第109話 おじさん父親の疲れを癒やす
上機嫌に鼻歌を唄いながら、母親と妹が手をつないでいる。
おじさんの贈り物に満足したのだろう。
そんな様子を見て、おじさんもニンマリとしていた。
だが、おじさんのストレス発散の結果はまだ終わっていない。
そうなのだ。
母親にだけプレゼントをして、父親を放っておくのは片手オチもいいところである。
前世のお父さんたちは不遇だった。
同僚がよく愚痴っていたのをおじさんは思いだす。
うちなんてな母の日はプレゼントしてるのにさー、父の日はスルーなんだぜー。
奥さんと子どもらだけで遊びに行くってよ。
家族の中で俺だけ誕生日祝ってもらえないんだぜ。
そんな悲しい思いを父親にはさせたくない。
おじさんは決意したのだ。
そして作り上げてしまった。
マッサージチェアを。
最近はなにかと父親に丸投げしてきたのでお疲れだろう、と。
その疲れを癒やすのにちょうどよかろうと思ったのである。
ふ、とおじさんの脳裏によぎったのは前世のことだ。
家電量販店でマッサージチェアをお試しさせてもらったのだ。
あまりの心地よさにおじさん、短い時間にも関わらず爆睡してしまった。
店員さんに起こしてもらったときの表情が忘れられない。
苦笑まじりながらも、どこか同情されているような。
「むっふっふっふ」
つい声が漏れてしまうおじさんである。
「リーちゃん、悪い顔をしているわよ」
サロンに戻ると、父親と弟の二人が談笑していた。
「ただいま戻りましたわ」
おじさんが声をかける。
「ヴェロニカ、リー。さっきの魔法は……」
父親は苦言を呈そうとしていたのだ。
さすがにアレはマズいと。
しかし、である。
なにかがちがう。
いや理解はしていたのだ。
最愛のヴェロニカがキラキラしている、と。
まるで若返ったかのような……。
「スランったらどうしたのよ」
などと口では言いながらも、絶対に確信があるという表情の母親である。
「いや……」
口ごもってしまう父親をからかうべく身を寄せていく。
そこまでまたふわりと香るのだ。
おじさんお手製の香油が。
「これはルゼリアの花の……」
天使の輪がでるほど艶やかな銀色の髪を、母親は手で持ち上げてふわっとさせる。
「リーちゃんが作ってくれたの」
「ヴェロニカ……」
両親が見つめ合う。
良い雰囲気なのは悪いが、これ以上は弟妹たちに見せたくない。
おじさんはわざとらしく“ごほん”と咳払いをする。
「お父様に贈り物がありますの」
「え? は? う、うん。なにかな?」
少し戸惑った様子の父親に、おじさんは追い打ちをかけていく。
「これですわ!」
おじさんが宝珠次元庫からマッサージチェアを取りだした。
いやそれはチェアというべきなのだろうか。
椅子という概念からはかけ離れたなにか。
父親の目にはボテッとした巨大なスライムのように見えた。
そうなのだ。
おじさんはやってしまった。
それは擬似的な魔法生物とも呼ぶべきなにかなのだ。
「とりあえず座ってくださいませんか?」
おじさんの言葉に、父親はおずおずと腰をおろして体重をかけていく。
「リー。これ大丈夫なのかい?」
“もちろんですわ”とおじさんは頷いた。
ぐうぅと体重をかけていくと、父親の身体が沈むように埋まっていく。
そしてそれはある程度のところでジャストフィットしたのだ。
「おお……これはすごく座り心地がいい」
“ほう”と思わず息をはいてしまう父親であった。
しかしおじさんの作ったマッサージチェアはここから本領を発揮するのだ。
「お父様、少し魔力を流してくださいませんか?」
「ん? こうかい?」
父親が魔力を流すと、マッサージチェアに似たなにかが動く。
父親の首の辺りから、肩にかけてもみほぐすように。
それは背骨に沿って腰の方へも連動していく。
「あ゙あ゙あ゙あああ」
肩がこっていたのだろう。
父親の目が一瞬にしてとろけてしまった。
「リーちゃん!」
キラキラとした目で母親がおじさんを呼んだ。
がしっと肩を掴まれる。
「こんな面白そうなものを作るなんて!」
母親の目がくわっと見開かれた。
「控えめに言って最高じゃない!」
あ、とおじさんは気がついた。
これは母親の琴線に触れたのだ、と。
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