強制召喚も悪くない
かなちょろ
第1話 異世界召喚も悪くない
「由衣! そっちに一匹行ったぞ!」
「任せて! お兄ちゃん!」
小柄な少女の拳が2Mを越すモンスターを一撃で吹き飛ばす。
俺の扱う普通のロングソードが一瞬で数匹のモンスターを切り裂いて行く。
「さすがぁ! お兄ちゃん!!」
現代日本で普通に暮らしていた俺と妹は今『異世界』にいる。
数日前まで普通の学生をしていたはずなのだが…。
◇ ◆ ◇ ◆
数日前……。
ジリリリリリ…。
朝の目覚ましが部屋中に鳴り響く。
寝ぼけ眼で、目覚ましを止め、布団の中でこれから来る人を待つ。
コンコン!
部屋の扉を叩く音が聞こえ、そして静かに扉の開く音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん朝ですよ~」
昔テレビでやっていた某番組のように小さい声で部屋に入ってきた。
俺の寝ているベッドの前で立ち止まり、俺は布団の中で身構える。
「ダーーイブ!」
ボフッ!!
「ぐはっ!」
いくら小さくて体重が軽いとはいえ流石に痛い…。
「お兄ちゃん早く起きないと遅刻だよ~」
俺の隣に寝転びながら耳元で囁く。
ひとしきり隣でゴロゴロした後、そのまま起きて
「じゃ、早く起きてきてね」
とパタパタ足音を立て先に行ってしまった。
毎日こんな起こし方しなくても…。
前に一度先に起きていたら、何故だか朝から凄く不機嫌だったので、毎日こんな起こされ方をしている。
妹の機嫌のため、お兄ちゃんは朝から大変だぞ……。
ボーっとしながら着替えを済ませ階段を下り食卓へ向かう。
「行ってらっしゃい あなた」
「ああ」
チュッ☆
階段を下り、玄関先で毎日、ラブラブ夫婦姿を目撃します…
まぁ…仲が良いのは良い事だ。
「あら、 剣児おはよう」
「おはー」
俺はだるそうに返事をする。
食卓に行けば妹が既に朝食を食べ終え、洗い物をしている
良く出来た妹で、お兄ちゃん嬉しいぞ。
「ママ~ 洗い物終わったから学校行って来ま~す!」
玄関へ向かいながらこっちを振り向く。
「お兄ちゃんも早く食べないと遅刻だよ~」
「へいへい」
軽く手を振って妹を送り出す。
朝食を適度に済まし、学校の支度をする。
母に玄関先で見送られ(恥ずかしい…)学校への道をあくびをしながら歩いていると、急に目の前が一瞬暗くなり…目眩が……?
立ち眩みかと思い目をそーっと開ける。
そこは見たこともない薄暗い部屋にいた…。
「成功です」
そんな事を言っている小柄な少女が目の前に……。
「え?」
俺は頭の整理がつかず立ち尽くす。
少女は立ち上がり……。
「エルン様ー!」
誰かの名前を呼びながら、慌てたように部屋から出て行ってしまった。
少し薄暗いがぼんやり見える。
どうやら石で出来た部屋のようだ。
……夢か……?
さっき立ち眩みをしたからそのせいかも知れない。
外にいたはずなのに…
部屋の外からバタバタとした足音が聞こえてくる。
部屋に駆け込んできたのは、さっきまでいた小柄な少女、ガッシリとした鎧を纏った黒髪ロングの女性、金髪ロングで上品そうな出る所は出てる女性の3人だ。
「貴方が勇者様ですか?」
金髪の子が聞いてくる。
……は?
俺は訳がわからずポカーンとしてしまう。
「間違いありません!」
小柄な少女が俺の代わりに返事をしてる。
「試してみればわかるだろ」
鎧を着た女性が腕を引っ張り部屋の外に連れて行く。
「お、おい!」
外に連れ出された俺はまたもや目を疑う光景を目の当たりにする。
そこは草原、奥には森。
「な、なんだこれ?」
学校に向かう途中で、いきなりの女の子達、そして見慣れない景色。
脳内処理が出来なくなってきた。
「ここで腕を見せてもらう」
黒髪ロングの女性が言う。
ガサガサッと茂みが揺れる。
「おあつらえ向きに現れたな」
大型犬を2回り位大きくしたような狼に似ている生き物が5匹、唸り声をあげながら茂みから出てきた。
「ほら、これを使え」
そう言うと女性は腰に挿してある剣を渡してくる。
「お、おい!」
「じゃぁ、任せたぞ!」
と、蹴飛ばしてくる。
「うわっ!」
蹴飛ばされた先から、1匹向かってきた。
ちょーーこえーー!!
俺は振り向き女性の所に戻ろうとするが、狼の方が早かった!
ドッ!
優に大型犬を超える狼の体当たりが俺の背中に当たる!
「うっ!!」
ドゴッ!
体当たりをくらった俺は石の壁に吹き飛ばされる。
石の壁が崩れる威力。
死……死んだ……。
い、いや、生きてる。
しかも全然痛みが無い。
「〜!!」
鎧を着た女性が何か言っている。
ガラッ……。
俺はそのまま起き上がり、埃を払う。
グルルルルッ!
狼達がこちらに振り向く。
「!!」
狼達の動きは早い。
すでにこちらに突進してきている。
後ろは壁、横に逃げても他の狼にやられる
「なら!」
狼の突進を咄嗟にギリギリでジャンプして避ける。
「…ひ〜!」
思いっきりジャンプしたら、狼を優に超え、狼の反対側へ。
運動はさほど得意と言うわけでも無いはずなのに、人がこんなに飛べるなんて!
狼達は既に向きを変え、こちらに向かってくる。
「これを使え!」
さっき落とした剣を投げつけてくる黒髪ロングの女性。
取れるかぁぁぁぁー!
と、良く見ると…。
あれ?
意外と遅い?
タイミングを見計らって柄を取る。
そのまま狼に一太刀。
「ギャ!」
声と言う声にならずに狼の首が落ちる。
他の向かってくる他の狼も、良く見れば動きが遅い。
そのまま2匹ほど切り倒した所で残りの狼は茂みに逃げて行った。
「はぁはぁ…」
なんか凄く疲れた…。
「やりましたね!」
「まぁまぁやるな」
「さすがです!」
小屋の方から声が聞こえると、さっきの女性3人がこちらに声援を送っていた。
俺もその声援に合わせ
「勝った…」
「ぞー!」
いつもの道の真ん中で拳を振り上げ叫ぶ俺…。
「え?」
は…恥ずかしい…通行人いなくて良かった…
思わず辺りをキョロキョロ確認し、顔を真っ赤にしながらさっきの事を考える。
さっきのは夢?小柄な少女も、黒髪剣士さんも、金髪さんも、怪物との戦いも?
時計を見るとおよそ10分夢を見ていた事になる。
その日の学校は夢の事で頭が一杯になってしまい、勉強は全く入ってこなかった…。
夜、寝る時に今日見た夢を思い出しながらもう一度見れないかと、考えながら眠るのだった…。
恒例の妹による朝一の襲撃をこなし、授業という名の催眠術に我慢し、友達とバカ話しながら学校を終えて帰路につく。
1日のイベントをこなしても、やはり昨日の事が頭から離れない。
痛みは無いし、服も破れたり、汚れていなかった。
やっぱり夢だったのだろうか…?
「ただいまー」
「お帰りー!」
相変わらず元気な返事が返ってくる。
居間まで行くと、妹の由衣が台所でご飯を作ってる。
「母さんは?」
「お父さんのお迎え〜」
「そっか」
うちの両親は仲が良い。
2人共若くして結婚したので、まだ共に30代だ。
由衣が作ったおかずを一口摘み食いして、部屋に戻る。
夢でも、もう一度見れないかな……。
そう考えて今日は早めに寝ようと決意した。
「ゆいー!お風呂できてるか〜⁈」
「出来てるよー!背中流すー⁈」
いや、それはいい……。
早々とお風呂で暖まり、脱衣所に出た時、また目の前が暗くなり…。
目の前には美女×2 美少女×1がいた。
「・・・きゃあぁぁぁー!!」
「!!!!」
「きゃー・・・かわいい」
「うわぁぁぁ!」
3人の女性の前にバスタオルを肩に掛けた状態の俺は3人の目の前にゾウさんをボロン……。
急いでタオルで隠すが手遅れみたい…。
あ、黒髪の子がめっちゃ震えてる…。
小柄な子のそれ、指の間からみえてるよね?
それにかわいいって…普通サイズだから!!
「お〜ま〜え〜は〜!!」
黒髪の女性がスラリと腰の剣を抜く。
「ぶったぎる!!」
凄い形相で剣を振って襲ってくる!
「ひーー!!!」
裸でナニをタオルで隠し、石の部屋を出て逃げまくる!
「その不埒な物を出せー!みじん切りにしてやるっ!」
凄い勢いで追いかけてくる!
俺は悪くないし、何もしてないのにっ!
ガッ!
あっ!
足を引っ掛けて石畳に転ぶ。
「追い詰めたぞ!」
すでに剣を振り下ろす態勢になっている。
「ま、まって…」
「問答無用!」
剣が勢い良く振り下ろされる!
と、気がつくと脱衣所にいた。
死、死ぬかと思った……。
最後に「チッ!」と声が聞こえた気がしたけど…。
夢か現実かわからないまま、由衣の作ったご飯を食べ、宿題を終えてベッドに入る。
ただ今夜はあの夢の続きはやめてほしいと願いながら眠るのだった…。
翌朝、花々に囲まれている夢を見た。
いい香りがして、ほんわか暖かいマシュマロ に包まれている感触。
あぁ〜最高だ〜ここが天国かぁ〜
ゴッ!
いきなり頭を殴られた感触。
まぁ、痛くはないからこれも夢だろう。
「いい加減に起きろっ!!」
バキッーン!
良い音がして更に殴られる。
「何しやがる!」
流石にそう何度も頭を殴られてはたまらない。
せっかくいい夢見てたのに!
立ち上がり怒鳴って前を見ると、昨日の三人がいる。
「あれ?」
黒髪の子は折れてる剣を握りしめている。
「…ぁの…」
良く状況が飲み込めていないながらも、辺りには折れた剣の刃らしき破片が散らばっている。
「ぁ…ぁの…」
まさかこれで殴ったのか?
「おい!何も剣で殴らなくても良いだろっ!」
黒髪の子に文句の一つも言ってやらねば。
「あ…あのっ!」
声のする方を見ると自分の前に涙ぐみながら座っている金髪の子がいた。
「あっ!…あのっ…て…手をっ…」
なんだろうと自分の手を見てみると、俺の右手が金髪の子の大きな膨らみを鷲掴み、更には俺の意思とは無関係に揉みしだいている!!
手を離さないとっ!
しかし吸い付いて離れない!
何という吸引力!
「き〜さ〜ま〜!!やはり死ねーー!!」
折れた剣で攻撃される寸前、手が離れた事により瞬時に態勢を立て直す。
黒髪の子の攻撃が空を切った時には既に日本古来の最高礼に値する土下座の態勢にとっていた。
「ごめんなさい。」
とにかく平謝りした。
時間が無いからと、小柄な子が間に入ってなんとか許してもらえたようだ。
黒髪の子の怒りはまだ治まっていないようだけどね…。
まずはお互いを知る為に自己紹介する事になった。
「俺は佐渡剣児(さわたり けんじ)17歳だ」
金髪の女性がドレスのスカートの端をつまみ上げて名乗る。
「私はメロフ・グァバ・エルン 17歳です」
黒髪の剣士の女性は腕を組んだままぶっきらぼうに挨拶する。
「私はライムス 21歳だ」
魔法使いの子は元気に自己紹介。
「私はベリーです!11歳です!」
「エルンさんにライムスさん、ベリーちゃんだね」
「エルン様だ!」
黒髪のライムスさんに怒鳴られる。
「良いんです。構いませんから、エルンとお呼びくださいませ。」
エルンは見たまんま、良い所のお嬢様なのだろうか?
「ベリーの事はベリーって呼んでね」
可愛い笑顔と共に一通りお互いの紹介が終わった後は、ここが何処なのか? それが一番気になっている所だ。
「ここは、いったいどこなんだい?」
俺の質問にエルンがゆっくりと話し出す。
「ここはエルヴァリース。 剣児様から見たら別世界となります。 今から10年前、魔王と名乗る者が突然現れ、魔物を率いてこのメロフ王国を襲いました。」
「エルン様はメロフ王国の王女様だ」
黒髪のライムスさんが説明に付け加える。
王女様だったか!初めて見た!
……王女様の胸揉んじゃったけど、不敬罪にはならないよな…?
「私の父は魔王軍に立ち向かう為、全兵力を挙げて立ち向かいましたが…」
隣国の助けは間に合わず、王国軍は全滅し、私達だけ逃がされたと、うっすらと涙を浮かべながらエルンは答えた。
このボロボロの廃墟は元々城があった場所らしく、エルン達は隣国のフォンデュ国でお世話になっているらしい。
説明の途中だったが、自分の部屋に戻っていた。
朝一で召喚された為、由衣が部屋に入って来た時には起きていたので…。
「えー!お兄ちゃん起きてるのー!」
と、少し文句を言われたが、しょうがない。
朝ごはんを済まし、学校への道すがら、説明された事を少し整理してみた。
まず、あの世界はエルヴァリースと言う地球とは違った世界、異世界なんだろう。
こんな事が本当に起こるなんて……。
そして、魔王が現れ魔王城に一番近いメロフ国が滅ぼされた。
メロフ王は全軍で迎え撃ったが敗れ、王女『エルン』と護衛の『ライムス』だけ逃された。
隣国で同盟国のフォンデュ国が着いた時には既に廃墟となっていたようだ。
そして数日後……。
学校の昼休み、友達とご飯でも食べるかと、屋上へ続く階段を上っていた時、召喚された。
「やりました!成功ですね!」
「えぇ…そうね」
どうやらいつもの場所に今回はエルンに召喚されたらしい。
「えーと… その召喚は誰でも出来るの?」
「いえ、そんな事は無いです。召喚するには相手のムムムゥ…」
突如エルンがベリーの口を塞ぐ。
「だ、誰でも出来ますよー」
ベリーの口を塞ぎながら苦笑いしている。
なんか気になるじゃ無いか!
と、時間が無いので、用件を聞く事にした。
用件は召喚した経緯だ。
魔王軍との戦いに敗れてから10年後、魔法使いの子『ベリー』が現れ、魔王を倒せるのは古文書にある勇者だけと言う事で俺が召喚されたらしい。
信じて無かったが、ワラにもすがるつもりでやってみたら成功した。
そして宝珠の力で、エルヴァリースに召喚している事、召喚された勇者は無敵の力を持つ事、召喚は1人1回、10分程度しか召喚は出来ない事。
他にはエルヴァリースの物は地球に持って行けない。
これは前回ベリーがこっそり俺のポケットにコインを入れておいたが、召喚時間が終了した時にその場に落ちた事で分かった。
地球の物は持って来れるが、召喚の時間が経つと全て消えてしまう。
そう言えば狼の魔物に襲われた時、派手に吹っ飛ばされた割に地球に戻ったら汚れてなかったな。
他にもいくつか俺が召喚された理由はあるらしいが何故か教えてもらえない。
何故だ?
そんな話をしていると……。
ヒュッ!!
ガッ!
「ぐおっ!」
突如何か硬い物が頭に直撃した。
「へぇ〜、本当に平気なんだ」
窓の外には黒いローブを着た人が立っている。
「またね、勇者様」
ローブを翻し走り去って行く。
「剣児様大丈夫ですか!?」
ベリーが俺の頭に直撃した物を拾う。
「このナイフは…」
言いかけた時…。
「エルン様何かありましたか!?」
外で待っていたライムスが入って来た。
「またこいつが何かやらかしましたか?」
と言いながら既に俺の頭をギリギリと鷲掴みにしてる。
「違います。 今のは侵入者です!」
「なに!」
「でも、もういません。 剣児様が目当てのようでした」
「賊の侵入を許すとは大変申し訳ございません。 ですが、やはりこやつのせいですね」
頭を鷲掴みにしている腕に力が込められていく…。
痛く無いけどマジやめて…。
「おやめなさい。剣児様は悪くないです。」
「エルン様がおっしゃるなら…」
やっと手を離してくれた…
エルン様感謝!
そして時間になった俺は元の世界へ
「でも変ですね。勇者召喚は私達三人しか知らないはずですのに…」
元の世界に戻った俺は昼ご飯を済ませ、午後の授業を受け帰宅した。
居間のソファーで横になってふと考える。
あれ?もしかして勇者って事は一国を滅ぼす魔王と戦わないといけないんじゃ……。
マジで……!?
異世界に行けた事に浮かれていたせいで、今になって恐ろしくなって来た…。
でも、エルンの事を思い出すと出来る事はやってみようと自分に言い聞かせるのだった…。
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