第5握利 一門さんは笑い上戸みたいです。

「できたかよ」


「ああっ、できたよっ。待たせたね」


 椿つばはカウンターテーブルにさわらの五号用寿司桶を四つ置き、中に爆弾おにぎりをぎっしりと詰めた。


「すげー量だな……」


立宮たてみやみちさんみたいに人たちがいっぱいいるんだろ? もっとあってもいいぐらいさ」


 椿佐は寿司桶に蓋をし、その上に桶を重ねて、二つにした。そして、それを細腕で持ち上げようとし。


「おい、こら待て」


 りゅうべえに止められた。


「何だい?」


「桶に潰されてねーかよ。貸せ」


 龍平は寿司桶二段を両肩に担いだ。


「重くないかい?」


「こんなもん、いつも担いでいる木材に比べりゃあ楽勝だぜ」


「おー、男前だねー」


「……だけど! 形は崩れるかもしんねーからな! 勘弁しろよな!」


「ははっ、わかっているよ。じゃあ行こうか」


「……うッス」





 『にぎめし』から徒歩数分。

 龍平たちが働く工事現場の近くに、彼らが住むアパートはある。

 昭和レトロなアパート『やなそう』。瓦屋根と白壁の木造二階建てで、単身赴任者、龍平のような独身者が住んでいる。


「親方ー、持ってきたぜー」


 階段上がってすぐの部屋、二〇一号室のドアを、両手が塞がっている龍平に代わり椿佐が開けた。


「おー、椿佐さんっ、悪がったなー」


 部屋の主、みち冬茂ふゆしげが笑顔で出迎えた。


「いやいや、これぐらいお安い御用さ」


「鼻垂れは迷子にならながったが?」


「だーから! オレは鼻垂れじゃねー!」


「がっはっは!」


 大笑いしている冬茂は。


「冬茂! おめ邪魔だ!」


「うおっ!?」


 奥から出てきた丸刈りの熟年男に背中を押された。そして、冬茂がよろけた隙にぞろぞろと。


「おめが椿佐さんか!」


「俺だぢよりイケメンだな!」


「旦那はいるのが!? 子供は!?」


「俺のせがれの嫁に来ねえが!?」


 奥から体格のいい男たちが出てきて、椿佐を囲んだ。これには普段あまり動じない椿佐も。


「ははは……、どうも」


 たじたじである。


「親方たち、うっせーし邪魔」


 龍平は慣れているようで、男たちの暑苦しさを気にしていない。そして、高所作業用の安全靴を脱ぎ、ずんずんと進んでいった。







「じゃあ、椿佐さんとそのおにぎりにかんぱーい!」


「かんぱーい!」


 三合缶のビールやチューハイの乾杯で宴は始まった。

 畳部屋で鳶職人たちが胡座をかいて美味しそうに一気に飲んでいく。

 まる卓袱台ちゃぶだいの上には、寿司桶に入った爆弾おにぎりが載っている。


「これが噂の『握利飯』のおにぎりが! 美味そうだな!」


「食え食え! 美味えぞ!」


「冬茂が握ったんじゃねぇだっぺ!」


「がっはっは!」


 会話と酒が進む中。


「お? 椿佐さん、飲まねえのが?」


 椿佐は開けた缶ビールを一口も飲んでいなかった。


「いや、あたしはいいよ」


「そーたごど言わずに! 飲みねえ!」


 冬茂は強引に椿佐が開けた缶ビールを、彼女の口に押し当てた。


「いや、だからあたしは」







 数分後。


「あっはっは! やっぱりおにぎりは美味いなぁ!」


「がっはっは! 美味え美味え! 世界一のおにぎりだ!」


「そりゃ当然だろ! あたしが握ったんだから!」


「違いねえ!」


「あっはっは!」「がっはっは!」


 椿佐は缶ビールを半分も飲まない内にできあがってしまった。そして、冬茂と楽しそうに笑っている。


「……めんどくせー奴が増えた」


 龍平はペットボトルの炭酸飲料を片手に、おにぎりにかぶりつきながら、ため息を吐いた。


「立宮ぁ! 食ってるか!?」


 頬を赤くし酔っ払っている椿佐は、龍平の肩を抱いた。


「……食ってるっス」


「そうかそうか! あたしの握り飯は美味いだろ!」


「……美味ぇよ」


「あっはっは! 立宮はいい子だなぁ!」


 椿佐は龍平の頭をがっしがっしと撫でた。


「撫でんな! 子供扱いすんな!」


「あっはっは!」


「……マジでめんどくせー」


−−−−−−


 あとがき。


 道野がたくさん(笑)色んな意味で疲れます(笑)


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