悪魔冷嬢

楠本恵士

美少女令嬢が必ずしも天国に召されるとは……限らない

第1話・いきなり死んで、悪魔になってしまいましたわ

 悪評のドSご令嬢【悪之宮 卍華あくのみや ばんか】が死んだ。


 葬儀は悪之宮家の財力を湯水のように使い、一般道路を封鎖して、何かの祭りかカーニバルのように盛大に行われ、地域住民の不評を買った。


「卍華は安らかに天国に召された」……と、悪之宮の一族は、言っていたが。

 実際には、卍華は地獄に落ちていた。

 そして、数週間後……悪之宮卍華は、地獄からもどってきた。

 悪魔の姿となって。

「おほほっ、クラスのみなさん。バッドモーニング……地獄から舞いもどってきましたわ……おほほっ」


 いきなり、クラスの扉を魔力で破壊して。現れた卍華は、腰に手を当てて口元に添えた手の甲の小指を少し立てて。

 民衆を蔑んだ視線の、令嬢笑いをした。

 黒いエナメル水着に悪魔の尖った尻尾、悪魔の角、悪魔のコウモリの翼、目元と唇にも悪魔的なメイクをしている。

 怯えて教室の隅に固まるクラスメイト。


「生前から悪魔のようだった卍華が、本当に悪魔になって帰ってきた!」

「殺される!」

 ハイヒールブーツで、生前自分が着席していた机に近づいた卍華は。

 クラスメイトが、卍華の遺影写真に悪魔の落書きをして。

『祝地獄行き』とか『ドS令嬢』とか書かれた、ミニ花束を見て口元を歪ませて言った。


「わたくしが、地獄に落ちている間に、ずいぶんと好き勝手に遊んでくれちゃいましたわね……おほほほっ」

 笑いながら卍華は、目から光線を放ち教室の天井と壁を焼いて叫ぶ。

「誰だぁ! わたくしの机にこんなイタズラをしたのは、どこのどいつだぁぁ!」

「わぁ、悪魔令嬢が暴れだしたぞ!」

「誰か食い物を持っていないか! 悪魔に供物だ!」

 女子生徒たちが、机の上にチョコレートやアメや菓子パンを差し出して置いた。

 供物を見た卍華は、目から悪魔デビルビームを出すのをやめた。


 机の上の板チョコを手にする卍華。

「市販の安物チョコレートですの……わたくし普段は高級なショコラしか食べませんが、まぁ今回はこれでいいですわ……モグモグ、庶民の安い味ですわ……モグモグ」

 供物を食べて少し落ち着いた卍華に、クラスを代表した者が訊ねる。

「あのぅ……その悪魔のお姿はインキュバスですか? 淫乱夢魔の?」

「おほほほっ、なんですって! 誰が淫乱夢魔インキュバスですって!」

 卍華の角から発せられた電撃が、質問してきた者に浴びせられ。

 質問をした者は感電した。


 同時に床に魔法円が出現して、グリフォンの翼と蛇の尾を持ち、口から炎を吹く、黒いドーベルマンのような狼魔犬が現れた。

 狼魔犬に続いて、三十の軍団悪魔が魔法円から出てこようとするのを、翼を生やした魔犬が、ひと睨みして唸ると。悪魔たちは魔法円の中に引っ込む。


「おほほほっ、さすがですわ三十の悪魔軍団を率いる、悪魔侯爵『マルコキアス』よしよし」

 マルコキアスは、鼻をクゥ~ンクゥ~ン鳴らして卍華に甘え、卍華は犬の頭を撫でる。

 悪魔侯爵の魔犬は完全に卍華に、手なづけられているようだった。

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