11話  焼きタケノコ

 もうすぐ、焼きタケノコの季節だね。(誰に言ってる)


 若君が春になると言う。

「あの焼きタケノコが、おいしかった」


 彼が言っているのは、〇山公園の露店の〈焼竹の子〉のことだ。

 割りばしに、タケノコ先端部分、縦割り四分の一カットがささっている。


 一本の代金を見て「たかっ」と思ったから、若君だけにうた。


 まぁ、古都、この春の季節に何べんも来れるわけでなし。

 子供への投資だと思って。


 子供の頃に食べたものが、「あれ、おいしかったなー」と、何十年たとうが思い出すという、人の仕組みをMは知っている。


 そして、その目論見は当たる。



「あの、焼きタケノコが、おいしかったな」


 あの頃より背の伸びた若君が言い出すと、春が近い。

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