おもいでばなし
雪桜
おもいでばなし
「はぁ~。」
一つ息を吐くと、まるでこちらに存在を伝えているかのように白く半透明な息が大きく自分の顔の前に広がっていく。辺りは一面真っ白で都会の現実世界のような風景とはかけ離れた幻想的な光景が広がっている。
「おぉ~久しぶりだなぁ~。元気にしてたか?」
約半年ぶりの再会だ。最後にあったのはちょうど半年前の夏だった。
「ごめんなぁ~、本当は毎月来たいんだけどやることも多いし、ここらへんくるの大変だからなかなか頻繁には来れないのよ。」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるし、俺も無理はしてほしくないから。」
「まぁでも、こうやって顔を見せに来れるくらいには元気でやってるよ。」
「そっかそれは良かった。でもやっぱり大変だよな。本当にごめんな。」
ここら辺は建物や道路などはなく、特に冬の時期となると人の気配もまったくと言っていいほどなくなってしまう。故になかなか訪れにくいのだ。
「そうだ。今日はあれ持ってきたんよ。」
「あれ?」
「ほら、きぃの大好物の三色団子。昔っからよく二人で食べてたでしょ。」
「おぉ!久しぶりの団子だ!小さい時はよく、まりと取り合いしたよな。」
俺たちは昔っからの付き合いでよく一緒に遊んでいた。いわゆる幼馴染だった。年齢が上がっても仲は良かったが、各々進学や就職で次第に会う機会は減っていった。それでも時間を作っては一緒に遊びに出かけたり、年末年始には必ず会うようにしていた。
「ねぇ、覚えてる?」
「ん?」
「小学生くらいの時にここら辺でよく遊んでた時のこと。」
「あぁ。よく覚えてるよ。」
「私が小さい崖から足を滑らせてけがして泣いててさ、そしたらきぃがたまたま見つけてくれたんだよね。」
「あんときはいろんなところ探してたからなぁ。」
「私が、『足が痛くてどこにも行けない~』って泣いててさ、そしたらきぃが『大丈夫だよ!俺がどこにでも連れってってやるから』っていってくれてさ。」
「そんなこと言ったかなぁ~。」
「私本当にうれしかったんだ。助けてくれたこともそうだけど、きぃが私と一緒にどこにでも連れてってくれるって言ってくれたこと。」
「でも、俺がまりをいろんなところに連れってたせいで一人でいろんなところに行けなくなってしまった…。俺があの時車でどっか行こうなんて言わなければ…。」
半年前、まりと久しぶりに遊ぶ機会ができて、車の免許をとった俺は意気揚々とドライブに誘った。そして、横から飛び出してきた飲酒運転の車と衝突し交通事故を起こした。その結果、まりさんは下半身が麻痺し、不自由な状態となって車椅子生活となってしまった。
「私はこんなになっちゃったけど、まぁ、ずっとってわけじゃないし、手術とリハビリを行えばいずれ歩けるようになるってお医者さんも言ってたしさ。だからそんなに気にしなくていいからね。別にきぃが悪いわけじゃないんだしさ。」
「まり…本当にごめんな。」
「あ~ぁ。本当はこんな重たい話をしに来たわけじゃないんだけどなぁ~。」
薄暗い寒空の下、鈍い鐘の音が空一面に響き始める。
「今年もそろそろ終わりだねぇ~。」
「…あぁ。」
「今年もいろんなことがあったよねぇ~。」
「…あぁ。」
「でも、来年からは一緒の思い出は作れないねぇ~。」
「……あぁ。」
「……もう一度会いたいなぁ~。」
「………あぁ。」
「…せめて……お話ができたらいいんだけどねぇ~。」
「…………あぁ。…そうだな。」
「…次来るときはお盆かな。そしたらいっぱいいろんな話を聞かせてあげるね。」
「……………あぁ。待ってる。」
「……じゃあ、また来るからね。ばいばい。」
「………………」
もうすぐ年が明ける。
今年も一緒に年を越した。
けれど「あけましておめでとう」とは、言わなかった。
おもいでばなし 雪桜 @YUKISAKURA0923
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