2024年

29話  ぼっち魔女のところへ王子さまがやってくる、再び

 その、ぼっち(ひとりぼっち)の魔女は、森に隠遁いんとんしていた。

 ここ数年は欲求不満の解消に、そこらにある素材で、おはなしを編んでいた。

 編んだおはなしは、森の木の枝に飾っておいた。


 冬、森は雪に閉ざされている。しゃんしゃんしゃんと鈴の音がするので、結露した窓をぬぐって外を見ると、馬が引いたに、見目好い青年が乗っていた。


「こんにちは。君、まだ、近況ノートのコメント欄、閉じているんだね。ここ、また、スタンプラリーの通過点にするからね」


 青年がかぶった毛皮の帽子の頭上には、金色の星の冠が、またたいている。


(あの星は詠み人のしるし)


 冠を装着してから毛皮の帽子でなく、帽子の上に冠なんだ。わたしだったら、帽子の下に冠だ。もともと冠とは頭まわりに合わせる。もこもこの毛皮の帽子の上では冠は、のっているだけではないか。それを落とさずに、そりを操る青年は、相当の修練を積んだにちがいない。魔女は深く感銘を受けた。


「これをあげておくね」

 青年は魔女にスタンプラリーの台紙を、また、さしだしてきた。


 はがき大の台紙には、ぼっちの魔女の住まいを含めた、いくつかの場所がイラスト入りで明示してあった。


「あ、ありがとうございます」

 魔女は扉のロックをかけたまま、隙間からスタンプラリーの台紙を受け取った。


 台紙の裏を返すと、つまりは、

『ぼくがいいなと思った、森のおはなしを巡るスタンプラリーを作ってみたよ。〈カクコン9&短編賞〉の祝典を楽しもう!』ということだった。


「全部、巡ったらご褒美をあげるよ」


 青年のほほえみに、上気した魔女は叫ぶ。

「それ! とかですよねっ。絶対、王子の、とかですよねっ!」


「ちゅう、でもいいけど」

 青年の、うすく氷が張った冬の湖のような瞳が、やがて来る春の日差しを先に宿した。

「それだけで君はいいの」






 ※拙作『デッサン!』をスタンプラリー企画に呼んでいただきました

  その時の気持ちを完全無許可で おはなし仕立てで 再び つづってみました

  なお キャラクターの口調などは創作であります

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