロメダを召喚する。

 キラキラと輝くエフェクトとともに、おじさんの全身は鎧に包まれていた。

 白銀というよりは白金に近い色合いの豪奢な鎧である。

 両肩から枝垂れるような領巾ひれが、女性らしさを醸しだす。

 表面には幾何学模様を描くアクアブルーの光の帯。

 

 そこにいたのは戦乙女が現世に顕現したと言われても違和感が仕事をしない超絶美少女であった。

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