第2話 同級生の小説書きと愛の描写
小学四年生の時からワープロでぽちぽちと小説を書いていた私は、中学生になるとパソコンを使いはじめた。勿論父のものである。
父がパソコンを使ってない間に触らせてもらい、ローマ字打ちとブラインドタッチが出来るように特訓していたのだ。
その時熱心に書いていた小説は、A4用紙で200頁を越える大作だった。おばあちゃん子な女子高生が異世界に転移し、クールビューティーなヒーローとおっちょこちょいだけど時々かっこいい忍者と一緒に旅をする冒険譚だ。
なお、これも父が自身のホームページに載せていた。間違いなく黒歴史である。
世界観が広がると書いても書いても終わらないとはまさにこのことで、今でも時々思うがその当時も「この話いつ終わるねん」と思いながら書いていた。しかし、程よくキャラが立っていて台詞の掛け合いが楽しい小説を書き続けるのは苦ではなく、暇な時間を見つけては黙々と書いていた。
そんなある日、友人の友人という経由で一人の友人が出来た。成績トップの才女かつ、オタクな女の子だった。
巷でよくあるオタクの像とはかけ離れた、はきはきと元気のあるその子は、仲良くなってしばらく経った頃に「貴女も小説書いてるってほんと?」と切り出してきた。
なんとその子も昔から書いていたらしく、お互いに見せあいっこしようという話になり、私は意気揚々と家で印刷した小説を彼女に渡して読み合った。
――めちゃくちゃショックを受けた。その子の小説が、びっくりするほど巧かったのだ。
台詞ばかりの私の小説とは違い、地の文もしっかりと書かれ、描写も驚く程に細かい。聞けば、書くだけでなく読書も好きだというその子は、当時私が知っている中で誰よりも本を読んでいた。
圧倒的な読書量の差が、小説に滲み出ていたのだ。
負けず嫌いの私だったが、面白いものは面白いのでそこではきちんと「めっちゃおもしれーー!」と褒めたたえ、家に帰って父に文句を垂れた。「うちの小説うんこだった」と、言いたくもないことを言っていたような気もする。
父はちょっと考えて、「でも、その子のがいいって思ったってことは、自分の悪い所が分かったってことやんね?」と言った。まさしくその通りだった。
台詞ばかりでページを埋めるのではなく、程よい合間で地の文を挟むこと。読者を置いてけぼりにすることなく、無理のない展開で説得力を持たせること。そこが出来てなかったことに気づけていたのだ。
今まで読んだ小説は「プロのだしうまくて当たり前だよね~」で済ませて学びすらしていなかったが、同級生の作品のおかげで流すだけに止めていた自分の欠点を洗いだされたのだ。
私は決意した。読書量が足りないのは分かった。でもすぐに追いつけるはずがない。だから、ファンタジーの名作を読んで少しでも学びを得たい、と。
奇しくも指輪物語が流行っていた時期だ。映画も見ていた私に、父は「じゃあ指輪物語読みなよ。全部家にあるよ?」と案の定勧めてきた。
私は断った。何故なら、映画を見てすぐに手にとって読んではいたのだ。
「あれ、私苦手だった」
「そうなん? まぁちょっと特殊な書き方だけど」
「ちゃうねん」
「ギムリが敬語なのが嫌やねん」
――アホみたいな理由である。
映画でギムリの像が出来上がってしまっていた私は、ずっと敬語なギムリを受け入れられずに読めなかったのだ。
結果的に、父はエリザベス・ヘイドンのラプソディシリーズを勧めてきた。重厚かつ本格的な、海外ファンタジーの名作である。
中学校では朝の時間に読書タイムが数十分設けられていたので、私はラプソディ上巻を持って嬉々として爽やかな朝に読み始めた。
――物語は、野外スケベから始まった。
小説において、愛を育む描写が書かれていることはままある。
だが、当時中学生の私にとってそれはあまりにも刺激的すぎて、真面目な読書タイムにエロ本を持ってきたようにしか思えなかったのだ。
――家に帰って死ぬほど父に怒り狂ったのは、言うまでもない。
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