第7握利 龍平くんと一門さんは同じでした。

「あー……たま、痛ぇ……」


 あれから少し眠ってしまった椿つばは目を覚まし、体を起こし正面に座り直した。


「ん? 立宮たてみや!?」


 目に入ったのは、胡座のまま両拳を床に付け、頭を下げていたりゅうべえだった。


「……悪かった」


「ん? 何がだい?」


「……お前のブ、ブ、ブラを見ちまった」


「あー、気にしなくていいよっ。減るもんじゃないし」


「減るだろ! 減らせよ!」


 龍平は顔を上げ叱った。


「あっはっは! 変なツッコミだなー」


「……元ヤンっていうのも、ただの噂なのか?」


「ああ、そうだよ。お互い顔で苦労するよなー」


 椿佐はケラケラと笑った。


「……じゃあ、元ヤンでもないのに、何でそんな髪型とかしてんだ」


「んー……、そうだね。それにはあたしの生い立ちから話さないといけないから、長くなるけどいいかい?」


「ああ」


 龍平は床から拳を離し、しっかりと椿佐を見据えた。


「実はあたし施設育ちでね。『羅武らぶえん』ってとこなんだけど、知ってるかい?」


「……知ってるよ」


「そこの園長先生がな、ヤンキーもん好きで、あたしは園長先生の友人夫婦に引き取ってもらったんだが、先生の友人もヤンキーもん好きで」


「そうなったのか」


「そういうことだね。子に恵まれなかった母さんたちは、女の子が欲しかった。でも、ヤンキーも好き。となれば、こうするのが最大の親孝行じゃないかと思ってね」


「……クソジ、いや、クソババァ」


「何だい?」


「……オレも『羅武園』の出だ」


「本当かい!?」


「ああ。オレは『立宮たてみやざい株式会社かぶしきがいしゃ』の社長に引き取られた。社ちょ……、親父もヤンキー好きだった」


「あっはっは! 何だかあたしら気が合うねぇっ」


「……もう一つ聞いていいか」


「ああっ」


「『にぎめし』は何で始めた」


「…………」


 椿佐は目を伏せると、寂しげに懐かしそうに笑った。


「物心ついた時には『羅武園』にいた。産みの親の名前も顔も思い出せない。だけど、それでいいと思った。あたしの親は一門いちもん夫婦ふうふだ」


「……」


「そして、顔はいかつかったけど優しい園長先生が作ってくれた、ボロボロのおにぎりが忘れられなくてね」


「ああ、あの海苔でちゃんと包んでなくて、食うと飯がボロボロこぼれてくるやつか」


「そうそうっ」


 二人は楽しそうにゲラゲラと笑った。


「初めてあのおにぎりを食べた時、あったかくて美味くて、思わず泣いちまってな。そん時に決めたんだ。将来はおにぎり屋をすると」


「……そうか。園長は来たかよ」


「ああ、来てくれたよ。もっと繁盛してから声をかけようと思っていたら、開店初日に一番目に並んでいてね、『喧嘩上等! 俺のおにぎりに勝てるか勝負だ椿佐!』と入ってきたよ」


「はっ、あいつらしいな」


「で、食べてくれたら『……お前はどこの頭だー! 名を名乗れー!』と叫んでうるさかったから、頭にチョップしといた」


「はははっ、ダッセー」


「でも、その後にな。『ありがとうな椿佐、最高の恩返しだよ』って、泣いてくれてね」


「……そうか」


「園長先生元気かねー」


「元気だろ、あのハゲなら」


「いい坊主頭だったよなー」


「てかっていたよな」


「ははっ」


 二人はしばらく、昔話に花を咲かせたのだった。


−−−−−−


 あとがき。


 いつか、園長先生も書けたらいいなーと思います。


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