第88話 おじさんダンジョンにとんぼ帰りする
「王宮西側にある尖塔の最上階にある部屋と仰ったのか」
おじさんの話が終わると、国王がううむと腕を組んだ。
「開かずの間じゃな」
「師父のいうとおりだ。いつからかはわからんが誰にも入れない部屋であった」
師父とは学園長のことである。
国王とその弟であるおじさんの父親の師匠でもあるのだ。
“まさか建国王陛下が絡んでいたとは”と
「そこでこの指輪に魔力をとおす、か」
「あの、よろしいでしょうか?」
おじさんが声をかけた。
なぜならここに居る全員で押しかけよう、そんな空気を感じたからであった。
おじさんたちの目が一斉にむいたので、ちょっと圧を感じてしまう。
しかし負けるわけにはいかないのだ。
「とりあえずは陛下だけをお連れしたいのですが」
「なぜ!」
ほら、きたよであった。
特に父親が絶望的な表情をしている。
父親が建国王を尊敬しているのは知っているのだ。
だがここで甘い顔をするわけにはいかない。
おじさんは心を鬼にして毅然とした態度をとる。
「建国王様の残滓は仰いました。静かに暮らしたい、と。なので大勢に押しかけられると、それこそまた別の場所に隠遁されるかもしれませんわ!」
その可能性はないだろうと、おじさんは思っている。
なぜならダンジョンに縛られた存在だからだ。
ただ本当に迷惑であれば、この転移の仕組みを解除してしまうかもしれない。
それは悪手だとおじさんは思うのだ。
万が一のことがあったとき、ここが唯一の避難経路になる可能性もある。
なので下手なことをするのはマズいと判断したのだ。
そう丁寧に説明した。
で、不承不承という表情に変わったおじさんたちができあがったのである。
「リーの言うとおりだ。ここは私が建国王陛下とお会いして話を詰めてこよう」
国王がどこか勝ち誇ったような顔で言う。
「アンディよ、わかっておるよな?」
学園長から国王に圧力が飛ぶ。
呼び名が陛下から愛称であるアンディに変わっているところが本気の証しだ。
「師父よ、心配しないでいただきたい。さぁ行こうぞ、リー!」
その圧力をスルーして国王は、スキップを踏みそうな勢いで部屋をでる。
後ろからついていくおじさんの心中は複雑であった。
確かに建国王の偉大な話は、この国の人たちには人気がある。
絵本にもなっているので、老若男女とわずに知っているのだ。
だが強烈なまでの憧れは持たなかったのだ。
故に国王や父親、宰相に学園長までもが執着する理由がよくわからない。
それを聞くと、こう返された。
“王国の男子たる者、一度は建国王陛下に憧れるものだ”と。
おじさん的には男子だと思っている。
確かに肉体は女性ではあるのだが、中の人が男性なのだから。
だがどこかで認識がずれているのだろうか。
ひょっとして肉体に引きずられている部分があるのか。
その答えはおじさんにはわからなかった。
しばらく歩いて、件の場所につく。
国王の指には下賜された指輪がつけられていた。
その手がドアノブを握ると、開かずの間という話は嘘のようにかんたんに開いてしまう。
部屋の中に調度品は置かれていなかった。
ただ中央の床には、幾何学的な模様で描かれた魔法陣がある。
「ここに立って、魔力を流せばいいのか」
国王の言葉に首肯しつつ、おじさんも魔法陣の上に立つ。
「ではいくぞ」
次の瞬間には、おじさんたちはダンジョンの中へ転移していた。
聖女が眠りこけていた件の場所である。
「おお。ここが……」
国王の言葉が止まったのは、建国王の残滓が姿を見せたからである。
『ん? 誰がきたかと思えばリーか。早かったではないか』
「今代の国王陛下ですわ、建国王様」
おじさんが頭を下げてから、国王を紹介する。
「アンスヘルム=エウフェミオ・ヘリアンツス・リーセでございます」
国王は跪礼をとっていた。
そして、ハラハラと涙を流していたのであった。
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