第13話 おじさん野営訓練で手料理をふるまう



 おじさんの手ずからの料理が次々とできあがっていく。

 そんな様子を見ながら、令嬢たちは心の底から“リー様についてきてよかった”と思っていた。

 かぐわしい香りに満たされた空間でほっこりする令嬢たち。

 そこへ来訪者が訪れる。


「あの、すみません」


 おじさんの張った結界の外にいたのは、婚約者と班を組んだ女子たちだった。

 概ねは良好な野営訓練だったものの、やはりお花摘みなどの問題があったそうだ。

 そこでおじさんの建てた立派な家を見て、貸してもらえないかと相談にきたのである。


 もちろんおじさんは快く貸し出してやった。

 ついでに料理も振る舞われると、なぜか令嬢たちが帰るのを嫌がりだす。

 おじさんの毒にやられてしまったのだ。


「こちらに滞在したいというのなら歓迎しますわ。ただ婚約者の方たちに話をとおすべきですわ」


 おじさんは来る者拒まず、去る者追わずである。

 ただ彼女たちは婚約者と班を組んでいる以上、何も言わずにこちらに合流させるわけにはいかない。

 トラブルの元になるのがわかっているからだ。


 おじさんの言葉に頷く令嬢たち。

 彼女たちとて自分が不義理なことをしている自覚はあったのだ。

 ただ乙女として、どうしても譲れないものもあるだけである。

 そこで何人かがついていくことで、円満な解決をしようと動き出した。


 結局のところ婚約者の男子組も折れたようだ。

 それはもう仕方がない、と。

 一段落ついたところで、皆が憂いなく食事を楽しむ。


「ちょっとあんたたち! ずるいわよ!」


 幸せな空気を切り裂いたのは聖女の絶叫だった。

 腰に片手をあてて、反対の手でビシッと指を差す少女の姿が見える。

 

 こういう相手に理屈を説いてもムダだ。

 そう悟ったおじさんが前に出る。


「お料理は余っておりますから、よろしければ聖女様も食べていかれますか?」


 おじさんの言葉に聖女が目を見開いた。

 そこへアルベルタ嬢がたたみかける。


「とっても美味しいお料理をリー様が作ってくださったのよ」


 ムニエルとふかふかのパンがのった皿を差しだしたのだ。


「しょ、しょうがないわね、いたくわ! でも甘く見ないでよね! こんな料理でだまされないんだから!」


 聖女がおじさんに籠絡された瞬間であった。


 聖女はおじさんのことを敵視していたのだ。

 王太子を狙っている彼女からすれば、婚約者のおじさんは邪魔なのだから。

 しかしおじさんに敵意はない。

 なんだったら婚約破棄をしてもらいたいくらいだ。

 心情的には聖女がんばれなのである。


「ぬっほおおおお! なにこれ? なにこれ? こんなのはじめてええええ!」


 聖女の声がこだまする。

 その声を聞いた王太子たちは、すわ何事かと聖女のもとへと急いだ。


 そこで目にしたのは、むさぼるように食事をする聖女の姿だった。


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