第12話 トラブルメーカーがやってきた②

「お前が呪われるくらいなら、私がそうなっていた方がよかった。そうすればお前はずっと、私の我が儘に付き合ってくれただろう? お前がクロノス領に閉じ籠るようになって、私は寂しくて仕方なかった。誰も私の研究に付いてきてはくれない」

「普通の魔術師が、君の無茶に付き合えるわけないだろう。それに呪われた身の僕がいつまでも君の傍に仕えていたら、嫌がる者も多い」

「そんなの、私は気にしない」

「将来国を治める気があるのなら、気にしてくれ。君の世話役の後任として、ラウルスを魔術師団の団長に任命しておいただろう。実直な彼なら上手くやってくれてるはずだ」


(オルフェン様は、呪いにかかったからアスター様の傍を離れられたのね……)


「彼は真面目すぎる。融通きかないし! 申し訳なくて悪戯し辛いじゃないか!」

「僕にならいいのか!?」

「もちろん!」


 ぐっと親指を立てるアスターを見て、オルフェンは頭を抱えた。


 そんな二人の様子を見ていて、リフィアは彼等の関係性が少なからず分かった気がした。


(これはきっと、素敵な相棒というやつね!)


「影からの報告で、一時はかなり具合が悪かったと聞いた。お前が一枚でも鱗をくれれば、私が特効薬を作ったというのに」

「その必要はないよ。リフィアのおかげで、呪いも少しずつ解けている」

「それは誠か!?」

「リフィアには多分、神聖力が宿っていると思うんだ。アスター、聖女と関わりの深い王族の君なら、感じる事が出来ない?」


 オルフェンは、アスターを檻から出した。


「確認してみよう! フィア、ここに立ってもらえる?」


 部屋の真ん中に移動して、アスターがリフィアに声をかける。


「僕の妻を馴れ馴れしく愛称で呼ぶな!」

「人の名前は三文字あれば十分だろ? 長い名前なんて短縮した方がいいじゃないか」

「君のその効率主義のせいで、どれだけの女性が騙されて心を痛めた事か……」


 オルフェンの言葉を軽く受け流したアスターは、リフィアに手招きをする。


「ほら、フィア! ここに立って!」

「人の話を全く聞かない所も、本当に変わってないな!」

「聖女の誕生に立ち会えるなんて、心踊るじゃないか! ルー、お前は神経質過ぎる。細かいこと気にしてると禿げるぞ」

「ほんと君って奴はー!」


 二人のやり取りが面白くて、リフィアは思わず肩を震わせて笑いだしてしまった。


「り、リフィア……?」

「す、すみません、オルフェン様! 普段見られないオルフェン様の貴重な姿が見れて、とても楽しくて、思わず……っ!」

「ルーってすごく面白い奴なんだよ。フィアはよく分かってるね!」


 アスターに笑顔でパチッとウィンクされた。

 オルフェンにここまで気を許せる友人が居た事が、リフィアは素直に嬉しかった。


「非常に不本意だけど、リフィアが笑顔で居てくれるなら……いいや」


 恥ずかしそうに耳を赤く染めてオルフェンが呟いた。そんなオルフェンの姿に愛おしさを感じながら、リフィアは指定された場所に移動する。


「アスター殿下、こちらでよろしいですか?」

「うん、いい感じ! これを首につけて。鑑定用のペンダントだよ」


 透明のクリスタルが嵌め込まれた銀色のペンダントを受けとる。


「貸して。僕がつけてあげるよ、リフィア」

「はい、ありがとうございます」


 オルフェンが離れた後、アスターは内ポケットから魔法のタクトを取り出すと、手慣れた様子でリフィアの周りの床に魔方陣を描き始めた。寸分の狂いなく綺麗な円を描く様子を見て、リフィアはすごい技術だと目を見張る。


 記号のような古代文字が刻み込まれ、その場で待機すること約十五分。ようやく完成したようだ。


「よし、完成! 目を閉じて自然体のまま、そこから動かないでね」

「かしこまりました」

「星の導き手なる我、アスター・ヴィスタリアが命じる。慈愛を司る女神セイントラヴァーよ、森羅万象の理を解きて、かの者の真意を今ここに示せ」


 魔方陣が輝きを放ち、辺り一面が金色の光で染まる。やがてその光がリフィアの首につけたペンダントへと集約する。


「これは、想像以上かもしれない! フィア、もう目を開けて大丈夫。ペンダントを見せて」

「僕が外してあげる」

「はい、ありがとうございます」


 オルフェンはペンダントを外すと、それをアスターへ渡した。


「初めて見たよ、こんなに美しい輝きを!」


 金色に輝くクリスタルを見て、アスターは興奮気味に言った。


「それで、結果は?」

「フィアは間違いなく神聖力を持っている。しかも金色に染まるのは、大聖女の素質がある程強い力を持つ者だけだ。あぁ、こんなにも優れた聖女の誕生に立ち会えるとは、星の導き手としてこれほど誉れな事はない!」

「私に、大聖女の素質があるのですか!?」


 急にそのような強い力があるなどと言われても、何の実感もないリフィアは困惑していた。

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