第89話 おじさん宮廷魔法薬師に引き止められる
おじさんたちは建国王の残滓が暮らす邸へと案内された。
そこであれやこれやと話がスタートしたのが、おじさんの想定を完全に超えていたのである。
建国王と現国王の話は難航した。
国王としては毎日でも訪れたいのだが、そうはさせじと建国王ががんばる。
あれやこれやと話が続き、おじさんは完全に飽きてしまった。
庭園を散歩したり、自作のお茶セットをだしたりもする。
暇だったのでトリスメギストスを召喚して、他愛のない会話もした。
結局のところ、五日に一度は訪問してもいいと話が決まるまで、実に長い時間を要したのである。
ちなみに建国王と会えるのは、王族と三公爵家までだ。
それも一度の訪問では三人までで、滞在時間まで決められている。
国王が若干だが疲れたような表情で、おじさんのだしたテーブルに座った。
「陛下も一杯いかがですか?」
「いただこうか」
おじさん手ずからお茶を淹れていると、建国王も姿を見せる。
『いい香りに誘われてきたが、リーよ、余も所望してよいか』
「かしこまりました」
おじさんは建国王の分も茶を淹れる。
もうどうでもよくなっていたのだ。
そもそも建国王はモヤがかかったような人陰である。
お茶が飲めるのか、などの疑問はあって当然なのだ。
だが、おじさんは請われるままにお茶をだし、茶菓子も添える。
『おお! この器は見事である!』
おじさんお手製のボーンチャイナを持ち、建国王はずずずと茶を啜った。
“うん、もうどうにでもなあれ”とおじさんは思った。
ひとしきりお茶を飲み、歓談したあとでおじさんは席を立つ。
「建国王様、それではまたお邪魔させていただきます」
「うむ。先ほどの取り決め、リーは適用外であるからな。いつでもくるといい」
と、おじさんの目の前に指輪が出現する。
国王がはめているのと同じものだ。
要するにおじさん専用にしろとのことだろう。
建国王の言葉に国王がぎょっとした目でおじさんを見た。
そこには羨望の色が明らかに混じっていたのである。
王城に戻ると、既に太陽は落ちていた。
足早に国王の執務室へと戻る。
おじさんが部屋に入ると、三人のおじさんが血走った目を向けてきた。
“ひぃ”と小さく悲鳴をあげてしまったのは仕方のないことだろう。
「兄上! どどどどうなったのですか?」
「落ちつけ、スラン。今から話す」
その前におじさんは逃げることに決めた。
これ以上は付きあっていられないのだ。
「陛下、お父様。わたくし、もう失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、うん。大丈夫だよ、リー。お疲れさまだったね、私は遅くなると伝えておいてくれるかい?」
「それはかまいませんが、お母様にはどこまでお話してよろしいのですか?」
「あの妹ならすべて話してしまっても大丈夫だぞ」
宰相がねぎらうような目でおじさんを見た。
「遅くまですまなかったね」
宰相も了承してくれたので、おじさんは素早く執務室を後にした。
そして王城を後にして帰ろうとしたところである。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ。ちょうどいいところに!」
おじさんに声をかけてきたのは、エバンス=グヘ・ボナッコルティであった。
王宮魔法薬師筆頭である。
王妃の件以来の顔合わせであった。
「これはエバンス様」
帰りたいのにという思いを殺して、おじさんは笑顔で対応する。
「呼び止めてしまってすまない。キミのお父上に話をとおそうと思っていたのだが、本人がいるのならその方が早い」
長身痩躯。
丸眼鏡をかけた亜麻色の髪の紳士がガバッと頭を下げる。
「私に付きあってほしい、頼む!」
「お断りしますわ!」
おじさんは即断でノーと言える人であった。
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