第52話 おじさんダンジョン前で女性講師を驚かせる
「リー様、わたくしの力が及ばず申し訳ございません」
アルベルタ嬢に丁寧に頭を下げられるおじさんである。
しかし学園側が決めたことなのだ。
「ありがとう、アルベルタ嬢。そのお気持ちだけでも嬉しいですわ」
おじさんは鷹揚にアルベルタ嬢に接していた。
ダンジョン講習で一緒にパーティーを組みたかったのだ、と涙目で言われても困るのだ。
そのため若干だが、いつもより笑顔が引き攣っていた。
聖女も結局はひとりで講習をうけることはできずに、ぶーぶーと文句を言っている。
政治的な要素も含まれているのだろうが、やはりおじさんと比べれば実績がちがう。
どうしても同じように扱うことはできないのだ。
ダンジョン講習といっても安全ではない。
さすがに命を落とすようなことはないが、それでも怪我人がでる。
一年生のときから無茶をさせるような真似は学園もできなかったのだ。
ということで、おじさんだけ特例として講師と二人でダンジョンに潜ることになった。
件のダンジョンは王都から少し離れた場所にある。
だいたい馬車で一時間程度だろうか。
ここは王宮に勤務する騎士団がしっかり管理しているので安全性が高いのである。
「メーガン・リーネルトよ。こうして顔を合わせるのは初めてだわね」
黒髪のロングストレートに、ミルクキャラメルのような肌の女性だ。
身長がおじさんより頭ひとつ高く、モデル体型である。
軽装となる革鎧に、腰に二本の短剣をぶらさげていた。
「パーヴォ……もといバーマン卿じゃなくって……講師と一緒に冒険者をしていたの。こう見えて、斥候としては優秀なのよ」
泣きぼくろのある目をパチリと閉じてウィンクする様が妙に似合っていた。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワですわ。よろしくお願いいたします」
にこりと笑って挨拶をするおじさんであった。
「さて……と。あなたの装備はそれでいいの?」
女性講師がおじさんの格好に目をやっている。
本日のお召し物は、動きやすいパンツスタイルだが学園の制服のひとつだ。
深みのある蒼がベースの軍服調ワンピースのスカート部分が、サルエルパンツのようなゆったりしたものになっている。
そして足下はヒールのないロングブーツだ。
独自の装備といえば、制服の上から羽織っているおじさんお手製のマントくらいだ。
古代ローマで使われていたサグムと似た形状のものである。
制服と同系統の色をした長方形の布を肩の留め具で留めるだけのシンプルなものだ。
ただおじさんの場合は、裏がロイヤルスチュアートと呼ばれる赤地のタータンチェックになっている。
そこはちょっとしたおじさんのこだわりであった。
「大丈夫ですわ」
「んー武器は? 魔法系なの?」
【召喚・アンドロメダ】
女性講師の問いに応えるべく、おじさんはお気に入りの籠手を喚びだした。
いつもながら幻想的で荘厳な雰囲気がある籠手だ。
「え……と、武具召喚できちゃうんだ」
一瞬だが呆気にとられた女性講師が気を持ち直した。
「うん。まぁ今日のところは低層階で様子をみるだけだし、それでいっちゃおう」
女性講師は担任である男性講師から話しだけは聞いていた。
しかし実際には見るのと聞くのでは大きな違いがあったのだ。
ちなみにマントで隠れているが、おじさんが王太子たちを修正したときの短杖も腰にある。
おじさん、楽しむべきものは全力でというタイプなのだ。
「よろしくお願いしますわ!」
と、おじさんが先を歩きだす。
まるで勝手知ったる我が家のような、気負いがまったくない歩き方である。
その後ろ姿を見つつ、“なんで生徒が先に行くのよ”と女性講師があとを追うのであった。
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