故郷、道

時雨 莎祺

我が道

私も横になって、窓の外で暴れる風の音を聞きながら、今、自分は、自分の道を歩いていると分かった。


思えば私とYとの距離は全く遠くなったが、他の輩は今でも仲良しを演じており、現にYとMたちは心を通わせたふりをしている。


せめて彼らだけは、私と違って、それに気付かぬまま……


とはいっても、彼らが一つ心でいたいがために、私のように、無駄の積み重ねで魂をすり減らし、人間として堕落していく生活を共にすることは願わない。


また、Yのように、打ちひしがれて偽り、欺くような生活を共にすることも願わない。


また、他の人のように他人に当たり、迷惑をかけ、人を貶め、やけを起こして野放図に走る生活を共にすることも願わない。


希望を言えば、彼らは新しい生活を持たなければならない。


私たちの経験し得なかった新しい生活を。


希望という考えが浮かんだので、私はゾッとした。


たしかもう二か月となるのに私のことを噂していたのを見たとき、いつになったら忘れるつもりかと、心ひそかに彼らを嗤ったものだが、今私の言う‘‘希望‘‘も、やはり意味のない夢物語にすぎぬのではないか。


ただ、私の望むものはすぐ手に入り、彼らは手に入りにくいだけだ。


考えるのを放棄しようとしたとき、青か黒かはたまた…その空の下には、金色の丸い月がかかり、黒い鳥が翔んでいる。


思うに希望とは、もともとあるものとも言えないし、ないものとも言えない。


それは地上の道のようなものである。



もともと地上に道はない。歩く人が多ければ、それが道になるのだ。

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故郷、道 時雨 莎祺 @creeper7

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