6話 共同戦線②

 シミュレーター起動から数分。

 最初の反応は、高架下からだ。浮遊しているボールと地面を浮くユニットが待ち構えている。


「あれだな……!」


 アルマは片足に力を入れ、一気にターゲットに向けて加速した。ボールからビームが発射される。いくつものレーザービームをアルマは難なくかわし、ターゲットの一つをパンチで破壊する。追尾するビームをかわしつつ、アクロバットにアルマはターゲットを破壊していく。

 少し遅れてヴィクトルが到着した。


「なっ⁉︎ もうあんなところまで……⁉︎」


 ユニットが標的をヴィクトルに向ける。ヴィクトルの足から拳銃の様な武器が飛び出す。ヴィクトルはそれを手に取ると構えた。狙っているユニットの中には、破壊NGの青印が一体あった。


「狙いを定めて……」


 ヴィクトルが慎重に狙いを定めていた時だった。


「キィィィック‼︎」


 アルマがオーバーヘッドキックでターゲットをサッカーボールの如く蹴飛ばした。そのターゲットがヴィクトルが狙うユニットの群れに向かって飛んできた。危機を察知したヴィクトルは後退した。ターゲットが群れとぶつかり爆破した。破壊NGの対象ごとだ。


「しまっ……‼︎」


 すると、ブザーが鳴った。おそらくペナルティを知らせるブザーだ。


「あり?」


 ブザー音にアルマは首を傾げる。


「馬鹿‼︎ 今狙った中に非破壊ユニットがあったんだぞ‼︎」

「マジ⁉︎」


 やってしまったと考える暇はなく、ビームが次々に飛んでくる。


「ちっ!」


 ヴィクトルの右腕が、平たい鋼板になった。ヴィクトルはそれを前面に出してビームを防いでいる。ビームからガードしながら走りだし、ヴィクトルは右腕を刃に変える。ビームをジャンプしてかわし、ユニットの一体を頭上から破壊した。着地する間もなく、ヴィクトルは空中から拳銃を発射し続ける。ユニットが次々と破壊される。


「おお~! あいつ、やるな!」


 アルマが感心していた直後、狙っていたミニボールがアルマに向けてビームを発射した。


「おっとおっ⁉︎」


 間一髪でアルマは避けたが、ビームはヴィクトルにも飛んできた。


「‼︎」


 すぐに感知し、ヴィクトルは避ける。


「あっ、悪い!」


 ヴィクトルはきっとアルマを睨む。その時だった。一斉にターゲットが手に負えないくらいにビームを発射しだした。


「やばっ‼︎」


 危険と察知し、咄嗟にアルマはヴィクトルを持ち上げる。


「なっ⁉︎」

「逃げろ逃げろーっ‼︎」


 急いでアルマはその場を脱出する。ビーム自体はシミュレーターによる攻撃のため、当たってもちくりとした刺激が来るだけで、実際に外傷を負うことはない。


「お、おい‼︎ 逃げるなっ‼︎」

「無理無理無理っ‼︎ あれじゃ避けきれないって‼︎」


 ターゲット達は常に二人を狙っているため、すぐさま追いかける。


〈あー、ちょっとあれだね? 一時停止だ、イサミ〉


 シミュレーターが停止され、景色がノイズに飲み込まれて消えていった。


「と、止まった?」


 もう攻撃が来ないと知り、アルマはほっとした。


「このっ……馬鹿が‼︎」


 アルマに抱えられていたヴィクトルが降り、怒りの鉄拳制裁をアルマに食らわせた。


「痛っ……⁉︎」

「あそこで逃げる馬鹿がいるか‼︎ エルトリアと戦うというのなら、あれくらいで逃げるな‼︎」

「だからって殴ることねえじゃねーか‼︎ あんなのいっぱい来たら普通逃げるって‼︎ あのまま撃たれて穴だらけになれってか⁉︎」

「逃げるにしても身を隠すくらい考えられるだろ‼︎ 貴様、状況把握が浅はかすぎるぞ‼︎」

「そんな状況で考えられるかーっ‼︎」

〈はいはい二人共。仲良く仲良く〉


 スピーカーから仲裁を促す誠の声が聞こえてくる。


〈あー、とりあえず一回戻ってきてくれるかい?〉


 シミュレーションルームを出た二人は、操作室と呼ばれる場所へ入る。操作室には美香と誠とイサミがいた。


「ミカーッ‼︎ あいつイジワルだーっ‼︎」


 そう嘆きながらアルマは美香に抱きつく。


「あはは……よしよし」


 苦笑いしながら美香はアルマの頭を撫でた。


「……局長。もうわかったでしょう。あんな馬鹿と組んだら確実に死にます」


 ヴィクトルははあと長くため息をついた。


「まあまあそう言うなよ。今ので一応実力は見せてもらった。まずは勝利。お前に関しては特に問題はない。相変わらずの高スペックだ」

「!」


 それを聞いたヴィクトルは嬉しかったのか、ふふんと自慢げな顔だ。


「で、アルマの方なんだが、戦闘能力に関してはずば抜けているね。勝利より上なんじゃないかな」

「⁉︎」

「オレってすごい⁉︎」


 アルマは顔を輝かせた。


「ああ。すぐにでも前線に出したいくらいにね。ただ、勝利もちょっと言っていたが、いかんせん状況の把握が苦手みたいだね。倒せればいいの精神でやってたんじゃないかな?」

「それじゃダメなのか?」

「ダメってわけじゃないけど、状況は把握した方がいいと私は思うよ。現に君、自分の攻撃で破壊NGの対象を破壊してしまっただろう? もしあれが攻撃してはいけない人間だったら、やってしまったでは済まされないよ」

「あ、そうか……」


 アルマは納得かつ反省した。


「とりあえず今の君の課題は、協調性を学ぶことからだね。あとチームワークだ。今後ミッション成功するまでは同じことをやるつもりだから、頑張ってくれたまえ」

「またこいつと組むのか⁉︎」

「局長‼︎」

「大丈夫だ。二人共伸び代あるし、上手くハマればいいチームになれると私は思うよ」


 誠はそう言っていたが、正直美香は不安しかない。現段階では二人の相性は最悪だ。上手くハマるとは思えないからだ。


「あと、大空君」

「は、はいっ?」

「君は仮にも彼の保護者的存在だ。なるべくで構わないから、チームワークとは何かを教えてあげてくれ」

「チームワーク……」

「つまり、協調性を教えてくれってことさ」


 確かに人間社会を生きる上で協調性は大事になってくる。協調性がなかったら孤立は確実だ。アルマにそれが耐え切れるなんて想像できない。


「な、なんとかやってみます……」

「よろしい。では今日はもう帰っていいよ。明日時間があればまた来てくれ。面会は常に許可できるよう、回しておくから」



「チームワーク、チームワークかあ……」


 帰還許可を得た二人は、軍警本部近くの公園で休むことにした。美香は自販機でジュースを購入する。


「でもあいつイジワルだし、なんか苦手だ~!」


 ベンチに座りながらアルマは頭を抱えている。


「まあ、人には相性があるしね……」

「ミカのためになるなら仕方ないかもだけどよ、やっぱり納得いかないなあ~……」

「確かにあの人、ヴィクトルさんだっけ? 一匹狼って感じするもんね。チームワークは難しいかも。でも局長さん、上手くハマるまで今後もやるって言ってたし、それなりに努力は必要かも」

「うう……」


 がっくりとうなだれるアルマに、美香は何て声をかければいいかわからない。とにかくまずはアルマにチームワーク、すなわち協力することの大切さを教えてやらなければならない。


「……あっ」


 考えていると、あるアイディアが浮かんだ。


「どうしたっ?」

「なら、あそこに行ってみる? 何かヒントがあるかも」


 そう言って美香はアルマをある場所へ連れて行くのだった。

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