第4話 評価システムと作品パンチ

 大学生になった私は、まだ二次創作で小説を書いていた。サイトは細々とした運営に変わっていたが、ふとした縁で大規模投稿サイトの存在を知り、そこでイラストと小説の二足の草鞋で活動を始めたのだ。


 ――ご存じ、pixivである。


 あれはすさまじかった。当時趣味の公開と言えばサイトが主立った手段だったのに対し、pixivは同一のタグをつけることで同志の作品をすぐに検索でき、簡単に閲覧することが可能となったのだ。

 イラストはまるでショーケースのように並べられ、小説はご丁寧に文字数まで書かれていた。これぐらいの文字数だったらさらっと読めるな、という指標があったのだ。


 ――そう。指標である。そこには評価もついていた。


 ブクマ、☆の数、コメント数――現在のカクヨムの様なシステムをpixivは最初から取り入れていた。

 物凄かった。自分が好きだな、と思う作品でもとてもシビアに評価され、ともすれば一点爆撃という最小評価を送ることで作者の筆を折らせるような行為も横行していた。

 これは今のなろうやカクヨムにもあるかもしれないが、サイトで好きなように作品を公開して楽しんでいたクリエイターサイドにとってとてもショックな出来事だった。

 今はそういった形の評価はなくなったが、(いいねアイコン一つに統一されている)自信をもって作った作品が全然評価されない事が多々あったのだ。


 そうすると、自分の好きは間違っているように思えてしまう。皆が見ている作品が正義で、自分のは異端だと思ってしまう。サイトをやっていた時は自分の作品が好きな人しかやってこなかったから分からなかったけれど、世の中にはこんなにも自分の作品に興味がない人がたくさんいるのだと知った。

 そうして、そんな人たちを振り向かせたいと思い、王道を探ってしまうのだ。

 受けそうなネタを選び、書き、たくさん宣伝する。そうして得られた評価に喜び、低い評価の作品に対し読んでもないくせに「面白くないんだな」と評する。

 まだ若かった私は、評価システムの闇にあっさり飲まれた。


 そんなある日のことだ。

 私はたまたま、昔好きだった作品の二次創作のストーリーをぽっと思いつき、3000字程の短い小説をささっと書いて投稿した。

 自分がただ「エモい!」と思って書いただけのものだった。忘れぬうちに書き記しておきたかったのもある。

 そのエモさが、何故だか伝わった。じわじわとブクマが増え、評価をもらい、最終的にその関連タグの中で一番評価の高い作品に躍り出た。

 見知らぬ人から感想をもらい、当時もやっていたTwitterでフォロワーのRTから自作品の感想付きツイートを見るという経験もした。めちゃくちゃ嬉しかった。


 ただ、運が良かったのだと思う。たまたまどこかの発信力のある誰かに拾われ、伸びていった作品なのだろうと。それでも、自分がただ「エモい!」と思って書いた小説をこうも楽しんでもらえると、サイトを運営していた時のような純粋な喜びがじわじわと込みあがった。

 その時思った。好きなように書けばいいのだと。自分が「エモい!」と思ったことをまっすぐに伝えられれば、きっと見てくれる人はいるのだと。


 絵描きの友人はよく言う。「クリエイターなら、作品に対して口で文句を言う前に己の作品力で殴れよ」と。小説だってそうだ。なんだかんだと口で言う前に「私はこれが好きなんじゃい!」とにじみ出るような作品で世に殴り掛かればいい。

 そこに技術をつけるか、筋力をつけるか、はたまた感情を乗せるかは作者の自由だ。どんな殴り方にしようと、本気であれば必ず説得力がついてくる。

 その友人は「自分が描けないものがあるのが嫌だ」といってずっと己の未熟と戦う職人だ。私もそうありたいと思う。自分が伝えたい内容を、読者にまっすぐ伝えられるような技術を身に着けるべく、己の未熟と戦う物書きでありたい。


 大学生の私は評価システムに翻弄されたが、結果的に肩の荷を下ろして好きに書けるようになった。

 そうして大人になって出会うのだ。



 好きを貫いて二十年近く同作品を書き続ける、オンリーマイロードなレジェンドと――。

 

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