第6話 マンドラゴララペのサンドイッチ 後編

「狼のおじさん、リベンジお願いしまーーーーす!!」


「……やれやれ。一度だけだぞ」


昼食後。再び、妹とジェイクさんが向かい合っていた。


草原を風が渡っていき、さわさわと葉擦れの音が響いている。


一定の距離を保ってタイミングを計っていた妹は、刀を握り直して一気に駆け出した。


「――!?」


ジェイクさんの目が驚きに見開かれる。


それもそのはずだ。動きが先ほどまでと段違いに速い!!


「せえええええええいっ!!」


「くっ……!」


――ギィンッ!


さすがに避けられずに大剣で迎え撃った。


巨躯が揺らぐ。勢いに押され、ズズ、と足が地面を擦った。


「まだまだっ!」


後方に飛びずさった妹が再び駆け出す。


重そうな刀を巧みに操り、あらゆる方向から剣戟を繰り出した。


剣と剣が交わる音が辺りに響き渡る。


一撃一撃が重いのか、じょじょにジェイクさんの顔に焦りが浮かび始めた。


実力が拮抗している。


大剣では、速さで勝る刀相手じゃ分が悪い。


「――そこっ!」


大きく怯んだ一瞬の隙を突いて、とうとう刀の切っ先がジェイクさんの喉もとに届いた。


「……ッ! クソッタレ……!!」


がらん。乾いた音を立てて大剣が落ちる。妹がニッと不敵に笑んだ。


「勝ったあああああああああああっ!!」


両手を掲げて喝采をあげる。


私の方を振り返ってVサインをした。


「やったよ、おねえちゃん!」


「おめでとう! まもり!」


笑顔で両手を広げると、勢いよく妹が腕の中に飛び込んで来た。


グリグリと頭を撫でてやる。


「よくがんばったねえ」


私も嬉しくて仕方がない。


「――まったく。なにをしたんだ。さっきとは別人じゃないか」


ジェイクさんがボヤいている。クスクス笑って、妹が言った。


「たぶんおねえちゃんのおかげ。でしょ?」


「……バレてた?」


「そりゃあ。自分の身体だもの」


「勝手なことしちゃってごめんね」


「別に構わないよ。私を想ってやってくれたんでしょ」


……うう。本当に、うちの子ったら。


妹の可愛さに胸を締めつけられていると、


「なにをしたんだ?」


心底不思議そうにジェイクさんが訊ねた。


「スキルを使っただけです。私は料理で人を癒やすことができるでしょう? それに加えて、特定の材料を使えば相手の能力を底上げできるんです」


「……とんでもないな」


「まあ。神様からいただいた恩恵ですからね」


今回、鍵となったのはマンドラゴラだ。


もともと薬草として使用されていたのもあり、マンドラゴラには身体能力をアップさせる効果がある。


私以外の人間がマンドラゴラを料理に使っても、熟練の魔導師でもなければ、誰かの能力を底上げさせる効果を出せない。


食材に秘められた力を、料理で最大限引き出せるのが私の力だ。


「妹が悔しがっている姿を見ていられなくて。……勝負に水を差しちゃいましたね」


よく考えなくとも、明らかなズルだ。失礼なことをしてしまったかも。


しょんぼり肩を落とした私に、ジェイクさんはかぶりを振った。


「どうだろうな。部隊に補助魔法が使える奴がいたら、活用するのは当然だろう?」


クツクツと鋭い歯を見せて笑う。


「戦場では最後に立っていた方が正義だ。手段は問題じゃないさ」


長い時間を戦いの場で過ごしてきた人間の言葉だった。


じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。


私の力は妹のためになる。その事実がなによりも嬉しい。


「まあでもっ! いつかはおねえちゃんなしで勝たなくちゃね!」


まもりは勢いよく宣言すると、びしりとジェイクさんに指を突きつけた。


「料理の効果が切れたら、また勝負だ!!」


今度はぜえええええええええええええええったいに負けない! と意気込んでいる。


ジェイクさんは喉の奥で笑って、


「まずはまっすぐ突っ込んでくる癖をなんとかしろ。お前の場合、実践より理論だな」


そう言って歩き出す。


「次の野営地まで話をしてやろう。勝負はそれからだ」


「わかった!」


表情を輝かせたまもりが、ジェイクさんの横を歩き出した。


ワイワイと賑やかに話し合っているふたりを眺めて、笑みをたたえる。


妹はいまよりもっとずっと強くなるのだろう。


そんな予感がしていた。





――――――――――

◎マンドラゴララペのサンドイッチ


マンドラゴラ(にんじん) 中二本

酢 大さじ4

オリーブオイル 大さじ2

砂糖 小さじ1

塩 小さじ1/4

胡椒 少々

食パン、バター、リーフレタス 適宜


*ラペはお好きなだけサンドしてください。酢を半分レモン汁にして、レーズンを入れても美味しい。挟んだ後、ラップで包んでおくと崩れにくいです。残ったラペは冷蔵庫で一週間くらい保つので、日々のおかずにもどうぞ。


◎火食鳥のハム


火食鳥の胸肉 一枚

塩 大さじ1

酒 大さじ2

生姜 1かけ

ネギの青い部分 適宜

水 ひたひたになるまで


*胸肉はなるべく平らになるように、包丁をいれて開いておきます。たこ糸で丸めてもいいんですが、私はめんどくさがりな人間なのでそのままが多いです。


*鳥ハムは、煮た汁まで美味しく食べられるのがお気に入り。ジップロックに入れて煮てもいいんですが、わざわざ熱に強い袋を買うのがめんど……ゲホンゴホン。醤油と酢、刻んだ生姜、ゴマ油、青ニラのタレをかければ、本格中華っぽい雰囲気がでます。晩ご飯のおかずにどうぞ。

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