第7話 妖怪認定~非モテ女子、迷信との最終決戦~

 前回は望んでいない『雨女』の疑いをかけられた、哀れな非モテ女子(私)の話をした。


 私の恋愛ライフの邪魔をする豪雨との対戦を綴ったエピソード1は『夏雨(ナツサメ)の攻撃~非モテ女子、迷信と戦う~』に掲載中だが、特に読まずともなんら問題はない。


 それでは「最終決戦」!

 (夏雨なつさめによる)攻撃エピソード、その2に入ろう。



 エピソード1による惨敗から、1年後――。

 前回の教訓虚しく、私はすっかり『雨女疑惑』を忘れていた。


 行動を共にしても『雨』による大きな被害を受けない、平和な日常。友人達の私に対する疑念も、徐々に薄れていった。



 ある晴れた夏の日――くだらない悩みが消えた私は、あるイベントに闘志を燃やしていた。


「ここで絶対に決めてやるっっ!」


 ありとあらゆる手を尽くし、王子(彼氏)をゲットしてから、初の遠出デート。


 私はこのチャンスで、1ヶ月にも渡る小学生レベルの清い交際に終止符を打つつもりだ!


 肩を出し(チューブトップ)、

 足を出し(ミニスカート)、

 板胸に厚めの偽造パットを詰めて、新たな戦場へ向かう。



『よしっ! 無事に着いた』


 王子の運転で到着した八◯島・シーパラ◯イス――。

 ここまでの旅路は会話も弾み、2人の空気感も今のところ順調だ。


 水族館に入り、とにかく私は「可愛いぃぃぃー!」を連呼する。


 当時から魚は食べる方を好んだが、生命の尊さゆえに虫も殺さない(逃がすスタイルらしい)彼に対し「美味しそう」とは、口が裂けても言えなかった。


 失恋フラグを立たせない。

 これは今宵の『親密』を遂行するのに、絶対条件なのだ!



 水族館の罠を抜けてからを済ませ、私達は隣接する遊園地ゾーンで遊ぶことにした。


 太陽の下で、ソフトクリーム片手にはしゃぐ私……。

 完璧に自分を偽り、本心は『確信の夜』へ向かっていた。


『今日こそ、イケるっっ!』



 しかしここから、私の記憶はある乗り物へ飛ぶ。


 時系列からして、他のアトラクションも楽しんでいる筈なのだが『ジェットコースター』での出来事があまりにも衝撃的だった為に、何も覚えていない……。



 まだ存在するのかは知らないが、小規模の遊園地内にメインアトラクションとしてそびえる、ジェットコースター。


 絶叫系アトラクションは得意中の得意。

 勿論「コワイ」や「ドキドキ」あたりの台詞を言いながら、私は彼と席へ座る。


 安全バーの確認直後――。

 上空から1粒の水滴が、私の太ももに落ちた。


「――?!」


 悪夢のブザーが鳴る。

 逃げ道を絶たれた2人を、集中豪雨が襲う!


 大量の水攻撃に、目も口も開けられない。

 

『つか、痛いっっ!』


 1分そこらのアトラクションが、異様に長く感じた。



「……でした」 


 帰還した私達を、カッパ姿の若いスタッフ3名が、苦笑いで出迎える。


 空には『青』が戻り、雨粒は消えていた。



「凄いね、本当だったんだ……」


 コースターを降りて放心状態のずぶ濡れ王子が、感想を述べる。


 行きの道中、笑い話として「雨女疑惑」を打ち明けていた私……無事に彼から、妖怪認定を受けた。



 パンツまでびしょ濡れのカップルは、土産も買わずにパラダイスを後にする――。


 地元に帰るなり「風邪をひくから」と、私は早々に実家へ送還された。


 努力実らず、最大のチャンスを逃した私。

 その後『清い交際』は、いつまでもどこまでも続いたのだった――。



 いかがだっただろうか?

 信じられないと思うが、今回の体験も本当の本当に起きた事だ。


 しかし「最終決戦」と断言した通り、雨と私の戦いはこれで終わった。


 辛うじて失恋は免れたので、エピソード2は私の「勝利」だと考えている。


 雨女? 時に存在するのかも知れない――。

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