第51話 おじさんダンジョンと聞いて有頂天になる
おじさんが主催したお茶会が終わってから数日後のことである。
学園にて新しい動きがあったのだ。
「あーいいかー」
語尾が特徴的な男性講師、パーヴォ・バーマン卿が壇上で口を開く。
いつもの眠たげな表情は変わらないので、おじさんにはいいことか悪いことかの判断がつかなかった。
「七日後からお前らもダンジョン講習が始まるからなー」
ダンジョン!
それはおじさんにとって魅惑の言葉であった。
命をかけて魔物と戦い、知恵を駆使して謎や罠に挑む。
最下層には強敵がいて、勝利すればお宝が手に入る。
あのダンジョンなのである。
おじさんは幾夜、妄想を重ねてきたことか。
ほんのひとときでいい。
辛い現実から逃げるために、おじさんは妄想の中でファンタジー世界を冒険したのだ。
その登場頻度で最も多かったのがダンジョンである。
妄想の産物だったものが、現実に体験できるのだ。
これにテンションが上がらないおじさんではない。
“ふんす”と鼻息を荒くして、おじさんは男性講師の声に耳を傾ける。
「あーこのクラスは二十五人かー。だったら六人で一組、四つのパーティーを組むんだぞー」
パーティー。
実にファンタジーらしい用語である。
おじさんのテンションは右肩上がりだ。
そのため男性講師の不穏な言葉の意味に気づいていなかった。
「バーマン先生! ひとり除いたのはどういう理由でしょうか?」
アルベルタ嬢がスッと手をあげて質問をする。
「それなー。リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワはひとりなー」
「は? どういうことですの?」
アルベルタ嬢が思わず立ち上がっている。
「そりゃあもう言うまでもないだろー。実力がちがいすぎるんだよー。パーティーを組んだとしたら、その組はもう勉強にならないだろー」
「しかし! リー様をお一人でダンジョンにチャレンジさせるなんて! 危険すぎますわ!」
「実力的には問題ないー。まぁそれでも初心者だからなー。おれら講師陣の誰かがつくと思うぞー」
「……そんな」
がくりとうなだれてしまったアルベルタ嬢であった。
「それにだー。ダンジョンでは魔物と戦う経験もしてもらうからなー。使い魔との連携なんかもあるだろー。
正論をまくしたてる男性講師の言葉に、アルベルタ嬢が”ぐぬぬ”と言葉に詰まってしまった。
「それなら! わたしだってひとりで攻略できるわよ!」
どぉんと背景に効果音が書かれる勢いで聖女がビシっと男性講師を指さす。
「わたしの使い魔は第四位の天使! 中級最上位のキュリオテテスだもの!」
一般的にはドミニオンとも呼ばれる天使である。
手には笏を持ち、神の意向を人に伝え、下位の天使を統率する立場の天使だ。
その特性は下級天使を召喚すること。
召喚できる天使の数に上限はあるものの、かなり強い使い魔であることは間違いない。
「なにを言っているのだ、聖女よ! そなたの身は我が王国にとって大切なもの! 危険にさらすわけにはいかん!」
王太子が乱入してきたことで、場が一層に荒れはじめる。
「そうだぜ! お前はオレが守ってやるからよ!」
赤色が聖女に向かってサムズアップしている。
「ちょっと! 余計なことを言わないでよ!」
王太子たちがぎゃあぎゃあと立ち騒ぐ講義室の中で、おじさんはひとりで静かに唇の端を釣りあげていた。
「少しくらいなら本気をだしても……」
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワー。不審なことは考えないようになー」
一瞬で男性講師に釘を刺されて、“なぜ!”と目を見開き、絶望するおじさんであった。
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