7. 『腐土』の行方

「では、怪物の死骸は二体とも、ハニービー族の活動圏から離れたところで焼いた後、灰を川に流して下さい。大丈夫だとは思いますが、焼いた場所は一年間『忌み地』として誰も入らないように。この月の『日と月の日』と『風の終わりの月』の『日の日』、『土の始まりの月』の『日と月の日』と『月の終わりの月』の『月の日』に私とミリーで訪れて、『忌み地』に異常がないか確認します」

 『日と月の日』は昼と夜の長さが同じ日。『日の日』は昼が『月の日』は夜が一年で一番長い日だ。私が先に倒した怪物を浄化した後、ガスがローラさんにこの後の怪物の死骸の始末の仕方を説明しながら、綴りから切り取った紙にそれを書いていく。

「解らなくなったら、これを薬師の方に読んで貰って下さい」

 薬師のハニービーはお店から薬の製法を学んでいる為、人語が読める。

「解った。何から何までかたじけない」

 ガスが紙を渡すとローラさんは受け取り頭を下げた。

「確認の日には私が迎えに行こう」

「お願いします」

 先程まで歓声を上げていたハニービー達は、今は亡くなった仲間を思い出したのか、沈痛な顔で怪物の死骸を切り分けている。

「この先は彼女達だけにしてあげよう」

 そっとガスがささやき、私達はローラさんに帰ることを告げた。

「お花畑の『腐土』を浄化して帰ります」

「本当に世話になった。ありがとう」

「では」

 お花畑に向かう。悲劇の元凶である、流れ込んだ土砂の跡を浄化すると

「じゃあ、帰ろうか」

 ガスがふにゃりと笑った。

 うん、と頷き掛けたとき、私の鼻を微かに腐臭がかすめる。影丸が肩から降り、浄化した土砂の先を黒い小さな指で差す。

「まだ、ある!」

「えっ!?」

「本当よ! まだ『腐土』の瘴気があるわ!」

 ガスの肩のフランが飛び跳ねる。

 私は『腐土』の瘴気を追った。ここに流れ込み、金獅子草を怪物に変えた『腐土』の残りが、更に山の下に流れたのだろうか。ほんのわずかだが斜面の下へと続いている。

「まさか……人界に……」

 青ざめるガスに、あの『腐臭のする風で花の蕾が腐る事件』が頭に浮かぶ。

「ミリー!」

「うん!」

 再び、ショートソードを抜き、浄化の力を込めて剣先でなぞるように残った瘴気を消す。

「この先の『腐土』の瘴気を追おう」

 影丸を先頭に私達は山の斜面を急いで下り始めた。


 ハニービー族の縄張りである三合目を出、芽吹き始めた早春の山の斜面に戻る。その淡い若葉をつけた木々の枝の間からは、麓の人里の家々が見えた。浄化しつつ、山を下る。やがて跡は様々な木々の若木を畑に植えた、造園家の畑の土置き場へと入っていった。

「もしかしたら、この土に……」

 『腐土』が混ざったのかもしれない。ガスが唸る。

「あの風の事件の原因も『腐土』かもしれない。まず、土を浄化して店の人に、この土がどこに納品されたか調べて貰おう」

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