あの夏の落し物
どどめ
第一話 あの夏に芽生える
学生の頃、私は恋人を作るのが夢だった。しかし今まで誰かと付き合ったことも無ければ、誰かを好きになったことも無い。"恋"というものを感じたことが無かったのだ。何故かは分からないが、自分には恋とか愛とか無理なような気がして。
友達と沢山遊んで部活を頑張る。
そんな日々が幸せで、それだけでよかった。
しかしある日、一人の男の子が頭から離れなくなる。
私はきっと彼が好きだったのだろう。
いや、絶対に好きだった。
だけど結局、私と彼は今も仲の良い友達同士だ......
彼との思い出が、今も私の心をこんなに締め付けるとは思いもしなかった。
ある夏、その日は35℃を超えるとても暑い夜だった。
扇風機くんはとっくの昔にお役御免
お風呂上がりにエアコンの真下でアイスを食べる。それが最高の幸せだ。
この楽しみがあるから夏は憎めない。
丁度アイスを食べ終わって幸せの後味を噛み締めている頃、同じ部活の男の子から電話がかかってきた。
電話越しの彼はなぜか酷く早口で、声はどこか震えたような、うわずった声だった。
話を聞き終えると、どうやら大した要件では無かったようだ。その直後、
一瞬だけ沈黙があった。
あまりの要件の薄さと突然の沈黙に少し変な空気が流れた。気まづくなった私は何か会話をしなければと思い、
あわてて今日の部活の話をした。
部活の話をした途端に、部活が大好きな彼がいつもの調子に戻った。
私はひとまずほっとして話を続けた。
すると話は予想以上に盛り上がった。
今まで彼とは必要な時に少し言葉を交わす程度の仲だった。しかし初めてちゃんと話すと、とても会話の波長が合い、楽しかった。
とても自然体な私でいられた。
また、彼から溢れ出るその言葉のどこかに、明るくて面白い、彼にしかない魅力が詰まっているような気がした。知らなかった、気付かなかった彼の魅力に少しだけ心を動かされた。
そして気付けば一時間も電話をしていた。眠くなってきたし明日も学校だから早く寝なければ。そう思った私は彼に言った。
「もう遅いから寝よっか」
彼は少し黙った。そしてすぐに
「明日もかけていい?」
と言ってきた。少しびっくりしたが初めて電話で長話をしたのにも関わらず、とても楽しんでいた私がいたのも事実。
「いいよ、今日楽しかったし(
「おやすみぃ〜」
途中で気を抜いたせいか欠伸をしてしまった。確かに眠気はピークだったが、男子に欠伸を聞かれるのはどこか恥ずかしかった。しかし何故か彼になら聞かれてもいいような気がして、それがまたさらに私を恥ずかしい気持ちにさせた。
「おやすみ」
と彼が言った。まさか私が彼とおやすみを言い合うとは、誰が予測できただろう。しかし初めてなのにどこか懐かしい、暖かい気持ちになった。彼の声には、どこか私を包み込む春風のような優しさがあった。
そんな事を考えていると眠気が徐々に引いてきて、代わりに鼓動がだんだん大きくなった。エアコンのせいで冷えてしまった手足とは裏腹に、桃色に火照った頬が私の心の状態を必要以上に私に教えてくれた。
そうして彼のことを考えているうちに朝が近くなってきた。
「うわぁ、これじゃ寝不足で授業受けるの確定じゃん」
眠いのに寝れない。明日授業で眠気に襲われるのが目に見えた。
しかし彼のせいで寝不足になることがどこか嬉しいような気もした。
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