17話 どらいぶ・まい・かー
「『どらいぶ・まい・かー』、が観たい」
とある夏、若君が言った。
「どらいぶいん?」
Mは問い返した。映画だった。
市内の映画館でやっているかな。
ネットで調べる。
あっ、やってる。
でも、明日で上映終了。
ちーん。
明日は若君、予定があるね。
上映時間も1日のうち、1回こっきりしか上映していないし。
〈PG12〉、かかっているし。
うーん。
「残念。明日で終わりだって。あんまり人気なかったのかな。どこも2ケ月で打ち切りだよ」
「そっか……」
若君はあきらめた。
かに思えた。
その週の土曜日の夜。
遅い夕食。出先で、家族で、蕎麦屋のざるそばをすすっていると。
「やっぱり、観に行きたい……」
若君が言い出した。
原作、俳優、設定、すべてに刺さる映画であるらしかった。
日頃、かもくな若君がアツく語っていたな。
実は、隣りの隣りの街に行けば上映している。
明日まで。
そんな、もういいって言っておいて、ぎりぎりのわがまま。
それも、夜、遅い部しかやってないんだよ。1回こっきりさ。
『どらいぶ・まい・かー』、人気なさ過ぎ。または、夏休みの他の映画に押され過ぎ。
そのうえ〈PG12〉指定。
いらいらしながらも、父親に同行させることにした。
さすがに、母親が、いっしょに観るという選択肢はなかった。単に、鑑賞代が高いなとの思いも強い。
そして、観終って夜中に帰ってきた若君は、実に、うれしそうだった。
若君が風呂に入っている間に、父親に〈PG12〉部分について聞く。
「うーん。大丈夫じゃない?」という、お返事。
※ネット検索すると大丈夫には個人差あり
しかし。
「主人公の奥さんが、えくすたしーを感じると、お話が浮かぶって人でさ――」
と、翌日から聞かされた母親の立場になってみろ。
※若君は原作本を読了している
それにしても。
後日、この映画は海外の名誉ある賞をとった。とたん、全国の映画館に上映がかかった。報道も引きも切らず。
これから、こぞって、みんな観に行くんだ。半年前、2カ月で打ち切られた映画!
必死で最終日に観に行かせたのが、もー、徒労じゃん。
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