8話  原始のちから

 今は昔、ころなが流行していない頃の、おはなしだ。


〈日本画を描いてみよう〉という、ワークショップがあった。

 しろうと(小学生)が、本格的な日本画の画材を使って、小さな作品を仕上げるという会だ。


 Mは、若君を参加させた。

 彼の絵心は、〈びみょう〉だったから。


 会の終わりに、教室を覗く。


 せんせいが、若君の描いた絵(パネル貼り)を見ている。

 彼の描いた絵は、〈黒猫が背中を向けて丘の上に座っている〉という情景だ。


 日本画の画材の色調は淡い。

 紙に、のせるのにも苦労したという。


 お世辞にも、うまくない。


 だが、せんせいは、

「いいねー。いいわー。うん。いいねー」を繰り返す。

 それは、子供への〈よろこばし〉でない声色。


 Mは、せんせいの絵を知っている。

 ガチ繊細な画を描く人である。


「たぶん」

 帰り道、Mは若君に言う。


「せんせいは君の絵に〈原始のちから〉を見たんだと思うよ。昔、原始の人が、うちゅうを思って洞くつに描いたような絵を見て、初心を思い出したんじゃないかな」



 うまくなってしまった人には、描けない。

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