武蔵野にて
@usapon44
第1話 小さなアパートの天窓からの光
わたしは、赤い扉のちいさなアパートにその頃住んでいた。玉川上水をはさんで線対称の位置に通っていた校舎がある。朝、すこしだけワイドショーをみてから学校へいっていた。秋になると、通り道の橋の上にたくさんのカメラマンが紅葉した玉川上水をとろうと構えていた。学校の中も木々が紅葉し、落ち葉をあつめて先生が焼き芋を焼かれていた。そこの君、焼き芋食べていきなさいよ。先生がそういって焼き芋をさしだしてくださったりした。学校ではプログラミングを学んでいた。計算機室というのがあってプレハブ校舎にNECのPC98がずらっと並んでいた。わたしはアパートが近かったのでそこであいている時間はひとりでプログラムと格闘していた。
アパートに戻って、じてんしゃに乗って、都民生協まで買い物にいき、入り口にある100円のキャベツを買ったりしていた。それで、まっすぐアパートにもどっていた。キャベツを刻んでいた。キャベツばかりかじってた、そんなせいかつおかしくて、という歌みたいなひとりばんのせいかつだった。白い本棚、白いベット、白い机、白いこたつ。わたしは、ちいさな台所で夢をみていた。そんな夢がなつかしい。
数学を勉強をして、なんのやくにたったのかな、っておもう。ちょこっとだけ中学生に数学を教えていて、数学なんて、なんにも役にたたない学問や、といわれたこともあって、そうかもしれないね、と想ったりもしていた。わたしの数学はいつからはじまったのかな、と考える。大阪万博で月の石をみたときからだ。兄が、百、千、万、億、兆、京。にほんごではここまでだけど、と白いA4の紙をさしだして左上の左端に1と書いて、ずっと0を書いていくとその紙いっぱいくらいの数字が天文学的数字といって星に到達するんやでぇ、といったのがわたしの数学のはじまりだった。だから数学はわたしにとってはロマンだ。だから、せいかつになんの役にもたたへんといわれたらそうかもしれないな、っておもうけど、昨日も987円までの買い物が自然とできたりするのであって、そういえば、早朝因数分解をしていた頃、調子がよかったなあ、と、おもいかえしたりもし、もうすこし役にたててよ、と武蔵野の玉川上水沿いにあったシックな建物に憧れていった女子大の先生には、へなへなしながらいわれそうなきもちもするけれども、一年生のとき担任だった先生の雰囲気は島崎藤村に似ていらしたことを最近きがついたときは先生はもうあの世だった。白いシャツと青いジーンズが似合うテニスが趣味のはにかみわらいが似合うせんせい。せんせいは、実は東京で学生運動に身を投じられ、こんなことをしていたら就職先なんてないや、と想っていたら定員50名のところを定員100名に増やすので先生としてきてくださいといわれいったものの、生徒たちの前期の答案用紙をみて愕然とした。いいたいことがここまで伝わらないとは、というエピソードを同窓誌にのせられていた。なぜかそのせんせいはいつも結局のことを、結極、と書かれていて、わたしはそれをみるたんびに、月極駐車場に満月の夜8時にいったら月と交信できるんやろ、と家族にいって笑われたことを想いだしたりもしていた。
武蔵野にて @usapon44
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