第21話 おじさん王妃の問題を知る



 そこは国王の執務室と私室を兼ねている部屋だった。

 派手さはないけれど、質実剛健な調度品が置かれている。

 とても品のよい部屋だ。


 国王と祖父母、おじさんの四人に加えて内務のトップたる宰相が同席していた。

 ナイスミドルといった風体の宰相が


「皆、楽にしてほしい」


 国王の言葉に頷いて設えられているソファーに宰相以外が座った。


「リー、顔を合わせるのは初めてだな。スランから話はよく聞いておるのだがな。話に聞くよりも美しいではないか」


 ハハハと笑う国王の顔つきはまさに親戚のおじさんといったところだ。

 おじさんの父は同腹の弟だから、まちがっていないだろう。


「お初にお目にかかりますわ。リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワと申します。国王陛下に拝謁させていただけるとは、光栄の極みでございます」


 おじさんは立ち上がって、きれいなカーテシーを見せた。

 今日のおじさんは髪をシニヨンにして、淡いブルーのAラインドレスを着ている。

 その姿は妖精もかくやというほどに美しい。

 男性陣の口から“ほう”と息をつく言葉が出るのも無理はないだろう。


「見事な挨拶だな、リー。だがここでは伯父と姪という身内の関係でよい。そう畏まるな」


「承りましたわ、伯父様」


 にこりと花の咲くようなおじさんの笑顔である。


「これは……キースのヤツにはもったいないな」


 王太子であるキースの評価はそんなに高くないのかとおじさんは思う。

 おじさん、自分が絶佳な美少女であることは自覚している。

 だが前世の影響から自己評価がそこまで高くないのだ。

 

「アンディ。そんなことはいいから、本題に入りな」


 祖母がばっさりと国王を切る。

 元王族で国王とは甥と叔母の仲なので遠慮がまったくない。

 ちなみに国王はアンスヘルムという名前で、アンディは愛称だったりする。


 苦笑しながら国王が短く咳払いをした。


「叔母上、実はここ三日ほど妃が具合を悪くしていてな」

 

「アヴリルが?」


 祖父の疑問に対して、宰相が“ここからは私が”と国王に対して目配せで了解をとる。

 国王が鷹揚に頷いたのを見て、宰相が口を開いた。


「我が妹アヴリルですが……どうやら毒に侵されているようなのです。しかしなんの毒か判別がつかない。そこでハリエット様のご見識をお借りしたいのです」


 王妃であるアヴリルはラケーリヌ公爵家の出身である。

 おじさんの母親とは腹違いの姉といった関係だ。

 つまり宰相もおじさんとは血縁関係があるってことになる。

 ちょっともう混乱気味になるおじさんだった。


「およその見当もついていないのかい?」


「面目ありません」


 宰相が視線を下げた。

 その姿を見て、祖母が大きく息を吐く。


「ロムルス、リーも連れていくがいいかい?」


「かまいません。が、大丈夫でしょうか?」


 宰相の言葉におじさんが“大丈夫ですわ”と応える。


「では」


 と宰相に続いて四人が王妃の寝室へと移動する。

 王妃の寝室に入ると、嫌な臭いが漂っていた。

 それは排泄物の臭いではなく、ただただ不快感を催させる臭いだ。

 元凶は王妃の体臭である。


 宰相が寝室へ入って窓を開ける。

 かんたんな風の魔法を使って空気を入れ換えるのも忘れない。


 寝台の上で眠っている王妃の姿は痩せ細り生気がない。

 肌に黒い発疹が見える。

 髪も抜けているのもあってか、既に亡くなっているかのようにも思えた。

 だが少しだが胸が上下に動いている。


 祖母が近寄り、脈をとっていた。

 それに合わせて祖母の目に魔力が宿る。

 

 おじさんも祖母を真似てみた。

 見ただけで真似られるのだから、おじさんのチートも大概である。


「恐らくは遠大なる死毒グランド・フィーバーだろうね」


 その毒のことはおじさんも知っていた。


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