第5話 おじさん学園でやらかす
おじさんは学園に対して少なからず失望していた。
王国中の令息・令嬢が集まる学園。
そこは知識層の巣窟である場所だ。
しかし実際に行われる講義のレベルの低さに失望していた。
おじさんにとって知識欲を満たすことは重要なことである。
なんでもできちゃう系女子なので、知らないことには旺盛にチャレンジしたいのだ。
ただおじさんは忘れていた。
この国、いや世界にとって異物であることを。
前世の記憶を持ち、さらには歴代最高の愛し子なのだ。
低レベルと誹られた講義も、実は一般市民からすればかなり高度な内容である。
そもそも貴族の子弟といえど、基本的な四則演算に読み書きができれば僥倖なのだ。
おじさんが求めるような大学院レベルの専門教育など行われるわけがない。
中学生にそんな講義をしても理解ができないからだ。
おじさんは公爵家の御令嬢である。
権力と資金に物を言わせて、これまで専門家を呼んで教育を受けてきたのだ。
それも親馬鹿である両親が、愛娘の願いはできるだけ叶えてやりたいと考えていたのも大きいだろう。
ふつうの令嬢はそんな勉強をしない。
礼儀作法やダンスに教養としての芸術や、奥向きの差配などを学ぶのだ。
しかし学習能力マックスのおじさんは早々に身につけている。
今では父に代わって公爵家の資金運用の一部を任されているほどだ。
ちなみにおじさんは公爵家にて商会を立ち上げてもいる。
そこで前世の知識を生かしたヒット商品を連発したのだ。
特にブラジャーを作ったのは大きかった。
ご婦人たちがこぞって買い求め、母のところにも問い合わせが殺到したほどだ。
結果、おじさんが作った商会のお陰で公爵家はその資産を大きく膨らませるだけではなく、元より高かった貴族としての地位をより高めることになった。
それと同じに考えてはいけない。
学生レベルではないのだから。
「今日は魔法の実地訓練を行う」
学園の講師が訓練場に設えられた的に向かって氷の槍を飛ばす。
二十メートルほど先の的に命中して、生徒たちが声をあげた。
生徒たちがチャレンジしていくものの、あまり芳しい成果は上げられていない。
的にすらとどかないのだ。
それでも魔法の形になるだけマシな方である。
中には魔法の生成すら碌にできない者もいるのだから。
それでも何人かは講師に劣らない実力を持っているようだ。
特に王太子とその取り巻きたちは優秀だった。
「次、リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ」
おじさんは名を呼ばれると、スッと立ち上がる。
的を見据え、その細くきれいな形の指を伸ばす。
【氷弾・改】
天使が歌うような声でトリガーワードを呟く。
次の瞬間、的が破壊されていた。
さらに的の後ろにあった訓練場の壁にも穴が穿たれる。
マズいと判断したおじさんは咄嗟に氷弾を消した。
どうやら氷弾による犠牲者はでなかったみたいだ。
ふぅと内心で息をはいておじさんは思った。
かなりデチューンしたんだけど、もっと必要か。
表情を取り繕って、くるりと振り返ると皆の視線が刺さる。
おじさん、なにかやっちゃいました?
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