本田百香。
「佐藤くん、お酒すっごく強いね!もう七杯目じゃん」
「体質ですかね?」
結構飲みすぎてしまった。
軟骨のからあげに箸を伸ばすと「えいっ」と先に手が飛んできた。
依千夏さんが指先でからあげを摘みながら「うへへー」と笑っている。
「食べさせてあげよっか?」
「マジスカ」
「ほい」
「んむっ」
「あっはっはー!なにそのかおー」
無理やり口の中に詰め込まれて、びっくりしてしまった。
依千夏さんはかなり酔っているらしい。
普段は真面目なのに、酔うとハメを外すみたいだ。
「ぐぅー……すぴー……ぐぅーすぴー……」
僕の隣では百香さんが寝息を立てている。
居酒屋のテーブルによだれを垂らしている。
「百香ちゃんはお酒弱いからねー。よく仕事終わりに飲みにいくんだけど、こうやってダウンしちゃうからつまらなくて……。だから、佐藤くんに付き合ってほしかったの! 今日は送別会だっ!」
「……ありがとうございます。あんまりこういうのに参加したことないんで、素直に嬉しいです」
「よかったよかった!佐藤くんはいい子だね。よしよーし」
頭を撫でられる。
人を犬みたいに。
「佐藤くんがいなくなると寂しくなるよ……」
「いえいえ、僕なんて代わりがいる人材です。僕のモットーは『代わりがいるということを自覚しながら誰でも出来る仕事を全うする』ですから」
言いながら、ビールを飲みきる。
「僕は必要なかったんです。だからクビになった」
すいませーん、と店員さんを呼んでまたビールを注文する。
依千夏さんは上目遣いで僕を見ていた。
「必要ない人間なんていないよ。君の代わりは誰にも務まらない。そしたら五十鈴さんのマッサージは誰がやるの?」
「マッサージなんて誰でもできますよ」
「いいや、できない。男の子の力でやられるのが一番気持ちいいんだから。うちは女性社員ばっかりなんだし」
そう言われると少し照れ臭くなってしまう。
誤魔化すようにビールを喉元に流し込むと、依千夏さんが身体を寄せてきた。肩に頭を置かれる。赤いブラウスからは谷間が見えそうになっている。
「……飲みすぎですよ、山下先輩。ほら帰りましょ。タクシー呼びます」
「家いってもいい?」
「ダメです。本田先輩も送っていかないといけないですし」
「いいじゃん。置いていこ」
「あと家も汚いんで」
「掃除手伝ってあげるからさ」
「ダメです」
「えーさびしいよー」
「彼氏、いるんじゃなかったんです?」
「……先週、フラれた。かまってちゃん過ぎてイヤなんだって」
「また良い人が見つかりますよ」
僕は依千夏さんを払いのけて、百香さんを起こす。
その後、お金をすべて支払ってお店を出た。
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